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14・鏡の前の自分

 改めて、翠は少年に色々と聞き出した。

 この世界に来たばかりの翠に、少年はしっかり丁寧な説明を加えてくれたおかげで、翠はこの世界の『仕組み』や『暗黙のルール』を学び始める。


「僕達モンスターが、何故虐げられているのか、それは誰にも分かりません。

 でも僕は、この世界を生きていく上で、その仕組みを強引でもいいから理解するしかなかったんです。


「・・・そもそも貴方って、『モンスター』って部類なの?

 モンスターって・・・こう・・・『スライム』とか『ミミック』とか、『人の姿をしていない生き物』の事じゃ・・・??


「人間や家畜以外の生物は、ほぼほぼ『モンスター』で分類されています。」


(なんか・・・すっごい強引な気がする・・・)


 翠は少年の説明を1から10まで全部聞いた。しかし、到底理解できない箇所もあり、翠の疑問は晴れないまま。

 そもそも、少年が人間から差別される道理も分からなければ、酷い扱いを許容されているのも理解できない。

 ・・・いや、許容されているのではない。『黙認』しているのだ。この村の住民、全員が。

 少年の話を聞く過程で、翠は心の何処かで気づいていたのだ。


少年が、『奴隷』という形で、この村に滞在される事を許されている事を。


「・・・ねぇ、この村に住んでいるモンスターって、君以外にもいるの?」


「いる・・・と思います。」


「え?」


「大抵・・・此処での生活に耐えられなくなって逃げ出すか、もしくは・・・」


「じゃあどうして、君は辛い思いをしてでもこの村に留まりたいと思うの?」


「だって・・・自分全然戦えませんから。村から出たところで、生きられる未来がないんです。

 この村に住めば、数日は頑張って生きられますから。」


 そう言っている少年の顔は、純粋無垢な笑みだった。

 そう、「数日生きられるだけでも幸せ」というう心情である。

 しかし、そんな思考をもつ少年に対して、まだ翠は信じられなかったのだ。

 仮に、この世界に住む人全員が、少年のように厳しい境遇でも生きているのなら、まだ納得できたかもしれない。

 しかし、少年は自分の置かれている状況に疑念を感じなければ、不満も抱いていない。

 この境遇を『当たり前』として受け止め続けているのに、違和感すら抱いていない。

 その上、少年は自分に酷い事をしている村の住民に、文句一つ言わない。

 ただ黙って、その酷い仕打ちを受け入れている。そんなの、決して許されていいわけがない筈なのに。





(・・・・・・・・・・


 ・・・どうしてだろうか・・・・・

 どうして彼を・・・




 『過去の私』と照らし合わせてしまうの・・・??)



 『しょうがない』『どうする事もできない』

 そんな言葉の為に、一体どれくらい、抱いてきた感情を捨ててきたのか。

 その言葉は決して、『自分を説得する為の言葉』でもなければ、『魔法の言葉』でもない。

 この言葉を頭に浮かべて、どうにか自分を納得させようとしても、ただただ辛くなるだけ。

 それでも、飲み込まないといけない状況に陥った事は、翠でもあった。


「私はゲーム好きだから、いじめられても仕方ない」

「私1人では、どうする事もできない。

 だって、先生に相談してもダメだった。親にも迷惑はかけられない・・・

 だから、私が黙っているしかない。その方が・・・」


 そう言い続け、言い続け・・・


(・・・・・・・・・・




 はっ・・・・・


 馬鹿みたいな顔してる・・・)


 少年の笑みは、『旧世界の自分のぎこちない笑み』に見えてしまう翠。

 全てを諦め、全てに耐え、それが至極当然であるような表情。


(・・・一体誰だよ・・・


 「笑顔でいれば幸せになれる」とか言ってた奴・・・


 ・・・本当に誰だったっけ? テレビか・・・ゲームか・・・

 ・・・こんな状況下で、笑うだけで幸せになれる・・・なんて、夢物語にも程がある。

 彼が求めていたのは、『大金持ち』になる事でもなければ、『権力者』になる事でもない。

 ただ・・・『普通の生活』が欲しかっただけ。

 村に住む人々と変わらない、普通にご飯を食べて、普通にベッドで寝て、普通に・・・・・


 それが、何故許されない・・・・・

 何故・・・何故・・・)


 翠の感情は、いつの間にか『同情』ではなく、『苛立ち』へと変わっていた。

 しかし、翠が苛立っているのは少年ではない、『過去の自分』だ。

 異世界へ転生した翠は、何でもできた。

 緊急事態ではあるものの、しっかりと立ち回る事もできたし、少年ともしっかり話し合う事もできている。

 それなのに、転生前の自分は、一体何をやっていたのか。何であんな無駄な時間を過ごしてしまったのか。

 転生した翠でも、過去の記憶の怖い感覚が拭いきれない。だから、少年の気持ちにも同情できてしまう。

 でも、そんな同情している自分が、許せない感情もある。

 自分の感情がグチャグチャに入り乱れ、翠は無意識に唇を噛む。


「・・・そういえば・・・まだ貴方の名前を聞いてなかったんですけど・・・」


「・・・・・あ、忘れてた・・・

 えーっと・・・私はた・・・・・」


「・・・『た』???」


 翠は自分の名前を口走ったものの、すぐにUターンする。

 この世界には、『苗字』+『名前』という概念があるのか。疑問が過ぎったから。

 単に名前を告げるだけなのに、何故か慎重になる翠。

 頭が混乱しすぎて、何処を注意するべきなのか、基準が壊れてしまったのだ。


「・・・ごめん、少年。先に君から名乗ってくれないかな?」


「え・・・・・?

 ・・・とは言われても・・・


 物心ついた時から、自分は『リン』と呼ばれていた記憶しかないので・・・」


「そっか、リンね。

 じゃあ私は『ミドリ』」


「『じゃあ』って何ですか・・・??」


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