130・皆が『特別』
「えー・・・・・改めて考えると迷っちゃうなぁ・・・」
「ラーコブだったら、どんな組み合わせでも順応できると思うよ。」
一方、グルオフとリータのチームは、鬼族から真・覚者の説明を受けていた。
ラーコは、人差し指をピクピクと動かしながら、渋い顔をしている。
グルオフには関係ない話ではあるが、彼も熱心に考えてくれている。
仲間の成長は、身近な人ほど嬉しく思うから。
鬼族の住んでいる家は、城壁の大きさには劣るものの、里で一番大きなお屋敷。
力強い一族な為、大きな家を建てるのもお手のものなのだ。
そして、鬼族の大半は『大家族』 だから、屋敷の中はとても賑やか。
ラーコがあれこれと悩んでいる間に、グルオフの元へ、ちっちゃい鬼ちゃんが這って来る。
グルオフはそんな鬼ちゃんにも優しく接しながら、ほっぺをモチモチと突く。
あまり赤ちゃんを肉眼で見た事がなかったグルオフは、そのあまりの可愛さに、ついつい顔がにやけてしまう。
正当なる王家の血筋を残せただけでも、グルオフの両親は大義を成せた。
グルオフの兄弟姉妹まではつくれなかったものの、それでも彼が、気負う程の寂しさに悩まされる事はなかった。
鬼族はそんなグルオフの半生を聞き、涙を流してくれる鬼もいた。
モンスターであっても、彼の半生は誰が聞いても、『壮絶』としか思えない。
しかし、鬼の赤ちゃんに笑顔を向けるグルオフの顔は、やっぱりまだ小さな子供。
彼がこの里も含め、この国を担う役目を、遅かれ早かれ担う事になるのは、酷に酷を重ねるような
ものなのかもしれない。
だが、当の本人はその覚悟はできている様子。
「お兄さん、一つ聞いてもいいですか?」
「何ですか?
未来の国王様。」
「やめてくださいよ、まだその見通しがたったわけでもないのに・・・
この里の住民が、全員真・覚者である話は聞いたんですけど、この里では真・覚者になる事が、一
種の『大人になる為の試練』でもあったりするんですか?」
「鋭いですね、その通りです。
この里では、真・覚者になって初めて、『成人』になるんです。
里をウロウロしているモンスター達を粗方倒してれば、真・覚者は割とすんなりなれるからね。
もちろん危険も伴うけど、それも含めて、『大人になる為の試練』でもあるの。
まぁ・・・・・わたしらモンスターと比べて、体力や精神力が低い人間からすれば、『生死を問う
修練』なんだろうけど。」
「・・・いいえ、すごく良い習わしだと思いますよ。
確かに危険と隣り合わせではありますけど、その経験で得られる事も、沢山あると思います。
僕も、もし覚醒者だったら、もし戦える立場にあったのなら、挑んでみたいです。
・・・それに、この里より王都の方が、僕にとってはよっぽど危険な場所だったので。」
「あはははは・・・・・」
笑いながらそんな事を言うグルオフを見て、鬼の母ちゃんは苦笑いを浮かべるしかなかった。
グルオフの気持ちも同情できるが、そんな事を呑気に言える立場にはない。
だとしても、『子供の好奇心』を、『大人の事情』で潰されてしまうのは、歯痒い気持ちになる。
「・・・・・・・・・・よしっ!!! コレに決めた!!!」
散々悩んだ挙句、ラーコが大声をあげて、ようやく選択肢を固めてくれた。
その声に驚いたグルオフと鬼の母ちゃん、すぐさま、ラーコが選んだジョブを見てみると、光っていた項目は
『シーフ』
「・・・・・なんか・・・そこまでびっくりはしませんね。」
「そうなの?」
「えぇ、昔からラーコブは、身体能力が優れていて、とにかく動きが素早かったんです。
その体質を生かして、今まで僕を守ってくれていたんですけど・・・・・
・・・ラーコブ、大丈夫???」
「国王様、今はそっとしておいてあげて。
今頑張って、彼女の体が『大人になる段階』へ進んでいるんだから。」
翠と同じく、証が変化していく光景を、グルオフはずっと見守っていた。
ラーコも翠同様、熱さに苦しみながらも、それを頑張って耐えていた。
『弓の証』に『短刀の証』が加わり、鬼の母ちゃんはその間に、雪をタライに詰めて来た。
そしてザクロの時と同様、雪を布に包み、ラーコの頬に当ててあげる。
その光景に、興味津々で駆けつけて来た子供達は、ラーコにちょっかいを出そうとするが、グルオ
フがしっかり制止する。
ラーコの様子から見て、子供達も、真・覚者になる『最後の試練』である事を察している様子。
「ねぇ、グルオフお兄ちゃんは、もう真・覚者なんでしょ? 何を組み合わせたの?」
「え??
・・・・・ごめんね、お兄ちゃんは真・覚者になれる資格はないんだ。」
「えー?? 何でー??」
「さぁね。でも僕も、一生懸命皆と一緒に頑張るから、許して。」