141・兄の語る真実(惨状)
「すみません、お世話になりっぱなしで。」
「いい。だが、お前達のこと、教えろ。」
「は、はい・・・・・」
どうしてもぶっきらぼうになってしまうザクロに変わって、翠が質問する事に。
里の住民も一緒になって、なぜこの里に彼らが迷いこんでしまった、その経緯を聞く。
翠達の時は、恐ろしくてなかなか近づいてもくれなかった住民達だが、翠達との生活で、もう
すっかり人間に慣れてしまった様子。
それはある意味、この里をに隠れ住むことにしたザクロの祖先の意向とは、少し外れているのかもしれない。
だが、迷いこんで来たリータの兄達は、保護してくれた里の住民に対して、感謝の念を感じて
いる。
そして、元気になった後はこの里に永住することを前提に、自分達にできる事を考えている。
リータの兄達は、『コエゼスタンス壊滅』や、『国家制定』とは無縁で生きていた。
そんな彼らに対し、「過去の罪を償え」なんて言ったところで、お門違いである。
過去の歴史を受け継ぐのは確かに大事だが、『罪』や『罰』まで背負わせる事を、ザクロの祖
先が望んでいるとは思えない。
仮にもしそうだとしたら、人間である翠達を里へ導いてはくれなかった。
それに里の住民も、うすうす気づいているのだ。彼らの事情が、翠達と同じく、だいぶ重いこ
とを。
里の外が、長い時間を経て、ゆっくりと歪んでいる事を。
「___リータ、お前にこの事実を伝えるのは、お兄ちゃんとしてもだいぶ胸が苦しくなる。
だが、言わなければならない。
正直まだ俺も信じられないけど、もうここまで来てしまったんだ。この国はもう・・・・・
・・・いや、元から何かがおかしかったのかもしれない。
クレン君の時にも思ったけれど、すでにこの国は、何かがおかしいのを、ずっとずっと放置し
ていた。
そのツケが、現状にあらわれている。・・・バチが当たったんだ。」
「兄さん、僕もね、ミドリさん達と一緒に旅をして、この国がおかしい事を知ったんだ。
ドロップ町に留まりつづけていたら、きっと僕も分からなかった。
この国は、『とても平和』と、勝手に思いこんでいたんだ。
・・・でも、それは全く違っていた。平和だったのは、ごく一部の地域だけだったんだ。
特に王都での生活は、失望しかなかったよ。本当に、がっかりするどころじゃなかった。
あんなに憧れていた場所だったのに・・・・・」
がっかりしているのは、リータだけではない。
翠達4人も、彼の言葉に、反論なんかできない。
王都に一度も行った事がないザクロですら、翠達の顔を見て、彼女達が見てきた王都がどれだ
け汚れているのかを悟った。
「もう残っている町の住民と共に、町を出たのがいつ頃だったのか、それすらも覚えていない。
それくらい急だったんだ。
また兵士の軍勢が街へ来た時は、俺も「またか・・・・・」と思って、心底呆れていた。
だが今回は、前回とは比較にならないくらい、横暴さが増していた。
彼らの言い分は
「この町にいる覚醒者を全員出せ」
というものだった。」
「___何で急に???」
「分からない。
でも町へ押し入って来た兵士のなかに、前回町に来た兵士達の姿もあったから、こっそり聞い
て見たんだ。
そうしたらさ、彼ら、なんて言ったと思う?
「本当は、此処には二度と近寄らないつもりだった。それがお互いの為になる・・・と思って。
でも、俺達に拒否権はなかった。今回もまた・・・」
___だってさ。もうさ、そんな事いわれたら、咎める気もなくなるよ。」
兵士数名は、顔を真っ赤にさせながら、申し訳なさそうに俯いている。
彼らは、肩身が狭くて苦しいのだ。王家の命令で動いていたのに、何も分かっていない状況。
だが、彼らに与えられた情報は少ない。以前と同じく。
それもまた、彼らの苛立ちを加速させる。
もういいかげん、自分達に嫌気が差しているのだ。
何もできない自分達に。 言いなりになるしかない自分達に。
人を守る筈の兵士という身でありながら、他人に迷惑ばかりかけて、ちっとも兵士らしい事が
できない自分達に。
そんな彼らを、真っ向から否定する事もできない翠達。決して兵士達を責める気になれない。
前回同様、彼らも『被害者』だ。
翠・クレン・リータが町から去る頃と同じく、申し訳なさを顔に滲ませていた。
彼らが、再び同じような理由で、同じ過ちを犯すなんて、翠達には思えなかった。
その上、前回の件で、彼らが何故町を襲ったのか。
その理由は、彼らの雇い主にしか分からない。
しかも、誰か彼らを雇ったのか、曖昧のまま終わった。
そして今回も、『同じ手』を使われた。
そこまで自分達をコケにされてしまっては、もう王家への信頼なんて、一瞬で崩れ去る。
だからこそ、兵士達はリータの兄と共に逃げてきたのだ。
ビッグフットを相手に、彼らもかなり奮闘していたのが、身につけている鎧を見ればすぐに分
かる。
兵士は複数人いるのだが、彼らの鎧にはどれも『爪痕』や『凹』があった。
逃げている最中につけられたのだろう。
逆に考えれば、鎧がなかったらとんでもない大怪我になっていた。
リータもそれに気づいた様子で、彼は兵士にお礼を述べる。
出会いは最悪だったが、彼らが兄を守り抜いたのもまた事実。
深々と頭を下げるリータだったが、兵士達は慌てて彼の顔を上げる。