140・兄弟の絆は 健在だった
「_____兄さん___」
誰よりも早く目覚めたリータは、まだ朝日の半分が、山にかくれている時間にもかかわらず、
ベッドから飛びおきた。
そして手早く服を着替え、兄のいる部屋へとむかう。
皆が起きないように、静かに、ゆっくりと。
リータはその日、力の使いすぎで休んでいたが、避難してきた人は無事に全員回復した。
里の住民にとってもかなりの一大事だった為、いつもは起きているはずの住民も見当たらない。
翠達は手当てで大変だった為、まだ起きれずにいた。
色々と皆が手を施したおかげで、この件が悲しい事件で終わらずに済んだ。
避難してきた人のなかには、明らかに兵士ではない、一般人も数人。
ドロップ町からこの里まで、かなりの距離がある。
それを、荷物がほぼない状態で来れたことが、まだ信じられない。
もう本当に、みんながギリギリの状態だったのだ。
何故、そんな人達が、こんな極寒の地へ来たのか、まだまだ分からない事は多い。
だが、全員の命が救えただけでも、その謎はすぐに解決へと導ける。
何よりリータは、しばらく見ていなかった兄との再会を、心の底から喜んでいた。
そしてリータの兄も、いつのまにか成長したリータを見て、自分も誇らしい気持ちになる。
手当てをされている最中は、その思いすら口にだせなかった2人だったが、ようやく色々と整
理がついた事で、あらためて話せる状態までになった。
リータは兄のいる部屋に着くと、話したい事を頭でまとめ、ドアノブを握ろうとしたが・・・
ガチャ!
「にっ、兄さん?!!」
「シーッ!!!」
先にドアを開けたのは、部屋の中にいたリータの兄。
彼も、弟の近況が聞きたくて、じっとしていられなかったのだ。
兄はもう自力で歩けるようになって、リータを部屋へ入れると、ゆっくりとドアを閉める。
リータは兄の元気そうな顔を見て安心したのか、部屋に入った途端にベッドへ直行。
そのままベッドの腰とおとし、全身の力を抜いた。
兄が自分よりよっぽど丈夫なのは、弟であるリータもちゃんと理解しているが、それでもあの
状況で生き残れたのは、そうゆう問題ではない。
だから、リータも兄も、まだちょっと信じられないのだ。
あの大きくて凶暴なビッグフットから逃れられた事も、その後クレンやラーコの手によって、きっちり息の根を止めた事も。
久しぶりに再会で変わっているのは、リータに限った話ではない。
あまり変わっていないのは、せいぜい翠くらい。
相変わらず、彼女はどんな事にも首を突っ込み、我が物顔で歩き回る。良い意味で・・・だ。
強いて言うなら、以前より逞しくなっていた。
そしてクレンも、リータの頼れる兄貴分として、『男の子』から『男性』へと、着々と立派に
成長している。
以前と変わらないようで、変わっている。それが丁度良いのかもしれない。
ともかく、様々な意味で成長したリータの力を目の当たりにした兄は、涙を流しながら喜んで
いる。
愛するリータの成長と、思いがけない再会は、涙を滲ませる程、嬉しいものだ。
「リータ・・・・・立派になったな・・・
ついこの前まで、言葉を発するのも一苦労していたなんて、不思議なくらいだ・・・」
「兄さん・・・・・本当に良かった。」
リータは、兄を抱きかかえながらワンワン泣く。その時ばかりは、以前の兄弟である。
2人の泣き声は廊下にまで漏れ、翠はドアの隙間から2人の様子を見て、そっとドアを閉める。
翠もリータの兄が気になって見に来てしまったのだ。
だが、まず先に『兄弟の時間』を優先させて、翠は朝ごはんの手伝いへ行く。
そして、3番手に起きたクレンは、リータと彼の兄について、後から起床したラーコとグルオフ
に改めて説明を入れる。
だが、ラーコとグルオフは、その顔を見た直後には、もう直感でリータの兄である事が分かっていた。
「『男の兄弟』って、やっぱり似ちゃうよねー。私とクレンは結構違いがあるんだけど。」
「そうかな? 僕は両者ともそっくりだと思いますよ。それが兄弟姉妹ですから。」
リータの兄の話を聞いたラーコとグルオフは、リータを称賛していた。
まだどうゆう経緯で、彼の兄が里に迷いこんだのかも分からない状況でも、リータは唯一の家族を救ったのだ。
家族のほとんどを失ったアメニュ一族やグルオフにとって、彼はかがやいて見えるのだ。
リータも、まさか自分の習得した技が、こんなにも早く活用できるとは思ってもいなかった。
これに関しては、本当に『偶然』である。リータにとっては『ラッキー』であるが。
今回の件で一番活躍したのは、リータなのかもしれない。
つい昨日、大事件がおきたにも関わらず、里の住民達は、今日もいつも通り。
住民達にとって、厄介なビッグフットを退治できる戦闘員が増えたのは、事件よりも重要。
知識がある分、里にちょっかいをかけられたら、大事な畑を荒らされるだけでは済まない。
翠一行が里に来てからというもの、ハプニングもある反面、いろいろな件が解決しているのだ。