149・『今後』
翠とラーコは、修飾の後片付けを終えた後、鬼族の屋敷へ向かう。
クレン・リータ・グルオフは、既に屋敷で待機している。
突然の呼び出しを受け、ちょっと困惑している5人に対し、里の住民達はザクロが何を言いたいの
か、検討がついている様子。
翠とラーコは、一緒に後片付けをしていたスライムのお姉ちゃんに話を聞いた。
「多分、『今後』の話だと思うよ。
王子様としても、これ以上停滞しているわけにはいかないと思うし・・・」
「_____?」「_____?」
「あのね、これから『雪解け』が始まって、地面が顔を出すの。
そうすれば、移動が簡単になるでしょ?
多分、そのタイミングを狙って・・・」
翠もラーコも、ハッとして口に手を当てる。
そう、ザクロもザクロで、色々考えていたのだ。
今のこの現状を維持しているだけでは、グルオフを王座に座らせる事はできない。
やはり、『直接』王座に座らなければ、グルオフはずっと中途半端な場所で立ち続ける事になる。
里ではもうすっかり『王族』としての扱いを受け、グルオフもそれに応えようと、一日中里を走り
まわっている。
だが、もう彼は十分すぎるくらい、この里に貢献している。
だからこそ、今の里が総力を上げれば、偽・王家のもとへ向かえる。
今までグルオフ達が里へ貢献してきた結果、偽・王家へ刃が届くようになったのだ。
そしてグルオフには、更なる未来にむかって、王家に返り咲いてほしい。
グルオフをこの里にとどめていくのは、非常にもったいない。
彼は、この国の外へも羽ばたける、そんな優秀な人材。
翠も、王座にその身を預けるグルオフの姿を見てみたい。
(きっと彼なら似合う!!)という、よく分からない自信がある。
その為に頑張ってくれる人材も、勢力も、もう十分そろっている事。
ザクロは、もうそこまで考えがまとまっていたのだ。
「まぁ、まだ話し合いが始まったわけじゃないんだけどさ。
私は、ザクロが話したい事が、『今後の事』だと思うよ。」
「__________」
「___ラーコ、なんか変な顔してるよ。」
「___ミドリ、分かる? いや・・・なんか・・・
彼が、まさかそこまで考えていたなんて・・・びっくり・・・というか・・・」
「ラーコ、それ失礼。」
「あははははっ!! まぁ2人が言いたい事は分かるわよ。
でも、彼をあんまり甘く見ない方がいいわよ。」
「いやいや、甘く見てませんよ。特に私は・・・」
翠がそう言うと、スライムのお姉ちゃんも、ラーコも、「あー・・・」と言いながら納得する。
ある意味、この里でザクロを一番よくわかっているのは、翠なのかもしれない。
彼の『得意とする闘い方』も、『苦手な闘い方』も、いつの間にか熟知していた翠。
だが、彼が並大抵の戦闘力ではないのは、初戦だけでもよく分かる。
翠達が思っている以上に、彼がよく考え、ちゃんと里の事を考えていることを知ったのは、里で暮
らしはじめてから分かった。
そして、彼は思っている以上に繊細で、尚且つ周りを意識している。
見た目はかなり豪快で、恵まれた体格からは、ちょっと想像できない。
だが、翠はそれを「彼らしい」と言っている。
もはや里で、翠に敵う存在はザクロしかいなくなってしまった。
一番古参であるクレンでさえ、ザクロや翠に敵わないのだ。ならもう周りは諦めるしかない。
「_____ミドリ。」
「ひゃあっ!!!」
突然後ろから声をかけられ、飛び跳ねた翠。
ラーコやスライムのお姉ちゃんは、持っていたお皿を落としそうになりながらも、頑張ってキャッチした。
3人を呼びに来たのは、話題にしていたザクロ。
「来ないから、心配だったんだ。」
「ご、ごめんごめん!! もうすぐ終わるからさ!!」
気がつくと、後始末を始めたのは夕方だったのに、色々と話しこんでいたら、もう真っ赤に燃え上
がる夕日は山の中に隠れていた。
時間を忘れて話しこんでいたら、ザクロが痺れをきらしてしまったのだ。
どうやら、『女性は話が長い』というのは、人間でもモンスターでも同じらしい。
そして、そんな女性陣のおしゃべりにうんざりする『男性』も、人間とモンスターで変わらない。
「今まで何故、モンスターと人間を区分していたんだろう・・・?」と、率直な疑問を持つ里の人
間も少なくない。
一緒に暮らしてみれば、大した違いなんてものは、ほぼ無いに等しい。
むしろ一緒に生活すれば、人間では難しい事も、モンスターが代わりにやってくれたり、その立場
が逆になる事も。
里の発展は、モンスターと人間が織り成す、『工夫の結晶』である。
「大変だったら、呼べば手伝ったのに・・・」
「ザクロも色々と大変なんだから、私達にできる事は、やらせてよ。」
「・・・・・ミドリは、無理しないでね。」
「何? 私そんなに家事ができないと思われてるわけ?」
その言葉に、素早く撤退するザクロと、それを追いかける翠。
後ろのほうでは、スライムのお姉ちゃんとラーコが、笑いを堪えるのに必死だった。