151・会議開始
「ふぅー・・・・・よいしょっと・・・」
座布団に腰を下ろした翠は、自分の首をグルグルと回す。
さすがの翠でも、『仕事』と『特訓』の両立は大変なのだ。
本人はまだまだできるつもりでも、体はすぐに訴えてくる。
そんな翠を心配しつつ、ザクロはようやく話を始めた。
「よし、みんな集まったな。
じゃあ・・・もう分かっている奴はいると思うが、俺がみんなに聞きたいのは
『今後』の事だ。」
ザクロのその言葉に、(とうとう来たか・・・)と思う住民もいれば、(ついにこの時が・・・)
と思う住民もいる。
彼はその一言だけを言うと、後ろで待機していたグルオフに、席を譲る。
ほんの少しの間で、グルオフはすっかり『長』としての顔になり、凛々しくなっていた。
翠達も、いつのまにか急成長をとげているグルオフに、時折(誰たったっけ・・・?)と思う時がしばしば。
グルオフはもう、この国をまとめ上げるにふさわしい『国王』として、そのスキルをこの里で学ん
でいた。
『一つの国』と『一つの里』では、規模がかなり違うものの、彼は短期間で、この里のリーダーになってしまった。
前のリーダーであったザクロも、グルオフが新たなリーダーになる事を、心から喜んでいた。
普通は嫉妬したり、何かと『後継ぎ(グルオフ)』に世話を焼くものだが、グルオフは誰に言われる事もなく、リーダーとしての勉強や研究に熱心だ。
将来有望な彼を見ていれば、ザクロも自然と身を引いてしまう。
長の辞退は、少し寂しいザクロであったが、彼にはまた『別の仕事』がある。
それは、翠と一緒に、里の住民達の戦闘スキルを上げること。
長としての仕事はグルオフが適任なため、ザクロは思う存分、特訓に精が出せる。
だがグルオフなら、この里のみならず、国を治める国王として、国外でも立派に活躍できる素質と
実力を兼ね備えている。
それは、誰の目から見ても明らかだ。
そんな彼を、王座に戻らせる時は、もう近い。それくらい里の戦力も、技術力も上がったのだ。
もう戦闘要員のザクロが里を離れても、里にちょっかいを出しにきた野良モンスターなら、もう他のメンバーでサクッと倒せる。
今回の集会の目的は、その『王座奪還作戦』を練るため。
「突然皆を呼び出した事、お詫びする。だが私は、随分前から、ザクロと話を重ねてきた。
「総攻撃を仕掛けるのはいつがいいか。」「里に何人残して、出撃するべきか。」
「荷物はどれほど必要か。」「経由する村や町は、どのくらいか。」
色々と私の方でも、段取りや作戦は組んできたが、やはり実行するのはあなた達。
だから、あなた達の意見を、できる限り取り入れたい。
___私の件に、君たちは全く関係ない。
だがこれ以上、この里に避難してくる人が触れれば、当然今の王家の耳にも入ってしまう。
里が賑やかになるのは構わないが、今の王家は、何をしてくるのか分からない。
最悪、君達だけではなく、この里自体を潰しにくる可能性も捨てきれない・・・」
全員が恐ろしくて、ブルッと身震いする。
だが、グルオフは決して大袈裟に言っているわけではない。翠達が、一番それを分かっている。
偽・王家にとって、この里は最も不愉快な存在。
逆に考えれば、この里を潰すだけで、彼らに歯向かう勢力や流れを、一瞬にして消し去る事ができ
るのだ。
だから、もし偽・王家が総力を上げて、この里を襲撃するような事があれば、もう後がない。
里に避難してくる人々の話では、まだ偽・王家は、この里の存在に気づいていない。
だが、それも時間の問題である。
旧世界で、『情報漏洩の恐ろしさ』を授業で学んでいる翠に関しては、集まった住民のなかで一番
ハラハラしている。
そんな彼女の様子を見て、側にいたリータやラーコが宥める。
だが、宥めている2人も、内心穏やかではなかった。
いつ偽・王家が突撃するか分からない、そもそも、いつ気づくか分からない、どこから里の情報が漏れるか分からない。
『いつか来るかもしれない』という恐怖は、ある意味『地球滅亡の予言』とよく似ている。
「今年、地球が滅びる」と大々的にキャスターが言っても、結局のところ滅ばない。
だが、それでも人々が預言を恐れるのは、(いつか滅びるかもしれない)という不安。
『地球滅亡の予言』だけではない、『天災』も、いつ来るかわからない。
だから、もしもの時の為に、『防災グッズ』は日々進化する。