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145・『予想外』と『予想内』

翠達は、怒りにふるえるグルオフをどうにかなだめる。

 そして、改めてリータの兄達に、グルオフの事や、今の王家についての説明をする。

里の住民にも、ついこのまえ説明したばかりな為、翠達も説明に慣れていた。

 だが、リータの兄達は、翠達が思っているほど驚いてはいなかった。


 むしろ、「やっぱりそうだったのか・・・」と言わんばかりの顔。

そんな顔を見せられると、余計に虚しくなってしまう。

 やはり誰の目から見ても、今の王家があやしいのは明確らしい。

そんななか、兵士の1人が、こんな話をする。


「___もしかして君・・・・・いや、陛下は、『あの地下道』でずっと・・・???」


「あ? アレ発見された??」


 ラーコの顔が、急に明るくなる。

そう、かつて翠達と協力して、本物の王家が滅亡した・・・と思わせるための作戦。

 そうやらその作戦は、まんまと鵜呑みにされた様子。

思わずラーコは、翠とハイタッチで喜んでいた。


「じゃあ、あの『遺書』も全部・・・!!!」


「お察しの通りです!」


 ここぞとばかりのドヤ顔を披露するラーコ。

そんな彼女の顔に、兵士達は(まんまとやられた・・・)と言わんばかりの顔になる。

 ラーコのドヤ顔を見たグルオフも、平静を取り戻した様子で、翠達と一緒になって笑う。

かなり遅めの報告ではあったが、翠達の作戦は、見事に大成功を収めた。


「そうか・・・じゃあやっぱり今の王家は・・・」


「___今までよく頑張ってきましたね。」


 グルオフが兵士達に、労いの言葉をかけてあげる。

兵士達は改めて、『本物の時期国王』を目の前に、かなりタジタジになっていた。


「いえいえ、俺達はまんまと振り回されたんです。

 お気遣いをかけてもらう資格なんてありません。」


「それでも、貴方達がこの国の為に尽くしてくれた事に変わりはありません。

 ___でも貴方達には、これからまた頑張ってもらうかもしれないんですけど・・・」


「むしろ本望ですよ!! ようやく俺達にも、兵士としての誇りが戻って来ました!!

 本物の王家に尽くせるなんて、まるで夢のようです!!」


 避難してきた当初は、だいぶ草臥くたびれている様子だったものの、事の真相がすべてま

 とまった事で、兵士達もだいぶスッキリした様子。

確かに、自分の職務に疑問をもったまま遂行するのは、かなり気持ち悪い。


 翠が生きていた旧世界で例えるなら、『いつの間にか闇社会に片足を突っ込んでいるような気

 分』である。

そして、いつ自分達が切りおとされるか分からない状況で働かされる環境なんて、ある意味『ブラック企業』である。


 旧世界でもちょくちょくニュースになっていた『ブラック企業』だが、今回の事情に関してし

 ては、『国の顔』とも言える職業が、もはや『形だけのお飾り』だったのだ。

そんなの、国としても面子が丸潰れ。だが、偽・王家はそんな事すらも見て見ぬフリ。

 

 こうなってしまっては、彼らの目を覚ます為には、グルオフ(正当なる王家)が必要である。


 兵士達は、ただ単に憧れていただけ。

偽・王家に加担するつもりもなければ、手足になりたくもなかった。


 かつて彼らは、国を守る重大な使命を背負いながらも、胸を張って国の顔として頑張る兵士を

 目指し、日々頑張っていた筈。

それがいつの間にか、王家のやりたい放題に扱われていた・・・なんて、彼らも相当ショックだっただろう。


 表情は明るいものの、彼らが相当色々な感情を抑えているのが、グルオフには分かる。

無理はさせられないが、彼らも重要な『仲間』であり、『戦力』である。






 リータの兄達が里の住民であるモンスターと馴染むまで、時間はそうかからなかった。

もう翌日には、リータの兄が、本格的な薬の作り方や、機材も1から頑張って作り始める。


 兵士達に関しても、ザクロの指導を受け、ヘトヘトになりながらも、久しぶりに本気で訓練に

 励める事が嬉しかった様子。

もちろん翠も参戦して、兵士達はザクロと翠の激しい戦いも目の当たりにして、口を開けながら唖然とするしかできなかった。


 第三者からすれば、その戦いはまさに『次元を超えた戦術』

飛ぶ・跳ねる・蹴り上げる・抑えつける・つば迫り合い・・・と、彼らの技に終わりが見えず。

 

 だが、いつまででも見ていたい・・・と思えるのは、翠とザクロの戦術が高いから。

勉強にもなる上、一種の『スポーツ観戦』としても見ていられる。


 まるで『大きなドームで戦うスポーツ選手』のような気分になる翠だったが、皆も熱くなって

 いる様子を見ると、手を抜かずにはいられない。

ちょっと違うが、『スポーツ選手のやる気の秘密』に気づいた翠は、日々精進する。


 そして、彼女の戦う姿を見た1人の兵士が、王都でかつて流行っていた、『とある噂』を思い出

 した。

その噂自体、ちょっと昔に少しだけ流行っただけだったのだが、兵士達にとっては『自分達の赤っ恥』でもあった為、記憶に残っていたのだ。


「_____成程、君だったんだね。ほんの少し前、王都で目撃されていた


 『荒くれ者のヒーラー』っていうのは。」


「__________え???」


 キョトンとした顔になる翠と、その横でクスッと笑うザクロ。

噂に関して、ザクロは初耳だったのだが、『荒くれ者のヒーラー』というだけで、真っ咲に彼女が想像できてしまう。


 だから、つい笑ってしまったザクロ。

彼女が王都で名を轟かせても、別に不思議ではなかった。

 里に来る前も来た後も、翠は相変わらず。

だが兵士達の聞いていた噂は、やや誇張が目立つ。それも『噂あるある』なのだが。


「急に何処からともなく現れ、王都に来たヒーラーが、兵士の命令を無視して、王都内を引っ掻

 き回してたって・・・・・」


「まぁ・・・否定はしない。」


「何人か兵士を怪我をさせた話もあるんだけど・・・」


「それは違うからね?!

 確かに何度も歯向かいはしたけど、小競り合いになっただけで、怪我を負わせるくらいの大乱

 闘にはなってなかった・・・・・筈!!」


「でも、ミドリなら、ありえなくない。」


 ザクロのその言葉に、兵士達が一斉に噴き出した。

そして翠は、顔を真っ赤にさせながらザクロに掴みかかる。ザクロは完全にとばっちりだ。


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