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146・育っていく里

 その後も、なんとも不思議な出来事が立て続けにおこった。

だが、里にとっては『有益』になる事ばかりだった。


 まず、リータの兄に続いて、何人もの人間が、この里に迷いこんで来るようになった。

・・・いや、ただ闇雲に迷子になって、迷いこんだわけではない。

 

 リータの兄の時と同様、彼らを『導いてくれる存在(ザクロの祖先)』が、まだ様々な地域を

 わたり歩いていた。

それくらい、王都の暴走は広範囲にわたっていたのだ。

 

 一体これまでに、何人の覚醒者が、王都へ強制的に連行されたのか。

何人の一般人が巻き込まれたのか、数えきれないくらい多いのは、薄々察している翠達。

 避難してくる人々の顔色で、ある程度わかってしまう。

混沌は王都だけではなく、この国中に及んでいるのだ。


 だが、ザクロの祖先も、負けじと人々を里に導いている。

悪く言えば『いたちごっこ』ではあるが、これで何人もの命を救えるなら、決して損なだけではない。

 

 今の偽・王家は、目的のためなら国民の命すらうばう。

そんな非道な手段すらも、安易に下すようになってしまった。

 彼らに抵抗したところで、相手の方が武力や地位も高い。力の差は歴然。

だから国民は、とにかく逃げるしかない。

 

 そんな国民達が、無事に隠れ住む事ができる場所は、もやはこのシキオリの里しかない。

かつてクレンが住んでいたシカノ村や、翠一行が立ち寄った場所も、今どうなっているのか分からない。


 一日に『数人』が里にくる事もあれば、『何十人』という大人数がくる事も。

そんな積み重ねの結果、着々と里の住民が増えていき、里の文明も同時に大きくなっていく。

 迷いこんできた人間も、里の住民と普通に馴染み、普通に生活をしている。

モンスターとの格差なんて、最初からなかった様に。


 迷いこんだ人間達も、里での生活に馴染んでいく光景は、クレンの『記憶』や『心境』を深く

 かき回していた。

そう、本当は誰も、モンスターを自主的に差別していなかった。


 いつの間にか生まれた差別が人々に馴染んでいってしまったのは、結局誰のせいなのか・・・

それすらも、もう調べる術もなければ、調べる気すら誰も抱かない。

 

 結局、そんな不透明で形のないルールに苦しめられていたのは、モンスターだけではなかった

 のだ。

無意識のうちに、人間も負い目を感じ、それをまた隠して生活していた。


 だが、それらがポンッとなくなってしまえば、あとは簡単。

逆に、人間とモンスターの間に生まれる友情は、『日々の思い出』や『仕事の成果』によって、形となっていた。


 里に迷いこんで来た人間達は、とにかく里のため、里に住む住民のため、せっせと働いた。

もう差別なんて気にせず、誰を信頼しても、誰を頼ってもいい。

 自由な働き方は、まさに『ストレスフリー』である。


 翠はもっぱら、里の外の警備や、夜間の監視ばかりではあるが、それだけ里の皆が、彼女に頼

 っているのだ。

だから翠も、その仕事に誇りを持っている。


 人間ができない事はモンスターが、モンスターができない事は人間が。

そんなやりとりの繰り返し、積み重ねによって、信頼関係は目まぐるしく強くなっていく。

 だが、それらを全て後押ししたのは、やはりグルオフの力添えあってこそだった。


 定期的に、迷いこんできた人間の子供と、里に昔から住んでいたモンスターの子供と一緒に遊

 び、大人であろうとも相手に誠意のある態度を示す。

その姿には、里の住民全員が感心している。


 だからこそ、人間もモンスターも、分け隔てなく共に過ごせるのだ。

やはり『立派なお手本』の存在は大きい。

 

 その他にもグルオフは、人間の悩みにも、モンスターの悩みにも耳を傾け、一緒に考える。

もうグルオフは、この里と同じくらい、住民にとって大切な存在。




 そんなグルオフに負けじと、翠達も里の『守り手・攻め手』の育成に力を入れる。

避難してきた人々も、そろそろ本当にこの国をどうにかしないと、国の存亡が危ぶまれる事態が、遅かれ早かれ来ることを悟っていた。


 かつてこの国の為に頑張ってきた兵士にとっては、若干複雑な心境ではある。

だが、いくら王家を必死で守ったとしても、国がなければ意味がない。

 国がなければ、『国の王』は必要ない。つまり自分達の努力も、滅亡の歴史と共に消え去る。

そんな最悪な結末を迎えない為にも、まだまだ頑張っている彼ら。


 そんな兵士達に対しても、ザクロや翠は容赦ない。

特訓であろうとも全力でぶつかるその姿勢は、あっという間に兵士達の心を打ち抜いた。

 いつの間にか翠は、兵士達の『訓練長』として、慕われる存在となっていたのだ。

 

 そんな里の成長は、いつも翠とザクロが特訓を重ねている修練場にまで、影響が出ている。

いつの間にか丘の訓練場も大きくなり、畑や家の規模も、日々増えてきている。

 そして、里での暮らしも、前より便利になり、前より快適になっていた。

『家電』等の劇的な変化ではないものの、やはり働き手が増える事は良い。


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