135・進化を遂げたもの___
夜になり、あらためて翠・クレン・リータ・ラーコの4人は、真・覚者になった際に組み合わせた
武器を教えあう。
その隣では、グルオフがグーグーと熟睡している。
今日も今日で、楽しい一日になった様子で、明日に希望を馳せている、明るい笑顔のまま寝入って
いたグルオフ。
毎日が『発見』と『勉強』で溢れている、子供らしい顔。
やはり、成長する為には、安全で安心な『環境』が絶対条件である。
翠達も、グルオフも、成長がめまぐるしい。その成長のはやさに、自分自身がついていけない程。
だからこそ、こまめに『話し合い』をしないと、自分や仲間が、一体どれくらい進んだのか分から
ないのだ。
自分のことだけではなく、『最近気づいた事』や、『疑問に思った事』も。
「それにしても、どうしてこの里のご飯は、こんなに美味しいんだろう・・・?」
「さぁ・・・・・
それを全て把握した上で、この里に隠れ住んだなら、相当な策士だよね・・・」
この里の料理も美味しいが、『おやつ』も美味しい。
クレンは食堂にのこっていた『薬草入りの焼き菓子』を口にしながら、首をかしげていた。
やはり、『素材』が上質なら、どんな料理でも美味しくなる。
この里の料理がおいしいのは、そもそも元がすぐれているから。
旧世界のように、『ビニールハウス』や『輸入』に頼らないこの世界で、冬でも美味しい食べ物で
おなかを満たせるのは、それこそ『夢』のよう。
この上ない贅沢である。里の料理も、翠達の成長におおきく関係しているのだ。
「そういえば、この里って、万年『冬』らしいよ。」
「え?」「え?」「え?」
3人は、一斉に翠の方へ振り向いた。
「その理由はザクロにも分からないみたいだけど、そうゆう土地柄なんだと思うよ。」
「___ますます分からないけど、それでも『不気味』とは感じないよ、私は。」
「まぁ、お世話になっている身としては、文句なんて言えるわけありませんよ。」
リータのその言葉に。翠達は大きくうなずいた。
リータはあの後、約1時間後には、お昼ご飯を求めるくらい元気になっていた。
今のところ、真・覚者になって一番成長しているのはリータである。
翠の場合、自身の力を上げる事より、ザクロとの一騎打ちに夢中になっている。
結局、決着はつかないままではあるが、それでも翠とザクロにとって、大切な時間。
「えーっと・・・つまりまとめると・・・
私が 『ヒーラー』と『槍』
クレンが 『召喚師』と『銃』
リータが 『剣士』と『回復』
ラーコが 『アーチャー』と『ナイフ』
・・・・・・・・・・
ほぼ変わらないじゃなん!!!」
翠がそう言うと、3人は再び大きく頷いた。
新しい境地に踏み行っても、結局はいつも通りの4人。
自分達らしくて、ちょっと笑えてしまう。
だが、あまり深く考えるような事でもなかった為、密かに安心する4人。
そして話題は、いつの間にか『今の自分達』ではなく、『今後の自分達』へと変わった。
「・・・ねぇ、ラーコ。今の私たちなら、偽・王家に勝てると思う?」
「私はその気だけど、まだ相手に関する情報が少なすぎるから、何とも言えないな・・・
それこそ、私達の予想を上回る、とんでもない『武器』とか『戦術』が出てくるかもしれない。」
ラーコの言う通り、自分達がどんどん強くなっていても、油断はできない。
王都にいる時、情報収集ができればよかったのだが、自由に歩き回れる身でもなかった。
どこから足がつくのか分からない状況では、情報収集に乗り出せなかったのも仕方ない。
ある意味、翠達の冒険は、綱渡りがずっと続きながらも、ギリギリで先へ進めているのだ。
『ゲーム』の場合、相手の戦術や得意分野に合わせ、自分達のパーティーを組み立てたり、武器を
変更する。
しかし、翠達にそんなチャンスはない。一発勝負でどうにかするしかない。
だが今回の場合、少しの失態でも命取りになる。
翠達には、まだ希望の光は残っているが、それが潰えてしまった先にあるのは、『泥試合』
そうなると戦力的にもキツくなる上に、グルオフの名に傷をつける事になってしまう。
もちろん、そんなに簡単にいくわけないのは、翠達も重々承知している。
不安が増していく翠達のなかで、唯一首を傾げていたのは、クレンだった。
「そうかな?
彼らに、そんな事をするくらいの警戒心があるとは、考えづらいんだけど・・・」
「クレン、ああゆう『後ろめたい事がある人間』っていうのはね、過剰なほど心配性なものなの。
だから、ある程度いろいろな事態を想定しておくのに、越した事はないでしょ?」
「・・・・・ミドリって、どうして時折、そんな・・・・・」
何かを言いかけ、自らの口を自らで塞いだクレン。彼はとっさに、
「お年寄りみたいな事を言うんですか?」
と言いかけてしまった。
だが、言おうとした直後に、その発言のヤバさに気づいた。失礼なんてレベルではない。
だからクレンは、口から言葉が出てしまう前に、口で言葉をふさいだ。
そんな彼のようすを見て、唯一状況を理解していない翠と、必死に笑いを堪えるリータとラーコ。
その晩、4人は夜更けまで、雑談を楽しんだ。
里に来てからは色んな仲間に恵まれた事で、4人だけになる時間はとれなくなってしまった。
だから、久しぶりに4人で話し合えるこの時間が、もうすでに懐かしく感じている。