137・再びの来訪者
ドンッ!!! ドンッ!!! ドンッ!!!
ドンッ!!! ドンッ!!! ドンッ!!!
「んぁー・・・・・」
激しくドアをたたく音が脳内にまで響き、翠は自分の重いあたまをどうにか持ちあげる。
もうカーテンの隙間からは朝日が差しこみ、銀世界のまっ城な光が部屋を照らしているに、その日は誰1人として、起きられなかった。
昨晩は散々話しあいを続けた為、翠の喉はカラカラ。
翠はドアのノック音なんてお構いなしに、水を飲もうとドアをあけた。
すると、ドアの向こうにいたのは、息を切らしているグルオフ。
そこで翠はようやく、自分達が寝坊してしまった事実に気づいた。
「ごっ、ごめんなさい、グルオフ!!!
昨日の晩、ちょっと話し合おうとしたら、かなり長い間話し込んじゃって・・・!!!」
「そんな事より、すぐ来て下さい!!」
そう言って、グルオフは翠の手を引っぱり、そのまま屋上へと連れていく。
もう屋上にはザクロが、戦闘のスタンバイをしている状態で、その光景を見た翠の頭は、バッチリ覚めてしまった。
グルオフは、里に近づいて来る『何かの集団』を見つけた直後、近くにいた大人のモンスターに報
告して回った。
その時の大人達の対応は早く、供は鬼族の家に押し込み、ザクロや屋上の見張り組に報告。
その日もザクロは、丘の上で特訓に挑もうとしていた。
だが、大慌てで丘を駆け上がるグルオフから話を聞き、とんぼ返りして城壁まで戻って来た。
まだ若干寝足りない様子の翠を見て、ザクロはほんの少し笑った。
そんな彼の様子を見た翠は、慌ててボサボサになった髪をできる限り整える。
その間、ザクロが門付近を指差し、翠も目を凝らして見る。
確かにそこには、明らかに『動物ではない集団』がいた。
人間である翠の視力では、それが何なのか全然わからない。
だが、あきらかにザクロは、その集団が何なのか、分かっている様子。
何故ならザクロの顔は、『困惑』でいっぱいだった。
『野良モンスターの集団』に、ザクロがそんな表情になるわけがない。
それに、もしアレが『野良モンスターの集団』だったら、里を見つけた時点で、侵入しようと動く
はずなのだ。
だが、集団は里の前まできて、なにかを話しあっているのか、とにかく動かない。
あきらかにモンスターではない動きに、翠は思いきって、ザクロに聞いてみる。
そして、彼の口から出てきた言葉に、翠も唖然とするしかなく、同時に『嫌な予感』を感じていた。
「あれは・・・・・間違いない・・・
『人間の集団』だ・・・!!!」
「えぇ?!! この里って、そんなに頻繁に、人間が迷い込むような場所なの?!!
まだ私達が来てから、数日しか経ってないよ・・・!!!」
「あぁ、だから分からない。この里に、人は来ないはず。
なのに・・・!!!」
グルオフは、がんばって目を凝らしながら、城壁に身を乗り出していた。
それを見てヒヤヒヤした鬼の兄ちゃんが、グルオフを城壁の中へと連れて行く。
抵抗していたグルオフだったが、城壁から落ちたら笑い話では済まない。
騒ぎを聞きつけたクレン達も城壁の上へとのぼり、翠から事情を聞く。
だが、やはりクレン達も、動揺を隠せない様子。
もう城壁の上はパニック状態、こちらもこちらで、どう動けばいいか分からない。
門の近くでゴソゴソしている集団が人間なのは分かった。だが、問題なのはその後だ。
彼らに対し、一体どんな声をかければいいのか。
そもそも彼らは、何故こんな場所まで来てしまったのか。聞かなければならない事が山積みだ。
だが、彼らが素直に翠達の言うことを聞いてくれるのかも分からない上に、彼らが『偶然』来てし
まったのか、それとも『意図』があるのかさえも分からない。
前者なら、まだ弁解はできそうだが、後者になると非常に厄介である。
もちろん、ここで今までの努力を無駄にできない翠達も、彼らが気になってしょうがない。
これまで、よく分からない事に遭遇しつづけてきた翠達だが、今回に限っては、一番ハラハラしてい
る状況。
里の住民達も、不安を隠せない様子。
翠達の場合、王家であるグルオフが一緒だった事で、警戒心を抱かせなくて済んだ。
だが今回に関しては、相手が何者で、何の目的があるのか、さっぱり分からない。
これにはザクロも、頭をかかえるしかない様子。
相手がどんな存在か分からなくても、放っておくわけにもいかない。
もし、単に迷いこんでしまっただけなら、はやく助けてあげないと、このまま凍えてしまう。
何らかの意図があるにしても、それならそれで、放置するわけにはいかない。
散々話し合った結果、翠一行が、とりあえず話だけでも聞きに行くことに。
最初は翠も、「なんで私達が・・・?!」と言っていたが、お世話になっている身である事も考慮して、腹をくくる事に。
「いいか、ミドリ。もし相手が襲いかかって来たら、迷わず捕らえろ。逃すな。
迷い込んだなら、俺のところに戻れ。」
「分かった。じゃあ・・・・・行ってきます。」
無言で翠を応援する里の住民。
翠達はプレッシャーを背負いつつも、徐々に集団と距離をつめていく。
積もっている雪のせいで、相手の声も、翠達の足音もまったく聞こえない状況。
窓から覗き見ているグルオフに関しては、グッと両手をにぎりしめながら、大事にな
らないのを切に願っていた。
だが、集団の顔がはっきり見えるようになると、真っ先に声を上げたのは、リータだった。