表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
165/237

148・『学び』と『文化』

 喜ばしい変化は、それだけではない。

以前から里に住んでいるモンスターの子供達は、全員『読み書き』ができず、ザクロ達でも、文字は読めるがだいぶあやふや。


 里では、基本的に『口』で物事を伝えている。

だが、それも限界がある為、互いに『合図』を送り合って、遠くの状況を把握する。

 一応それでも問題はないが、これから先のことを考えると、できる事はやっていきたい。


 そこでグルオフは、週に何回か『勉強会』をひらき、『読み書き』だけではなく、『計算』や

 『動物・植物の名前や見分け方』を教える。

グルオフも学校へは行かなかった身ではあるが、ラーコがよく図書館で本を借りてきてくれるおかげで、知識は誰よりも豊富。


 グルオフは大人・子供関係なく、時には外で『魚の種類』や『木の種類』を調べたり、数字を

 使った遊びも皆で開発。

授業の内容自体は、『小学校一年生』レベルなのだが、それでも里の住民にとっては、『大切な知識・時間』である。


 翠も、グルオフの授業に夢中で打ちこむ子供達の様子を見て、『小学校一年生』の頃を思いだ

 していた。

あの時は、学ぶことが面白くて面白くて、宿題も真面目に取り組んでいた。

 

 だが、いつの頃だったか、翠は学校自体が嫌になってしまった。

理由は単純、周囲とのコミュニケーションがうまく取れなかった。

 ・・・いや、翠自体は、クラスメイトと関わろうと頑張っていた。

だが、相手もその気ではないと、翠が努力する意味がなくなってしまう。 


 

 『部活』で例えるなら

 『コーチ』がやる気になって指導をしても、『部員』がその気にならないと、技術も体力もな

 かなか上がらない。


 『カップル』で例えるなら

 『彼女』が結婚を覚悟でお付き合いしていても、『彼氏』が遊び感覚なら、ずっと平行線の関

 係のまま、進む事はない。


 

 教師達も、色々と手はつくした。

だが、子供は大人が思っているほど、仲良くなってくれない。


 大人社会でも同じことが言えるのだが、翠の場合、転生前はとにかく『人脈』に恵まれなかっ

 たのだ。

・・・もし人脈が良かったとしても、転落死からの運命からは、逃れられないのだが。


 だが、もう翠は旧世界の人間関係なんて気にしない。・・・というか、本人が忘れている。

忘れる事も、『自己防衛』の一つなのだ。


 翠はずっと、『ゲーム』を『友人としての共通点』にしようと奮闘していた。

だが今の翠は違う。


 かなり壮大な共通点にはなってしまったが、その大きな目標のため、日々一緒に頑張るのは、

 とても楽しい。




「グルオフー、今日もおつかれー!」


「あぁ、翠さん。決着はつきましたか?」


「いいや、もう引きわけ40回はこえてるけど。」


「ここまでくると、もう決着がつくのは、夢のまた夢になりそうですね。」  


 今日も授業を無事に終えたグルオフは、両手に『お手製 読み書きプリント』をどっさり抱え

 ていた。採点付きで。

グルオフの指導もあってか、里には最近いくつもの文字が並ぶようになり、里の文明がほんの数ヶ月程度で、大きく発展しているのがよく分かる。


 畑の柵には、栽培している野菜の名前を。川には、危険な水域を知らせる看板が。

そして翠の提案で、家々に『表札』を設置して。誰が住んでいるのかを分かりやすくした。

 里の人口が増えたことで、誰がどこの家にいるのか、分からなくなる事が多々あったからだ。


 そして、子供でも大人でも、里でなにか困り事があれば、グルオフのもとへ駆け込む。

グルオフがそれらの問題を、大抵あっさり解決してしまうから。

 年齢や種族関係なく慕われる・・・なんて、よくよく考えればとんでもない事である。

翠達の思っている以上に、グルオフの実力は底無しなのだ。 


「もうグルオフ、すっかり『里の長』だね。」


「___まぁ、前々から里を取りしきる役目をもつ住民がいなかったから、自然と僕がその役目

 を担う事になったんですけどね。」


「信頼されていなきゃ、そんな大事な役目を任せないよ。」


「それを言うなら、ミドリさんだってザクロさん達から、絶大な信頼を得ていますよ。」


「それは嬉しいんだけど・・・・・

 私が頼りにされる場面って、限られているような気がして・・・」


「あははっ。

 『杖を握ったミドリさん』は、確かに無敵ですからね。






 そういえば、ザクロさんがついさっき、この鬼族の屋敷に来て


 「里の皆に、重要な話がある。夕食終わったら、此処に来てほしい。」


 って、言ってました。」


「あ、その時ちょうど、私『まき割り』してたんだっけ・・・」


 ザクロもグルオフの授業の影響を受けてか、言葉が少しずつ滑らかになっている。

グルオフの優しい言葉遣いを真似て、ザクロの言葉遣いもだいぶ柔らかくなった。

 これには翠もびっくり。


 前は話をするだけでも疲れていた様子のザクロだったが、最近では翠達と他愛のない会話をす

 るくらい成長している。

翠は改めて、『学ぶ事の大切さ』を感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ