132・『種族の違い』によるすれ違い
「母さん、イケニエで、雪山に捨てられた。そこを、父さんがひろって・・・」
「・・・そうなんだ・・・・・
じゃあザクロは、お母さんがどこ出身なのかも、分からないわけか・・・」
「うん。でも母さん、里のみんなと、いつも仲良くしてた。
髪が白くなっても、こしが曲がっても。」
「・・・・・良いお母さんだったんだね。」
「でも母さん・・・・・人間、モンスターと違って、長生きしない。」
「あぁ、そっか・・・・・」
(『種族の違い』にで、色々なトラブルは発生してしまうのはよく聞くけど、そのなかでもっとも悲
しいのは、
『寿命の差』
なのかもね)
翠にとってこの問題は、決して他人事ではない。
これからザクロとは、長く深く付き合う事になる。
そうなると、必ずこの問題に、『人間』である翠・リータ・グルオフは直面する。
エルフ族であるクレンとラーコについては、本人達も自分の年齢が分からない様子。
だが、『年齢』と『見た目』が、翠やラーコとほぼ同じ事から、年のとり方はほぼ人間と同じなのかもしれない。
ザクロの母も、翠と同じ心境をかかえていたのだ。
旧世界でも、『ペットとのお別れ』が、動物を飼えない人の理由にもなっている。
それは、犬・猫と、人間の寿命に差がありすぎるから。
犬・猫にとって、一年の経過が、人間の何倍にもなる。
「ついこの前まで、あんなに小さかったはずなのに・・・」と思うのは、人間の赤ちゃんでも、動
物の赤ちゃんでも思える。
しかし、その『ついこの前』が、『たったの1年』か『一年以上』かで、言葉の重みは違う。
もちろん、人間でも動物でも、お別れは悲しい。
だが、愛する存在が自分よりも先にいなくなってしまうのは、誰だってかなしい。
そうゆう事もふまえて、人間は動物を飼い、毎日精一杯めでる。それが、『動物を飼う心構え』
しかし、人間よりも寿命が長い、『リザードマン』と『人間』の場合はどうなのだろうか?
『人間』と『動物』の関係が、逆転したようなもの。
それでも、リザードマンであるザクロは、母との記憶をしっかり心に刻んでいた。
自分よりも寿命が短い、母である人間との、おかしくも、たのしい記憶。
「俺、まだ力の加減、分からない時、母さんを傷つけた。俺、その時すごくかなしくて・・・
でも母さん、ゆるしてくれた。傷だらけになっても。
俺、ちゃんと怒ってくれた、叱ってくれた。母さんが人間でも、俺には関係ない。
今もずっと、大好きなままだから。」
「・・・今頃、お母さん喜んで涙を流してるかもね。」
「・・・・・なら、お母さんも喜んでるよ。」
照れ臭そうにしながらも、ザクロが母親を慕っていた事は、彼の顔を見ればよく分かる。
ザクロの母親は、極寒の地へすてられた事で、つらくて理不尽な運命を、受け入れるしかなかった。
だが、彼の父親に救われた事で、その運命が大きく変わったのだ。
そして、救われた恩を返すように、里や息子に尽くしてきたザクロの母親。
「じゃあさ、ザクロのお父さんが亡くなったのって、どれくらいむかしの話なの?」
「・・・ごめん。それも覚えてない。
父さんは、ずっと里を守り続けてた。父さんは、すごくかっこ良かった。
母さん亡くしてからは、ずっと暗かったけど、立ちなおった。里の為に。
母さんも、里が大好きだったから。」
「・・・・・そっか・・・」
「でも父さん、ある日、里に攻めてきた強いモンスターに・・・」
そう言いながら、ザクロは自分の胸をおさえつける。
その様子から見て、彼の父が、心臓を貫かれた情景を想像できる。
その光景をまのあたりにしたザクロは、相当ショックだった。
そのトラウマを思い返した彼の顔色は、一気にあおざめてしまった。
(・・・つまり、まとめると・・・
ザクロの母は人間で、『元・人柱』だった。
ザクロの父は、この里のリーダーみたいな存在だったのね。
その地位を、ザクロが継いだ・・・ってわけか。)
ザクロが里の住民から親しまれている理由は、もちろん実力もある。
だが、彼の祖先はずっと、この里を守り続けてきた、由緒ある血族。
そう考えると、アメニュ一族とよく似ている。
ザクロの一族もアメニュ一族も、『国の基礎・原初』を守り続けたのだ。
2つの種族が滅びなかったおかげで、まだ翠達にも勝利の可能性が残されている。
偽・王家は、彼らの『意志』『心』の強さを見ていなかったのだ。
どんな逆境にも、困難にも、彼らはずっと向き合い続けてきた。
それこそ本気で相手をしなければ、国の創造に関わった、この2つの種族は簡単にほろぼせない。
「きっと勝てると思うけどな、自分達なら。
どんなに強大なモンスターが相手でも、国を乗っ取った集団でも。」
うしろから2人に声をかけてきたのは、背伸びをしながら歩いて来たクレン。
「あれ? クレン?
真・覚者の話を聞いてたんじゃ・・・?」
「さっき終えたところ。」
そう言うクレンだが、翠とザクロは、首をかしげていた。