138・久しぶりの再会は 『白い巨人』に邪魔される
「に・・・・・兄さん!!!」
その顔は、翠・クレンにも見覚えがあった。
久しぶりではあるが、リータと同じ、黒い髪に黒い瞳。
そして、リータを見つけた際の、ちょっと子供っぽい笑みも、リータの兄そのものだった。
リータは慌てて兄のもとに駆けより、残る3人は、彼の兄と一緒について来た人々のようすを見た。
だが、2人にとって、その付きそい達にも、見覚えがあった。
「貴方達・・・・・まさかドロップ町を襲った!!!」
「ま・・・待ってくれ!!! 違うんだ!!!
俺達は・・・・・ゴホッ!!! ゴホッ!!!」
そう。
彼らはかつて、ドロップ町を遅い、リータ達の命を狙っていた、名もなき兵士達。
だが、その兵士達の様子を見る限りでは、前回よりもかなり深刻な顔になっていた。
「ゴホッ!!! ゴホッ!!! ウゥウウ・・・・・」
「わかった!!!わかったから!!!
とりあえず、私達に敵意はないのね!!!」
翠のその問いかけに、兵士の1人が激しくうなずく。
だが、兵士も含め、リータの兄も、だいぶ衰弱している。
雪とおなじくらい真っ白になった肌と、紫色に変色した唇。
一瞬だけ見たら、モンスターに間違えられてもおかしくないくらい。
もう動くのもやっとな様子で、門の前で動けなくなっていたのは、全員の体力が限界をこえていた
から、声をあげて助けも呼べなかった。
翠はひとまず、城壁の上で待機しているザクロ達に、精一杯両手で合図をおくる。
だが、ザクロ達の様子が、遠目からでも明らかにおかしいのに気づいた翠。
何かを必死に叫んでいる様子で、ザクロ達も必死で両手をふっている。
翠達には、ザクロが何を言っているのか分からない状況。
だがクレンは、ザクロの『目線』に気づいた。
ザクロや城壁上のモンスター達は、翠ではなく、『翠の奥』を見ていた。
そして、何かしらの準備を始めている様子に、クレンはすかさず銃をかまえた。
クレンの行動に、体をビクッと振るわせる兵士達だったが、 翠もクレンの様子を察して、とりあ
えずリータの兄達を里に入れようとする。
だが全員だいぶフラフラな状態で、半ば引きずりながら運ぶ。
その間、翠達の耳に、微かに入ってきた『荒い息遣い』
明らかに人間の出せるような音程ではなく、かなり野太い。
ザクロはリータの兄達がしゃがみ込んでいる後ろで、『白い毛むくじゃらのナニか』も、門に近づ
いているのを見つけたのだ。
それは、里でもかなり危険度の高いとされている、『ビッグフット』
その姿は、簡単に言えば『白いゴリラ』なのだが、里で厄介者あつかいされているのは、ある程度
の『知性』を持っている事にある。
だから、里でつくられた簡易的な罠には引っかからず、腕っぷしが強いザクロでも、退却させるのでやっとになった時も。
過去には、ビッグフットによって里の住民が何人も、怪我を負わされ、命を奪われた事も。
だから里の子供が外に出ないようにする為、大人達は口を揃えて言うほど。
「黙って里の外に出るとね、ビッグフットに舌を抜かれるのよ!」
「悪い事をするとね、」
当然、そんなことを言われた子供達は震え上がり、大人達の言いつけを守る。
ビッグフットは、里の住民にとって、脅威そのものである。
そんな相手が、後ろからジリジリと距離を詰めて来る。ザクロも気が気ではない。
翠達も、早くリータの兄達を避難させようとするが、人を1人担ぐのも、相当大変。
避難して来た人々は、もう立つ気力すらもない為、自力で立ちあがってもくれない。
もうビッグフットの荒々しい息遣いで、翠達も危機感をジワジワと感じ始めていた。
そして、ラーコは悟った。もう間に合わない事を。
ビッグフットとの衝突は、もう避けられない。だったら、武器を持つしかない。
「クレン、私も参戦するわ。」
「姉さんは彼らの避難を・・・!!!」
「貴方1人じゃ心配なのよ。それに、最近思った事があるんだけど
私達、姉と弟そろって、一緒に戦った事ってなかったなー
ってさ。」
「・・・姉さん・・・随分と余裕だね。」
「余裕なわけないんだけどね、楽しみでしょうがないの。」
そう言って、ラーコはナイフを2本、両手で持ちかまえる。
翠は2人の戦う光景を、もっと間近で見たい気持ちに駆られていたが、今はそんな状況ではない。
早くリータの兄達に、適切な処置をしないと、今にも息が途絶えてしまいそうだった。
リータもヨレヨレになりながら、頑張って1人ずつ、門の内側へ運んでいく。
そして、ようやく避難してきた人の半分を運べたところで、彼らを追ってきたモンスターが、つい
にその姿を見せる。
ラーコもクレンも、その姿を見て、思わず息を呑んだ。
明らかに、今まで戦ってきたモンスターとは格が違う。殺気もだが、大きさもかなりある。
真っ白な体毛に覆われ、血のように真っ赤な目をギョロギョロと動かしていた。
中途半端に空いている口からは、強靭で大きな歯が見えている。
ラーコとクレンを合わせたくらいの大きさで、明らかに2人を『餌』として見下している。
クレンは、先ほど用意した『ヘルハウンドのスナイパーライフル』を構える。
すると、体格からは想像つかない程、俊敏な動きでクレンに飛びつこうとするビックフット
そこを、クレンガ2つのナイフで、相手の『両目』を狙った。
すると、ビックフットは痛みで大暴れして、片腕だけでラーコを雪原へと吹っ飛ばしてしまう。
「姉ちゃん!!!」
飛ばされてしまった姉を目で追うクレンであったが、すぐさま視線を、狼狽えるビックフットに合
わせ、引き金を引く。
だが、ビックフットの胴体に直撃した筈の弾丸は、全身にびっしり生えている毛でカバーされ、体にはとどかない。