崩れ始めている王都では・・・(1)
「おいおい!! また出撃かよ!!!」
「今年に入ってからどんだけなんだ!!!」
「俺達だって暇じゃないんだ!!!」
門の見張りをしながら、罵声にも近い愚痴を言い合っている、兵士の3人。
普段、門の番は『5人体制』でするのが基本。
だが最近では、『3人』にまで人員を減らされている。
その原因・・・というか、上からの理由に、兵士達ですら納得できていない様子だった。
「王がついにおかしくなったのか??」
「あんなブクブクした腹を抱えていたんだ、死期でも悟ったんだろ。」
「それにしては、あまりにも・・・・・」
王都の住民ほどではないが、少なからず、兵士達も今の王家に不満を抱いていた。
何かと自分達を呼びだしては、どうしようもない事でギャーギャー騒ぎたてる。
「アイツがナイフで俺を刺そうとしている!!」
「コイツは俺に逆らった!! 刑に処する!!!」
その大半は、王の命令によって、強引に首を切断された。もう相手の言い分もおかまいなしに。
とくに最近は、血縁者であっても容赦しなくなった王や妃。
だから他の王家の人間や貴族は、極力王達に関わらないようにしている。
だが、こんな状況にもかかわらず、『出世』や『玉の輿』をねらうのが、地位の高い人間のさが。
その欲が、結果的に自分達の首を絞めているのだが。
もう今年に入ってからというもの、処罰が下された貴族や王族が、異様なほど多い。
城内の不安は、城の外にまで侵食して、王都の民も命を危機を日々感じている。
当然、彼らがどうして処罰の対象になったのかは、教えてはくれない。
それが余計に周囲の不安を加速させ、突然処罰の対象となってもおかしくない状況。
そんな民の不満は、すべて兵士に丸投げ。
今までもそうだったのだが、今の王家は、もうあらゆる面倒事を兵士に任せっきり。
そして、尻拭いに失敗すれば、処罰の対象。これほど理不尽なことはない。
もはや兵士として、王都を守る目的が、今となっては遥か遠くなっている。
彼らも本当は、そんな気高い心意気を胸に抱き、この仕事を誇りに感じていた。
しかし、もうそんな志が、『上』に利用されているだけなのは、兵士全員が分かっている。
以前も確かに『上』の存在は大きかった。だが今は、その存在が『恐怖』でしかない。
そう、この国の異変を最初に、身をもって感じていたのは、貴族・王族・国を守る兵士。
だが、それがいつ頃だったのかは、もう誰も覚えていない。
日増しに増えていく『上からの無茶な注文』も、『理不尽な命令』も、無意識に慣れてしまった。
・・・いや、もう『麻痺』していると言ったほうが正しいかもしれない。
誰も意見しない、否定しない。誰もが心を無くして、ただただ上の命令に従っている。
それが随分前から当たり前だった。だが最近では、その『麻痺』が、『壊死』に近くなっ
ていた。
身も心も、プライドも自尊心も、すべてがズタズタになったまま、職務を続ける兵士達。
だが、普段から鍛えている兵士でも、心や体に限界はある。
何もかもが腐り落ちれば、残るものはもう何もない。
感情も体力もうしなった、『廃人』待ったなし。
その瀬戸際が、もう既にそこまで迫ってきているのだ。
そして、今の状況も、必ず来るであろう未来の腐敗も、打開できるような案はない。
せめて今どうにかすれば、まだ国としての寿命はもつのかもしれない。
だからこそ、とっくに諦めていた案でも、再び手を伸ばす。
『もしかしたら』の可能性に賭ける事でしか、自分達は救われない。
惨めでもいいから、早くなんとかしないと、状況は悪化していく。
そして、それができるのは、王家と一番近い存在であり、ある程度権力もある兵士。
しかし、そんな淡い希望も、『底無しの欲望』を前にすれば、容易く消えていき・・・・・
「なぁ、そういえばドゥ先輩の姿を見かけないんだけど、もしかして・・・・・」
「あぁ、もう兵士達の間で噂になってるぞ。もう『首』らしいが。」
「えぇえ?!!」
兵士が大声をあげて驚くのも無理はない。
兵士達のなかで『首』というのはいわゆる『隠語』で、その意味は、文字通り『処刑』を意味する。
だが、兵士が処刑されるのは、よっぽど重い重罪を犯した場合のみである。
『ドゥ』という兵士長の1人は、兵士のみならず、民からも信頼を寄せられている、まさに『デキ
る上司』であった。
そんな彼が、国の上層部に喧嘩を売るような真似をするわけがないのは、誰でも分かっている。
王家の無茶な注文も笑って引き受け、家族の事も大切にしていたドゥ兵士長。
どんどん兵士達の空気が悪くなるなかでも、彼の懸命に頑張る姿は、兵士や民に勇気を与えていた。
『男』としても、『兵士』としても、憧れのまとであった兵士長。
これからの彼の活躍は、兵士達の間でも期待一色だった。
だが、この状況下では、どんな逸脱した噂であっても、現実離れした噂であっても納得できる。
いかに信頼をよせられ、実力を兼ねそなえた人間でも、決して安全である保証はどこにもない。
特にこの、人々の欲望や野望がひときわ多い王都にいたっては。
だが、連日続く、未来ある人々の悲しい訃報を飲み込むのにも、そろそろ全員の限界がきている。
「先輩の首を切るなんて・・・王家は何を考えてるんだ?!
先輩は何度も、王家を『暗殺者』から守ったんだぞ?!
それこそ、任務の為なら、命を惜しまない人だったのに・・・!!!」
「もう頼りになる兵士の何人かが除名されている。この国が滅ぶのも、そう遠くはないかもな。」
「・・・・・否定できないのが辛いな。
そうなったら、俺達どうするよ?」
朝っぱらからため息しか出ない兵士達。
最近では、王都の不穏な空気が異様なほど濃くなり、王都へ来てくれる人の数も、徐々に減少傾向になっている。