崩れ始めている王都では・・・(2) ※伏線アリ
もう既に王都の外では、王都内部の不穏な空気の話は知れ渡っており、よほどの用事がない限り、
観光目的で王都に来る人は目減りしていた。
そして、王都から別の町や村へ引っ越す人も後を絶たず、自分達への税金を直接出してくれる人が減
ったことで、一部の貴族達が慌て始めている。
王都に人が居なければ、人が来なければ、それだけお金が回らない。
つまり、貴族や王族の元にくるお金も目減りする。
そうなれば、普段から豪勢な生活になれている彼らにとっては、まさに『死活問題』である。
だが彼らも、何の打開策も、解決案も示さない。
何故から王都の不穏な空気が、一番気に食わないのは、貴族や王族だから。
自分達が治めている土地が、人々から嫌われている・・・なんて、『自分の所有物にケチをつけら
れた』ようなもの。
それならいっその事、自分達の創りあげたこの王都で、好き放題に遊んでいる方がマシに思えてしまうのだ。
まさに、『自分だけの王国・世界』である。
「やぁ。今日も警備、お疲れ様。」
「はっ!!!」 「センタリック王子!!!」 「ご足労様です!!!」
どんよりした顔の兵士達の前に、突然姿をあらわしたのは、国王の息子である
『センタリック王子』
彼が兵士達に見せる爽やかな笑みは、今日も異様なほどキラキラと輝いていた。
その甘いマスクと、優しい態度や言葉遣いは、高位な女性のみならず、民の女性からの人気も高い。
その上、兵士や城の小間使いに対しても、常に思いやりと敬意を忘れない。
まさに誰の目から見ても、『まごう事なき王子様』である。
彼のふるまいは他国からも評判も良く、もう何人もの異国の姫が、彼に求婚の申し入れをしている。
王子も王子で、まさに『理想の王子様』なのだが、兵士達は王子直々の訪問を、素直に喜べない。
彼らの心境は、ハラハラとドキドキが止まらなかった。
職務を放って愚痴を言いあっていた上、愚痴の原因は、貴族や王家の横暴。
それに関して、一番の口を出せるはずの王子は、ノータッチを貫いている。
何か策があるのか、それとも、もう王子の手にも負えないのか。
国王も国王で、傍若無人の貴族や王族を、見て見ぬフリ。
結局、貴族や王族の内情を知るものは、このなかに1人もいないのかもしれない。
だが、普段から兵士をこき使う貴族や王族に比べたら、センタリック王子はまだ可愛いほう。
だが、それくらい地位があるのなら、王都内の不穏な空気にも、当然気づいている筈。
にも関わらず、彼の爽やかな笑顔は相変わらず。
こうなってくると、その笑顔が逆に不気味である。
この国で、最高位の王家と関わることができるのは、貴族とならんで兵士である。
だからこそ兵士達は、王子の『不気味さ』を、常日頃から感じていた。
どんな事があっても、予想外の事があっても動じないのは、それくらい臨機応変に対応できる、人
をまとめる人間としての大事な力。
だが、センタリック王子の場合は、その対応力に、違和感があるのだ。
まるで、『最初から分かっていた』と言わんばかりの落ち着きと対応。
だから兵士達は、まるで自分達が、いいように扱われている感覚が拭えない。
次期王位後継者である王子が優秀なのは、兵士達としても安心できる筈なのに、素直に喜べない節
が、最近ではさらに大きくなっていた。
今の王都の内情も、分かっている様で、分かっていないような雰囲気。
そんな王子だからこそ、一部で『王子の不気味な噂』が流行っている。
もちろん、そのうわさの数々に根拠はない。それでも、完全には否定できないから、噂なのだ。
そのどれもこれもが、現実味をおびていない、逸脱した話ではあっても。
そして、それらの噂を全部たばねる事で、今の王都の不穏な空気にも直結する。
『国を自由勝手にひっ掻き回している黒幕は、センタリック王子』
『両親である王・王妃も、弱みかなにかを握られて、意見すら言えない』
『別の国と手を結んで、意図的に国を衰退に追いこんでいる』
噂をあげだしたらキリがない。それくらい、センタリック王子は、『色んな意味で恐ろしい存在』
最近ではどの噂にも歯止めがきかず、ある事ない事が王都で蔓延して、もはや真実を探る事自体がタブーとされている。
それでも、センタリック王子の評価が下がらないのが、余計におそろしさを加速させる。
だが、兵士達は薄々わかっている。
もうその噂ですら、センタリック王子は把握したうえで、兵士達に命令を下しているのかも。
そうだとしたら、『メンタルが強い』とかの話ではない。
「次の出撃場所は『シカノ村』だけど、準備は進んでいるかな?」
「はっはい!!」 「いつでも出撃可能です!!」 「あとは王子の指示を待つのみです!!」