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136・里の朝は早い

「ひぇー・・・積もりましたねー・・・」


「お兄ちゃんは、雪の上でフミフミしてねー!」


 昨晩ふった雪は、里の住民達が寝ている間に、外を白でぬり固めてしまう。

里でふる雪はサラサラして軽いのだが、その頻度が多い為、定期的に雪をのけないと、生活に支障がでてしまう。


 雪かきをサボった家は、遅かれ早かれ家自体が潰れる。

そうなったとしても、『自業自得』で片付けられる。それがこの里である。

 しかし、雪かきは大人も子供も、全員で手伝い、よその家や畑もきれいにする。それがこの里。

厳しい環境のなかで生きる、住民達の厳しさと優しさは、今日も健在である。


 まだ小さい子供も、ときおり雪で遊びながら、頑張って汗を流す。

この里で一番の体力仕事は、雪かきなのだ。

 寒さに負けずに雪かきに集中する事で体も温まる事から、里では雪かきが『健康療法』である。

だから里の住民は、自然と体が丈夫に育っていくのだ。


 それに、雪は里にとって、決して『邪魔なだけの存在』ではない。

溶かして水にして料理に使ったり、武器の手入れに使用したり、痛めた体の部位に当てる。

 ずっと雪と共に生活してきた里の住民は、雪をあらゆる場所で活用させる。

自然の厳しさや恵みも、ちゃんと実感してこそ、この里の住民は平和に生活できる。


「うわわぁ!!!」


「グルオフ兄ちゃん気をつけて!! しっかり足を踏み込んで!!」


「りょ・・・了解っ!!!」


 自分よりも年下の子供に、ビシバシと指導されるなか、グルオフは汗を流しながら雪を踏み固めて

 いる。

朝早くに目が覚め、外では子供達が雪かきを準備をしていた為、目覚ましついでにグルオフも参加す

る事にした。

 

 雪を踏みかためる作業もかなり体力を使う為、グルオフの顔は一瞬で真っ赤になってしまう。

油断していると、雪の中に体がうもれて、救出するのも大変。


 だが、やはり子供は慣れるのがはやい。

数分間、『先輩』である子供達と一緒に、一生懸命雪を踏みつぶしていけば、足もだんだんと軽くなっていく。


 同時に体も慣れはじめ、途中から雪のうえから見える景色をたのしみながら、子供達と手をつなぎ

 はしゃぐグルオフ。

ちなみに、ほかの4人はまだ寝ている。

 昨晩、話しあいに夢中になりすぎて、まだ夢から出られない。


 いつもなら、一人きりで動くとラーコに怒られていたグルオフ。

だが、里の住民全員が、グルオフの事情を把握してくれている為、里なら自由に歩けるように。

 周囲は背の高い山や、真っ白な雪の層で覆われている為、里に出る心配もない。

ラーコにとっても、この里は心の底から安心できる場所である。


 いつ見ても、どんな時でも、里のなかは相変わらず銀世界だが、それでもグルオフにとっては、毎

 日ちがう場所に見えてしまう程、この里は魅力にあふれている。

それぞれが違う個性・姿を保ちつつ、互い認めあう。だからこそ、毎日一緒にいて、飽きないのだ。


 里からは遠く離れた場所にあっても、国の中心地である王都が、『里の普通』や『里の魅力』が通

 じない。

『モンスターが束になって暮らす』なんて、王都の民からしたら、とんでもない話である。




「よーしっ、ある程度固まったね。ほら、座っても全然沈まない!」


「フヒーッ!! お疲れしゃまー!!」


 グルオフと子供達は、踏みかたまった雪のうえに座りながら、朝日がのぼる光景を見届けていた。

朝日が雪原に降りそそぎ、真っ白だった世界が黄金に輝き始めるひととき。

 この景色を眺められるのは、早起きの特権である。

朝からしっかり動いて疲れはてている子供は、グルオフの肩にもたれかかっていた。


 グルオフはこの里に来て、今まで経験した事のない、『年が近い子との交流』が、とにかく楽しく

 て仕方なかったのだ。

王都にいる時は、ただ眺めているだけの、憧れていた世界に溶けこめる嬉しさは、今までの苦しみも悲しみも払拭ふっしょくしてくれる。


 『一緒にいるだけで楽しい』という気持ちは、ラーコと一緒にいても感じられるが、同世代との付

 きあいは、それとは少しちがう。

同世代だからこそわかる、複雑な気持ち。


 時にはぶつかり合う事も含め、今までは憧れでしかなかった『親近感』を、グルオフはずっと求め

 ていたのだ。

グルオフにとっても、この里に到達できた甲斐は、大いにあった。


「さてと、そろそろご飯に行きましょうか!」


「お兄ちゃん、なんでいつもそんな言葉ばっかり使うの?

 ふつうでいいのに。」


「ごめんごめん、つい癖で。雪遊びすると、ついつい雪を食べたくなるのと、同じですよ。

 普通に話したくても、話せない。やりたくてもできない。

 本当は、僕自身も変わりたいんですけどね。」


「なるほどー・・・・・




 ・・・・・???」


 雪の丘から降りようとした子供が、立ち上がると同時に動きをとめる。

後ろにいたグルオフや子供達は、その背中にぶつかって倒れてしまう。

 幸い、誰も丘の上から落ちなかったが、立ち止まった子供は、遠くを見ながら固まっていた。


「イデデデデデ・・・・・

 みんな、大丈夫?」


「うん、お兄ちゃんも大丈夫?


 ちょっと! 急にこんな場所で立ち止まらないでよ!」


 倒れた別の子供が怒っても、まったく反応しない。

グルオフは立ちあがり、遠くに何があるのか、自分も目を凝らしてジッと見つめる。

 そこは、翠達もかつて通った、門につづく道。

まだ道は雪をのけていない為、ほぼ周囲の景色に溶けこんでいる。


 だが、人間のグルオフでも見えた。




 『何かの群れ』だ。

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