153・作戦の全容
まず、グルオフの立てた作戦は・・・・・
1・村や町を経由しながら、戦力も増やしつつ、王都へと向かう。
2・城から一番離れている地下通路は、王都の外にある『隠し階段』
そこから城の内部へと侵入
3・なるべく城の中を巡回している兵士達に見つからないように、偽・王家の元へ行く
とりあえず、発見した偽・王家は拘束して、その後のことは後に考える
※あくまでも、今回の目的は『偽・王家のみ』
一般人や兵士は、極力巻き込まない。
もし、こちらの事情を理解して、味方になれる戦力は、率先して取り入れていく。
大まかな流れを話した後は、『連れていく仲間』と、『里に残る仲間』の選別。
今回の作戦は、必ず成功させる意気込みではあるが、『万が一』を考えると、やはり里に少しでもいいから戦力を残しておきたい。
それに、雪解けを終えた里にも、野良モンスターが侵入して来るかもしれない。
もちろん、出発する前に色々と対策は練るが、ビッグフットの時と同様、突然強靭なモンスターが
里に転がりこんでくる可能性もある。
その時の為に、ある程度戦える住民は、里に残しておきたい。
グルオフが皆の意見を聞きたいのは、その『残る側』の選別。
里の住民は全員頼もしい、誰が残っても、誰を連れて行っても、大きな力になる。
だからこそグルオフは悩んでいるのだ。
グルオフがその話をしている最中、攻め入る側の翠達は、今のうちに自分達サイドの計画を練る。
地下へと侵入する隠し階段の情報は、ラーコが持っていた。
かつてグルオフとラーコが隠れ住み、燃やし尽くしてしまった階段自体、まだ残っている。
やはりしっかりしている構造上、あの大火でも全壊することはなかった。
それを『再利用』しただけなら、侵入も容易い。
だが、やはり行ってみないと分からない為、油断はできない。
里に逃げ込んできた、複数の兵士達からの情報では、ゴミや資材で階段が隠されているだけで、頑
丈に施錠はされていない。
その理由について、ラーコはこう推察した。
「『出入り口を塞ぐ』って、相応のメリットもあるけど、当然デメリットもある。
城に反乱軍が攻めこんで来たとき、地下の出入り口が限られてしまうと、脱出が困難になってしま
うでしょ?
それに、下手に出入り口に細工をすると、外部に情報が漏れる可能性が高いの。
ほら、細工する資材とか道具とかを持って、人が行ったり来たりすると、目立つでしょ?
あの地下通路は出入り口が多いから、『人目のつかない場所』なら、そこまで拘る必要はない。
___まぁ、他にも地下通路に通じる場所はいくつか知っているから、もしそこが塞がれていた
ら、無理せず別の場所に行くことにしよう。」
やはりこうゆう時、情報に優れている仲間の存在は大きい。
ラーコが1人いるだけで、先陣班の話し合いがスムーズに進む。
・・・いや、意見をしているのは、翠達一向のみ。
ザクロを含めた他のメンバーは、彼女達のやり取りを聞きながら、自分達のポジションを確認する。
そんな状況が、ちょっぴり不安になったのか、ラーコはザクロに質問を求めた。
「ザクロ達も、じゃんじゃん質問とか意見とか言っていいんだよ?
逆にそうしてもらわないと、当日になってからでは遅いこともあるし・・・」
「いや・・・・・意見は全部、翠達が言ってくれる。」
「___じゃあ私達は一旦休憩にはいりますかー」
自分達がいると、周りの意見が流れてしまう。
そう思った翠・クレン・リータの3人は、一旦部屋から去る。
ヒートアップして作戦会議に熱中していた3人は、外の寒さが異様なほど冷たく感じていた。
雪解けを迎える里では、もうあちこちで茶色い土が顔を出し、緑色も目立つようになる。
そして里の外側では、夜行生物がウロウロと徘徊するようになった。
明らかに、風が通った時とは違う『木や草の揺れ』や、『枝が折れる音』が、あちこちでする。
「・・・外に出たついでに、里の巡回もしませんか?
野良モンスターも厄介ですけど、そろそろ野生動物も視野に入れて巡回しないと、畑が荒らされる
そうですよ。」
リータの発言に、片手を夜空に向けて上げる2人。
もう既に里の家々には、里を野生動物から守る『柵』や『罠』が立てかけられている。
雪のない里もじっくり見たかった翠達だが、「今年だけ我慢」と、互いに言いあっている。
「リータの話では、この里では『雪の季節』と『緑の季節』しかないみたい。」
「何でなんだろう? 地形とかの関係かな?」
「さぁ・・・・・
あともう一つ、ザクロから聞いたんだけど、この里で野菜とかが美味しく成長できるのは、『土の
質』と『土の温度』が関係しているみたい。
詳しいことは、ザクロにも分からないみたいだけど・・・
とにかく、こんなに不思議で、過ごしやすい場所は、国中を探しても見つからないよね。」
そんな翠の呟きに、クレンもリータも頷く。
里からしばらく出ていく事を考えると、急に不安になる3人。
もう既にこの里は、3人にとっては『故郷』同然の、大切な存在。
そんな心地良い場所から出ていくのは、勇気がいる。
だが、偽・王家をどうにかしないと、この里の存続も危ぶまれる。
翠だけではない、ザクロの祖先も頑張り続けている。
だからこそ、翠達も全力を出しきる覚悟をしている。
里だけではなく、この国を守る、そんな大事な戦い。
一体どんな結末になるのかは分からないが、それでも戦うしかない。
転生者である翠も、この国は絶対に守りたい。もっとクレン達と一緒に過ごしたい。
グルオフが導くこの国の未来を、おばあちゃんになるまで見届けたい。
『高校受験』の時よりも緊張している翠だが、緊張を大きく上回る感情がある。
それは『やる気』
もうどう転んでもいいから、とにかくやる。
それが、一番後悔しない生き方である事を、翠は転生したこの国で学んだ。