表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/237

158・辛いけれど 悔いのない選択を

「___自分は、ミドリが好き。

 でも、自分より、ザクロの方が。彼女を幸せにできる筈。

 もう既にミドリとザクロは、相性ぴったりだ。そんな間に割り込めるような度胸、自分にはない。


 _____最近では、ザクロと一緒にいるミドリを見ているのが楽しみになった・・・というか。

 いや、そこまで深い意味はない。

 ただ、ザクロにはミドリが必要な事が、一緒にいる光景を見ていれば、何故か分かるんだ。


 ___いいや、ザクロに対してだけじゃない。ミドリにも、ザクロともっと一緒にいてほしい。

 ザクロとミドリには、もっと色んな世界を見て、もっと色んな食べ物を食べて、もっと・・・」


 心境を打ち明けるクレンのまなこからは、熱い涙が溢れ出ていた。

本人は無自覚だが、止まることなく流れる涙は、握りしめている拳に着地する。

 クレンは、自分の心境に、嘘をつきたくはなかった。


 『ミドリと一緒にいたい気持ち』と、『ミドリには幸せになってほしい』という気持ちが、里に来

 る前は、平行線のまま戦っていた。

しかし、シキオリの里に来て、ザクロに出会ってから、その戦いに、ようやく終止符が打たれようとしている。


 クレンにとっては、間違いなく『苦渋の決断』である。

だが、彼の抱える悩みは、『彼自身の問題』ではない。

 どんなに好きな相手だとしても、相手は自分とは違う、『他者』

『他者を幸せにする事』は、時として、『一方的』になる事だってある。


 そんなクレンが、自分自身で導き出した答えは、『他人行儀』ではあるのかもしれない。

しかし、彼女とザクロが共に過ごす日々を、ずっと隣で見ていたクレンにとっては、それが‘『最良の選択』である事に気づいたのだ。


「___なんか、ごめんなさい。こんな自分勝手な悩みなんて、今抱えるべきじゃないのに・・・」


「__________




 そんな事ない。」


 ラーコは、弟をギュッと抱きしめてあげる。

彼は一瞬唖然としてしまったが、すぐ姉の方に顔を預けた。


 彼の温かい涙が、ラーコの肩に染み込む。火傷しそうなくらい、熱い涙だ。

ラーコは、弟の選択に対し、決して『間違い』とも言わず、『正しい』とも言わなかった。

 その選択が、彼の精一杯の決断なら、姉であっても文句はつけられない。

それに、クレンの選択は、あながち間違ってもいない、そうラーコも感じていた。




 長い間、クレンはずっと翠の側にいた。そんな彼だからできる決断は、あまりにも優しすぎた。

翠自身がどんな道を歩むかは、まだ分からないものの、クレンは自分の意志を曲げるつもりはない。

 だが、『全然悔しくない』とも言い切れない。

クレンは翠の『歴とした古参』として、彼女の隣に居続けたのだ。


 古参だからこそ、翠をよく見て、よく理解している。

それもまた、クレンの心を締めつける要因になっていた。

 彼女を誰よりも知っているからこそ、辛い決断を下さなければいけない。


「_____クレン、あんたは良い子に育ったよ。」


「___えへへっ、ミドリさんのおかげだね。」


 泣きながらも、懸命に笑みをつくるクレン。

彼を抱きしめているラーコには見えないが、彼が相当無理しているのは、体の震えからでも分かる。

 彼の『初恋』は、彼らしい形で終わりを告げてしまったが、クレン自身は満足している。

それくらい、沢山の『宝物(思い出)』を、翠からもらったのだ。


「___ふっふっふっ」


「なんで・・・姉さんまで・・・」


 クレンの優しさは、姉の心に深く染みこんだ。

ラーコにとっては、クレン成長が、自分の成長にも見えるのだ。

 しかし今回の場合、『大人になっていく弟』に、先を越されたような気分になるラーコ。

だが、クレンの複雑な心境は、とても立派である。


 『恋』という『盲目的な病』は、時として相手を傷つけたり、取り返しのつかない事態にもなる。

特に、『自分と結ばれるのが当然』と思い込んでいるのが、一番恐ろしい。

 例えるなら『ストーカー』である。


 「相手には自分が一番相応しい」 「自分以外の恋人なんて、幸せにできる筈がない」

そんな自分勝手な考えは、もはや恋ではない。『支配』や『独占』だ。

 本当に相手を思っているのなら、できる事は沢山ある。『親心』と、少し似ているかもしれない。

クレンは、翠の今後を考えた結果、自分ではなく、ザクロにその隣を譲ったのだ。


「クレン、あんたは凄いよ。ちゃんとミドリの幸せを、ずっとずっと考えていたんだもんね。」


「___それが果たして、彼女のためになるのかは、分からないけど。」


「あんたがミドリを思う気持ちは、正真正銘なものよ。もっと胸を張りなさい。」


「姉さんがそう言ってくれるなら・・・」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ