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159・いよいよ出発

「___よしっ、俺の読み通り、今日からしばらく、雲のない晴天が続きそうだ。」


「じゃあ、そろそろ_____」


 荷物を全てまとめた遠征メンバーは、雪のない茶色い地面を踏みしめ、王都のある方向を向く。

王都に着くまで、短く見積もっても、約半月はかかる。

 だが、これでもまだ早い方である。


 荷物があるぶん、速度が遅くなってしまうが、洗礼された遠征メンバーなら、翠でも簡単に荷物を

 運べる。

翠一向も、一段と逞しくなった。


 途中、色々と村や町を渡って、今それらの場所がどうゆう状況になっているのか、確かめる。

それも、グルオフ(正当なる王家)の務めである。

 立ち寄った場所で困っている人がいたら助力をする。

そこでも手に入るのなら、戦力や食料が追加したい。


 そこまで都合のいい事にはならない・・・と、翠達は思っている。

だが、偽・王家への対抗心が高まっている今なら、味方になってくれる人もいる筈。

 そこまでグルオフは読んでいたのだ。


 今の王家(偽・王家)に味方するのは、もう僅かしかいない。

せいぜい、偽・王家に『首輪で繋がれた貴族・王族・兵士』くらいだろう。

 しかもその首輪も、『誠心誠意の忠誠心』ではない可能性が高い。

『家族』や『家』を人質にされ、仕方なく動いているだけの兵士もいるかもしれない。


 里に逃げ込んできた人々の証言からしても、それは明確であった。

なら、道中で仲間を増やすことも、容易いのかもしれない。


 まだ王都から派遣された兵士達が、あちこちの村や町に居座っている可能性もあるが、とりあえず

 行ってみないと分からない事が多すぎる。

グルオフの、『その場の強さ・その場の判断』で動く。それが翠達の仕事である。


 当日の体調もみんな安定している為、荷物さえ整えば、すぐに出発できる段階。

若干みんな寝不足ではあったが、これは妥協しないといけない。

 誰だって、『大きな事をやる前日』は、緊張してソワソワしてしまうものである。


 特にグルオフは、寝る直前まで、作戦の全容を確認していた。

それは単に眠れないからでもあるが、やはりこの作戦の重要性を、一番受け止めているのがグルオフだから。


 もちろん、翠達も全力で取り組む準備は万全である。

今の今まで、グルオフのみならず、国民達を振り回し続けた偽・王家には、きっちり落とし前をつけてもらう。


「じゃあ兄さん、行ってきます。」


「リータ、何度も言うけど、命だけは自分で守るんだぞ。」


「もうそんな弱い僕じゃないよ。兄さんだって見たんでしょ?」




 弟であるリータが、相手と武器で戦いあう光景が、なかなか想像できなかった兄。

だから兄の為、リータも何度か、丘の上で特訓を行い、兄に自分の戦いぶりを見せてあげた。

 里の仕事で色々と忙しいなかでも、兄のために時間を割いていたリータ。


 いつの間にか頼もしくなっただけではなく、効率よく動けるようになった弟に、若干焦りを感じて

 いる兄。

ほんの少し前まで、訪問者であった翠と喋るだけでも、兄が色々と気を利かせないと、リータも会話に入れなかった。


 そんなリータが、もう今では、自ら翠と会話をして、互いに楽しんでいる。

その微笑ましい光景を見てしまうと、弟が戦えるか不安になってしまうのだ。

 強くはなったが、性格は以前と変わらず、優しくてちょっぴり臆病。

そんなリータが戦う姿が想像できない兄、その気持ちは翠達にもよく分かる。


 だが、彼は決して弱くない。仲間のピンチになれば颯爽と刃を振るい、常に相手を見極めている。

最初にザクロとぶつかった時、率先した翠を守ったのはリータだった。

 ザクロにはまだ敵わないものの、リータもリータで、かなり互角である。

リータの激しく動き回る姿を見た兄は、思わず口を開けたまま、固まっていた。


 兄の意識がようやく戻ってきた頃には、ヘトヘトになったリータが、その場にぶっ倒れていた。

リータの戦闘技術も上がったが、『体力』もかなり上がった。

 ヘトヘトになっても、少し休めばまた動けるようになる。

その分食べる量も増えて、リータの兄は遠征直前まで、戸惑いを隠せずにいた。


 だが、それはリータも同じである。

少し前まで、自分よりも遥かに大きく見えていた兄が、今では自分よりも小さく見えてしまう。

 あれだけ頼りきっていた存在なのに、今は兄に頼られるようになった。


 それが、リータの『頑張っていた理由』でもあり、『大いなる成長』でもあるのだが、何故か釈然

 としない自分がいた。

望みは見事に叶ったはず。なのに、心がモヤモヤしてしまう。




 翠一行は、個々に『それぞれの目標・望み』を胸に、それぞれが頑張っていた。

しかし、望みが叶っても、スッキリはしない。むしろ、新たな葛藤が生まれてしまう。


 リータも クレンも ラーコでさえも

『たくましくなった自分』 『憧れていた組織』 『もう会えないと思っていた弟との再会』


 それらの願いを叶い終えた先が、不透明になってしまった。

むしろ、自分達の願いが、ここまであっさり叶ってしまうとは、思いもよらなかったのだ。


  一番、望みの成就に満足しているのは、翠くらいである。

今現在、彼女が問題解決に積極的なのは、学生時代には築けなかった『友情』や『愛情』を手にする

事ができたから。


 それらを手にした翠は、完全な『無双状態』

グルオフの右腕として、仲間を多く引き連れ、どんな強敵にも立ちはだかるような、たくましい女性に成長した。


 根暗で、内気だった彼女は何処へやら。翠自身も、過去の自分を忘れる事が多くなった。

それくらい、翠の孤独だった頃の『苦しみ』や『悲しみ』は、転生しても尚、彼女のもとから離れな

かったのだ。


 逆に考えれば、クレン達に出会わなかったら、今の翠はなかった。

こんな『歴史的な転機』も訪れなかっただろう。

 たった1人の行動の変化で、国や歴史が動くのは、旧世界も同じである。


 もし、あの武将が裏切らなかったら もし、あの発明家が世に発表されなかったら

 もし、あの国の長が命令を下さなかったら もし国の民が立ち上がらなかったら


 翠は、そんな重要な『転機のキーマン』である。

本人にその自覚はないが、今の翠は、せっかく手にした大切なものを守るために頑張っている。

 そして、自分を受け入れ、見守り続けてくれたこの国を守る為、偽・王家へ武器を向ける。

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