142・『覚醒者狩り』と、利用される人々
「ありがとうございます、兄や残った町の住民を、ここまで導いてくれて・・・」
「いやいや、やめてくれ! 俺達がお礼を言われる筋合いなんてねぇって!!」
手をバタバタとあおぎ、視線をキョロキョロさせる兵士達。
自分達の不甲斐なさを考えると、リータの感謝が、見ていられないのだ。
結果的にリータの兄は救えたのだが、それでも納得いかないものがある。
だが今の彼らには、自分達の心境を話すだけで、もう精いっぱいだった。
「前回のと合わせて、俺達は何をやってるのか・・・自分達でも分からなくなった。
「どうしてこんな非道な事をするんですか?!」「理由もなく俺達は戦えません!!」
___って、何度も口から出したかった。
でも俺達は、『自分達の命』を優先したんだ。
王家に意見して、もう帰ってこなかった兵士は数知れず。
俺が信頼している兵士長でさえも・・・」
その話は初耳だった翠達。
翠達が王都を出た後も、かなり混沌としていた王都。
徐々に増していく異様な空気に、兵士達も折れてしまったのだ。
もう今の王都を救えるのは、グルオフ以外に望みがうすい。
気高い意思やプライドを散々利用された挙句、無慈悲につかわれた兵士達を哀れに思ったの
は、リータの兄も同じだった。
かつては命を狙われた相手であったものの、彼らの話を聞いて、責め立てるわけにもいかない。
「 _____でもね、リータ。
今回は、前回とは違い、分かった事もあるんだ。」
「それは何ですか?
_____兄さん??」
クレンの言葉に、リータの兄は、少し息詰まる。
よほど言いにくいのか、言いたげな顔をしているのに、なかなか口から言葉が出てこない。
だが、翠達は、薄々勘づいていた。
前回の騒動の主犯格も、今回の主犯格と、『同一人物』である事が。
リータの兄が渋っている理由。それは、彼自身も信じられない、恐ろしい事実だから。
肯定してしまうと、これからの未来が、何もかもが、簡単に崩れてしまいそうだから。
しかし、認めるしかないのだ。
今回の件も、前回の件も、小金持ちがやるような所業ではない。
もっと規模がおおきく、権力のある、そんな存在でないと、説明がつかない。
そう、前回の件も、もっと深くかんがえれば、答えには辿りついたのかもしれない。
だが、翠達もその時は、まだ信じきれていなかったのだ。
まさかこの国をまとめる立場にある組織が、そんな横暴で、民を蔑ろにしている・・・なんて。
だが、そんな『根拠のない可能性』は、王都の内情を知って、安易に踏みつぶされた。
「どうやら、この国の王は、
『覚醒者狩り』を行っているそうだ。」
「・・・・・・・・・・はい?」
「・・・・・・・・・・はい?」
「・・・・・・・・・・はい?」
「・・・・・・・・・・はい?」
翠・クレン・リータ・ラーコの4人は、揃って口をあけたまま呆然としている。
だが、グルオフに関しては、そこまで驚いていない様子。
むしろ、「ついにこの時が来たか・・・」と言わんばかりの、覚悟をきめた様な顔。
ザクロや鬼のにいちゃん達は、顔を合わせながら唖然とするしかできない様子。
確かに、考えれば考えるほど、今の王家がやりたい事が、全くもって見えてこない。
何故なら、今の今まで、覚醒者は『国の守り手』として、人々から丁重に扱われるのが当たりまえだった筈。
にも関わらず、何故彼らが『狩りの対象』にされているのか。
まったくその意図が見えてこない。だが、分かっていない様子なのは、翠達だけではない。
避難してきたリータの兄や、兵士達ですら、その命令の意図が分からないまま、この里に逃げ
こんで来た。
だから彼らは、申し訳なさそうな顔をするしかないのだ。
確かに前回と比べたら、相手の意図が少しは分かる。
相変わらずその意図はまったく不明のままである事を考えると、『+−0』なのかもしれないが。
だが今回に関しては、曖昧にはできないくらい、リータの兄達は甚大な被害を受けている。
『−』なんて話ではない。
リータの兄の説明に、ようやく口が動かせるようになった兵士達が補足を入れる。
「端的に言えば、俺達兵士は、この国の覚醒者を、王都まで連れて行っていた。
だが覚醒者にも色々と事情があって、王都に行くのを拒否する覚醒者もいた。
それに痺れを切らした王家は、最終的に『拉致』にも近い形で、覚醒者を欲していた。」
「何故そんな事を・・・?」
翠が代表して言ったが、説明する兵士も含め、その場にいた全員、その動機が全くと言ってい
いほど分からない。
いつもの事だが、今回ばかりは、はっきりさせないといけない。これは翠達だけの問題ではないから。
この国に、この世界に、一体どれくらいの覚醒者がいるか分からない。
だとしても、彼らが王家に拉致されれば、当然覚醒者が守っていた村や町の住民が困る。
もしかしたら、それを好機に、よからぬ輩が、何をしでかすか分からない。
なんらかの理由があるのなら、手足となる兵士達にも事情を説明する筈。
それが『雇用主の務め』
だが、それすらも許されなかった。・・・いや、『許す』『許さない』の話ではない。
雇い主として、仕事の詳細を言っておくのは、『最低限の義務』である。
だが、そんな義務すら放置した彼らの雇い主(偽・王家)は・・・