表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/237

157・仲間の未来を考えた 少年の決断

「___姉さん。」


「何? お腹空いたの?」


「いや、違うんだ。そうゆう話じゃなくて・・・・・」


 突然作業の手を止め、姉を見つめるクレン。

その表情から、只事ではない雰囲気を感じたラーコも、結んでいた縄をもう少し強く結んだ後、弟の隣に座った。


 まだ遠征には数日あるが、今日で仕事が終わりそうなら、徹夜してでも続けてしまう。

ザクロの見立てによると、山を抜ける為の道が、安全に通れるようになるまで、あと数日はかかる。

 だが、気候の変動によって遅れる可能性もある。


 ザクロは遠征を決めたその日から、毎日城壁で道の様子を確認していた。

ザクロの視力なら、かなり遠くの地帯に雪が積もっているか、倒木があるか、すぐ確かめられる。

 最近の気候はほぼ安定している為、計画通り、近々遠征ができる。

だからこそ、皆の準備にやる気が出ているのだ。


「___なんか、不思議な感じだよね。

 あとちょっとで、この里から離れなくちゃいけない・・・なんてさ。

 私達、もうすっかりこの里の一部になっちゃってるし。」


「_____そうだね。」


 ラーコの言葉にも、なあなあにしか返事をしてくれないクレン。

いつもなら、何か考え事があっても、彼は人の話はちゃんと聞いている。

 そんな彼でも、心に余裕がない心境、姉であるラーコが心配しないわけがない。


「___クレン、今のうちに、言っておきたい事は言っておいた方がいいよ。

 大事な事の前に、色々と考えていると、作業に支障が出る。」


「でも・・・・・」


「この遠征は、おふざけじゃないの。

 グルオフだけじゃなくて、私達アメニュ一族の行く末が決まる。

 そんな大事な仕事に、考え事まで持っていくわけにはいかないでしょ?」


「_____はい。」


 ラーコの目は、やはり誤魔化せなかった。

クレンの抱える気持ちが、もう既に彼を引きずっている事も、彼女は見抜いていた。

 そして、姉の言う正論に、クレンはタジタジだった。


 決して、言うのが恥ずかしかったわけではない。

ただ、この気持ちは、自分の中に留めておきたかったのだ。

 だが、それも無理だった。

それくらい、『クレンの下した決断』は、彼の今後に大きく関わる事だった。


「___自分さ、『諦める』事にしたんだ。」


「__________は??? 『諦める』って・・・・・何を??!

 事と次第によっては、私がクレンの胸ぐら掴むんですけど??!」


「違うって!!! 今回の作戦には全然関係なくて・・・・・

 というか、関係・・・・・あるのかな、分からない。」


「そんなのはどうでもいいから、何を『諦める』の??!」


「_______________




 ミドリ。」


「_______________


 ___それは・・・・・」


「ね、今回の作戦には関係無いでしょ?」


「___作戦には関係無いけど、『あんたの姉』として関係あります!!」


 ラーコの堂々とした発言に、クレンは完全に折れてしまう。

確かに、姉であるラーコにとって、『弟がミドリを諦めた』というのは、聞き捨てならない。

 元々クレンは、意志が弱いのか、それとも何か考えがあるのか、あまり自分の発言はしない。

そんな彼が、自分で下した決断を打ち明ける・・・なんて、今までにない事。


 しかも、まさか打ち明けた内容が、『諦める』事。

予想外すぎる内容ではあるが、気になる事にかわりない。クレンは少し恥ずかしがりながらも、姉に打ち明ける。


 その悩みは、以前からずっと、クレンが抱えていた問題だった。

だが、その問題に直面する事もなく、『譲った』のだ。他ならぬ


 『ザクロ』に。


 ザクロにも、まだクレン自身の気持ち打ち明けていないが、彼なら翠を任せられるのは、里での生

 活で歴然だった。

だからこそ、クレンにもスッパリと決心がついたのだ。


 ウジウジと悩み続けている自分自身が嫌になったのもあるが、やはり『自分より優れている相手』

 を目にすると、色々と考えがまとまる。

クレンの心に溜まったモヤモヤが、里での生活で徐々に消えていった。


 自分より優れている相手は、時として『嫉妬』を生んでしまう事もあるが、逆に考えがまとまる時

 もある。

特に、相手が純粋だと、もう入り込む隙がない。


 『純粋』にそのスポーツを楽しんでいる 『純粋』にそのアイドルを応援している

 『純粋』に自分の仕事に誇りを持っている 『純粋』に自分の大切なものを守りたい 


 『純粋』に恋人が好き


 そんな思いを前にすれば、自分の気持ちを疑いたくなる。


 共にいる時間を、『純粋』に大切にできるのか 相手を『純粋』に応援できるのか

 『純粋』に、相手を誇りに感じているのか 『純粋』に、相手を守れるのか


 『純粋』に相手を     翠を

 愛することができるのか。


 その気持ちが、ザクロに勝っているのか、それとも・・・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ