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144・導いてくれた存在

 リータの兄は、ザクロの反応を見て、自分達を導いてくれた存在が、彼と密接な関わりがある

 ことを悟る。

そして、ザクロに話がしっかり聞こえるように、一旦彼の真横に座るリータの兄。


 その行動に、ザクロは一瞬戸惑ったが、もう今更である。

ザクロのみならず、里の住民は、人間に対して一切抵抗を感じることはなくなっていた。


 もう今となっては、何故人間を警戒していたのか、それすらも忘れてしまう程、翠達と親しく

 なっている。

それは、翠達の『頑張りの形』でもある。


 モンスターの中にも、『厄介な存在』と、『頼りになる存在』がいる。

それは、人間社会に対しても言えることが、モンスターでも言えるから。

 里の住民も一応モンスターだが、野良モンスターに手を焼いている。


 これに関しては、最初は違和感を感じていた翠一行だった。

だが、その違和感すら、里で生活していれば、すぐ馴染んだ。

 結局、種族や国を問わず、個々それぞれなのだ。


 わずかではあるが、リータの兄と共に里へ来た町の人も、里の住民には深く感謝している。

突然押しかけて来たにも関わらず、自分達を保護して、面倒を見てくれたのだ。

 その優しい心遣いさえあれば、もう恐怖なんて感じる必要はない。

むしろ、その恩をしっかり返さなければいけない。


 すっかり元気になってきたリータの兄達は、そんな気持ちも交えつつ、事情を説明する。

相変わらずリータの兄は、ザクロに対してもちょっぴりやんちゃな笑みを浮かべていた。

 ザクロが一瞬だけリータを見るのは、彼の弟であるリータが、少し羨ましかったから。

そして、兄と弟でかなり性格に差がある事にも驚いていた。


 若干軽いように見えるリータの兄だが、実はしっかり考えがあり、相手の温情を忘れない。

相手がどんな存在であったとしても、一度救われた人には、大いに心を許す。

 そして、何もかもを打ち明ける。優しい笑顔で。

性格は違えど、互いに『頼れる存在』なのだ。


「そう、彼は俺達に、名前を告げてはくれなかった。でも、地図を示して、こう言ったんだ。




「里へ向かいなさい、そこへ行けば、身の安全は確保できる。」




 とね。


 俺達はその言葉を信じて、まだ連れ去られていない、数少ない町人と、兵士も引き連れて町を

 出た。


 _____町長である俺が、町を見捨てる・・・なんて、大罪だ。

 だが、もう彼の言葉を信じる事でしか、町をこよなく愛してくれた人々を救えなかった。

 もう王家も信頼できない、だからこそ、俺達は彼の言葉を信じたんだ。」


「___で、お前達導いた、俺の祖先は・・・?」


「それが・・・・・その言葉を最後に、もう彼に会う事はなかったよ。」


「_____そうか。」


 彼にできる精一杯は、これくらいだった。だが、それでも偉大な功績である。

リータの兄一行がこの里に辿りつけた事自体、かなりの幸運に恵まれていたとしか言えない。

 だが彼らの後押しをしてくれたザクロの祖先は、彼らをずっと見守っていたに違いない。

話を聞き終えたザクロは、少しだけ笑ったあと、部屋から退出してしまう。


 翠が彼を追おうとしたが、グルオフに止められた。

しかし、そんなグルオフの手は、小刻みに震えている。


 グルオフは、正当なる王家の人間として、王座奪還へ頑張り続けていた。

でも、彼が目前にしている『壁』が、『欲』や『私利私欲』でグチャグチャになっている。

 しかもその壁はとんでもなく分厚く、突破できるかどうかも分からない。


 どんなに戦力を重ねて突撃したとしても、欲と私利私欲に塗れた彼らなら、どんなに卑怯で姑

 息な手段も厭わない。

その恐ろしさに、意志が堅いグルオフでも身震いしてしまうのだ。


 『子供の欲望』と『大人の欲望』を比べたら、圧倒的に『大人の欲望』のほうが汚いに。

だが、偽・王家の場合、『大人の欲望』という言葉では片付けられない。

 国の民を大勢に巻き添えにしてでも、成し遂げたい事が分からない。ひた隠しにしている。

目的が分からないのが、余計にタチが悪い。


 もちろん、王をまとめ上げるのは、綺麗事ばかりではない。

多少は汚くなければ、国としてはやっていけない。悲しいが、それは仕方ない事。

 グルオフもそのあたりは承知して、日々励んでいる。


 しかし、偽・王家の場合、『必要な汚れ』が全くない代わりに、『不必要な汚れ』で、その内

 情が満たされている。

しかも、その不必要な汚れが、今もなお上塗りされている。


 そんな彼らに、もう『説得』なんて生優しい手段は、ほぼ効かないだろう。

本格的に、『命の駆け引き』になるのは目に見えている。

 しかし、グルオフは偽・王家に対して、以前は少なからず『温情』はあった。

まだ国がギリギリでも保たれているだけ、まだ感謝はしていたグルオフ。


 だが、もう彼らにかける感情は何もない。むしろ怒りしか込みあげてこない。

とうとう彼らは、自分達の欲望のために、人の命ですら、安易に扱い始めたのだ。

 そんな彼らがこの国を治め続けるのは、ほぼ不可能。


 グルオフがもっとも恐れている事、それは、この国の破滅。

国が滅んでしまえば、グルオフの祖先だけではなく、ザクロの祖先も、コエゼスタンスのメンバーも報われない。


 そして、グルオフの両親の名が、汚されたまま終わるかもしれない。

自分達の頑張りも、もちろん大切にしたいグルオフにとって、国が崩壊するのは、全ての終わりを意味する。


 偽・王家にとって、この国をどう見ているのか、どうゆう存在価値なのか。

今回の一件で、それを垣間見た翠一行。

 もはや彼らにとって、国の歴史や功績なんて、どうでもいいものになっている。

そもそも彼らは、自分が国の長になりたいから、正当なる王家を追放した。


 だが、それではまだ飽き足らず、私利私欲の為に命を弄ぶ、『獣以下』となってしまった。

何がトリガーになったのかはまだ分からないが、それでもグルオフにとって、その行為は決して許されない。


 珍しくグルオフが、『怒り』や『憤り』といった感情を丸出しにしている表情は、翠達でもゾ

 ッとするものがある。

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