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143・『独裁』の顔を見せ始めた

「その命令の理由を、もう兵士の何人かが、王家へ直接聞きにいった。

 だが、答えはおろか、王家のもとへ訪ねに行った兵士ですら、帰ってこない。


 _____もう、王都の内情はめちゃくちゃだ。

 前までは、ギリギリ水面に出ていなかっただけだったんだ。

 ようやくその内情が、徐々に徐々に見えはじめている。

 

 だが、いまの現状もだいぶ辛いものがある。王都が腐りおちるのも、時間の問題だ。


 俺達にも、そのバチが当たったんだ。本来なら、俺達の務めだった筈なのに・・・

 もう今の王家は、兵士の命でさえ、『飯事ままごとの人形』のように扱いやがる。

 もはや俺達に、『兵士』を名乗る資格もない。」


「___君達の事情はある程度わかりました。

 さしずめ、貴方達も、王都から逃げてきた・・・と。」


 リータのその問いに、兵士達は頷くしかない。

もうプライドなんてバラバラになってしまった兵士達にとって、リータ達に頭を下げる事すら、躊躇しなくなっている。


「俺達に、もう兵士を名乗る資格もないんだ。逃げ出したところで、痛くも痒くもない。

 ___むしろ、何も感じなさすぎて、そっちに失望したよ。


 幼い頃から体を鍛え、甲冑に身を纏い、国のお偉いさんを最前線で守る兵士に、あれほど憧れ

 ていたのに・・・

 その内情は、兵士になってから、とっくに気づいていた。


 でもこれまでの自分の努力を無駄にするわけにもいかなかったから、ズルズルと兵士を続けて

 いたんだよ。

 結局このザマだけどな。」


 兵士達の切ない微笑みを見てしまっては、もう誰も責められない。

事情を知る事は確かに重要だが、知った後は補償できない。

 知らなければいけない事、それは全員が覚悟している。

しかし、想像を超える内情である事は、覚悟していても受け止めきれる自信はない。


 兵士達も兵士達で、王都の内情を飲み込もうと、日々の業務に追われる事で、鬱憤を心の奥底

 に流し込んでいた。

だが、日々の業務ですら、『王家の身勝手な手足』と化してしまえば、我慢が限界を越えるのも当然である。


 そんな彼らは、もう今の王家に希望を見出すことを諦め、全てを投げだした。

もう何もかもが信じられなくなった状態では、逃げる事でしか自分を守れない。

 だが、翠達はその判断を、決して『間違い』とは思わず、むしろ『正解』だと思った。

覚醒者でも、自分よりも遥かに強いモンスターに戦いを挑み、負けてまえば笑いものである。




「かつてドロップ町で、君・・・リータ君が覚醒した事は、既に王家が知っていた。

 だから、前回の件でお世話になった俺達に、またお鉢がまわってきた。


 当然、俺達だって引きうけたくはなかったさ。

 でも、最近の王家は、任務参加の有無を言わさず、参加はほぼ強制。」


「でも僕は・・・」


「そう、前の件が終わってすぐ、君がそこの女の子と旅立った事は、俺達も知っていた。

 でもその話をしたところで、任務は中止にならない。」


「___つまりね、リータ。王家は、何が何でも、覚醒者であるリータを欲していた。

 でもそんなの、町に君がいなければ、連れて行く事すらできない。

 だから彼ら兵士達は、困り果てるしかできなかったんだ。


 でも、彼らも手ぶらで帰るわけにはいかなかった。

 手ぶらで帰る事は、任務の失敗を意味する。

 彼らの話によれば、覚醒者狩りに失敗した兵士は、その首をもって償いを受けるそうだ。

 

 だから彼らは、逃げるようにドロップ町に隠れ住んだ。

 ___だから俺は、彼らを匿った。

 彼らの話を聞いていたら、もう他人事ではいられなかった。」


 リータの兄は、申し訳なさそうな顔をしていたが、翠達にも兵士の気持ちが、苦しいくらい分

 かる。

逃げられない現状と、王都からのプレッシャーで、いろんな感覚が麻痺していた兵士達が、とにかくかわいそうだった。


 側で聞いていたグルオフも、兵士達に慰めの言葉をかけてあげる。

『人を雇う側の人間』であるグルオフから見ても、偽・王家の横暴は、まさに『独裁』

 だがグルオフでも、まさかここまで酷い現状になるとは思わなかった。

狡猾な彼らなら、自分達の醜態を隠すのはお手のもの・・・・だった筈。


 しかし、もう隠す意味も、罪悪感すらも無くなってしまった偽・王家は、とうとう一般人にま

 で手をだし始めてしまった。

早くしなければ、兵士と同じ苦しみを、王都の民だけではなく、国民全員に広がる。


 そうなったら、もう王座の奪還なんて言っていられない。

下手すれば、仲裁に入った他国とも争いになり、国家制定の戦争よりも、更なる争いが起こる。


「・・・それで、その後はどうなったんですか?」


「今の王家が、何としてでも覚醒者を手に入れたいのは分かったけれど、だとしても貴方達はど

 うして、この里まで来たの?」


 クレンとラーコの問いに、リータの兄と兵士は顔を見合わせた。

そして、リータの兄から告げられた内容が、全員の度肝を抜いた。


「兵士達がドロップ町に隠れ住んでからしばらくすると、別の兵士が町へきたんだ。

 だけど彼らは、明らかに『普通の兵士』ではなかった。

 

 町にきた直後に、町民達を武器でおどして、とにかく片っぱしから、町の住民を馬車に放りこ

 んで・・・


 俺も兵士達も、慌てて仲裁に入ろうとしたけど、それすらも駄目だった。

 彼らには言葉が通じていないのか、同じ兵士である彼らの話も一切聞かず、同じ兵士同士で乱

 闘になってしまった。」


「それって・・・・・もう『人攫い』と同じなんじゃ・・・?」


 ラーコのその意見はもっともだった。そこまでするような人を、兵士とは言えない。

兵士同士の争いなんて、もう秩序がグチャグチャである。


 町人達がパニックになったのも頷ける、リータの兄はまだ申し訳なさそうにしているが、決し

 て彼のせいではない。

というか、そんな状況をとめられるのは、それこそ『本物の王家』である。


 まだリータの兄や、避難民には、グルオフの王家事情や、『今の王家(偽・王家)』話はして

 いない。

その理由としては、やはりパニックになる事を避ける為でもあるが、リータ達は気づいていた。

 

 今回の一件も、前回の一件も、偽・王家が何かしら関与している事を。

特に今回は、偽・王家の隠れた本性が見え隠れしている。

 これではさすがに、支持する人も、守ってくれる人も減るのはほぼ確実。

それを本人達が周知しているのか、それとも周りを気にしていられる状況にないのか。

 

 どちらにしても、今回の件が、ドロップ町以外の場所に広がるのは、必然である。



 _____いや、もう既に、広がっているのかもしれないが。



「そんな時だった。俺が前回の時と同様、数人の町人と地下の図書室に隠れていた。

 それが何時間か続いた時、突然俺達の前に




 『鱗の生えた人らしきナニか』が現れた。」


 その言葉に、一番反応したのか、同じく『身体に鱗の生えた』ザクロ。

立ち上がった彼を見たリータの兄は、ハッとした表情のまま固まった。




 そう、かつて翠を里へ導いた、『ザクロの祖先』

彼は、あの地下で、リータの兄のいるドロップ町へとむかう話をしていた。


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