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128・互角

 リータと鬼の兄ちゃんが丘を登り切った頃には、広場の中央の地面からは、あちこちで土が見えて

 いた。

翠とザクロが、縦横無尽に走り回りながらも、なかなか武器が相手に届かず、戦いは平行線のまま。

 

 それでも、まだ互いに諦める気はない様子で、とにかくがむしゃらに武器を振るう。

翠に関しては、ザクロと同じくらいの雄々しさが、リータや鬼の兄ちゃんを震え上がらせている。


 昨日の戦いで、相手の間合いや立ち回り方を、お互いに熟知しているのも、なかなか勝負が決まら

 ない要因でもある。

分かっているからこそ、互いの動きを把握して、体や武器を操る。


 翠もザクロも、顔を真っ赤にさせながら奮闘するが、互いにあと一歩がなかなか届かない。

互いの足元は、かき分けた雪が大量に付着しているにも関わらず、互いに迷いも遅れもない。

 長期戦になればなる程、戦いにくくなってしまう状況ではあるこの環境。

それが、里の住民が強い秘訣の一つなのだ。


 なるべく短期決戦で挑まないと、足が凍りついて、最悪凍傷を起こしてしまう。

だからあえて、『足場の悪い環境』で修練を重ねる事で、どんな環境でも立ち振る舞える。


 武器と武器がぶつかり合うのと同時に、鈍い音が里全体に響く。

だが、翠とザクロは、息を切らせながらも笑みをこぼす。

 やはり互いに、このひと時を楽しんでいる様子。

傍観しているリータと鬼の兄ちゃんは、気が気でないのだが・・・


 もうなりふり構わず、自分達の本能のまま、相手にぶつかるその姿は、『野獣』を彷彿とさせる。

リータは見ている途中から、どっちがザクロなのか、どっちが翠なのか分からなくなった。

 それくらい、戦況が目まぐるしく変わり、どちらが勝ってもおかしくない戦い。

明らかに、昨日とは戦いの度合いが激しくなっていた。


 2人の武器が、あれだけ振り回されて壊れていないのが不思議なくらい。

もうリータも鬼の兄ちゃんも、2人を止める気は、あるわけがなかった。


 あんなバチバチの戦場を目の前にして、参戦しようとするのなら、それこそボコボコにされるのを

 覚悟しないといけない。

特に翠とザクロは、手加減なんてしない性格だ。


 それが、翠とザクロの良いところ・・・でもあるかもしれない。

だが、そんな現場に居合わせて、ヒヤヒヤしないわけはないのだ。


 リータと鬼の兄ちゃんは、無言で目線を送り合い、どちらがこの試合を止めるべきか、迷いに迷っ

 ていた。

もうそんな事をしているうちに、太陽はもうすぐ真上に来そうである。




「はぁ・・・はぁ・・・っ・・・はぁ・・・・・」

「フゥー・・・フゥー・・・・・」


「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」


 リータと鬼の兄ちゃんが悩んでいると、突然翠とザクロの動きが止まる。

そして、武器を下ろし、2人で傍観しているリータ達を見つめる。


「・・・・・ごめん、もうやめる。」


「・・・そうだな。これ以上は、もう決着つかない。」


 2人が止めるよりも先に、頭が冷えたのか、体力の限界を感じたのか、戦っていた翠とザクロがこ

 の勝負を終わらせる。

そして、翠とザクロは、互いにその場で腰を下ろす。そして、急速に体を冷やし始めた。


 リータが2人の武器を見てみると、あれだけの熱戦だったにも関わらず、傷や凹みが一切ない。

それを見たリータが驚いていると、鬼の兄ちゃんが口を開いた。


「姉ちゃん、昨日の夜に『真・覚者』になったばかりだろ?

 なのにあんだけ動けるなんて・・・・・

 凄いを通り越しておかしいぞ。」


「はははっ、自分でもそう思うよ。」




「・・・み・・・ミドリさん? 真・覚者って・・・???」


「あ、リータにはまだ言ってなかったね。えーっと・・・・・




 ・・・ごめん鬼いさん、リータと・・・あとクレンとラーコと、グルオフにも、真・覚者につい

 て、説明してほしいだけど・・・

 私、また忘れちゃうところだった・・・・・」


 そう言って、翠は自分の首にさがっているお守りをザクロに見せる。

それを見たザクロも、そのお守りについての詳細を聞く事を思い出した。

 鬼の兄ちゃんは、若干面倒臭そうにしていたが、リータにも「お願いします」と言われては、断る

 わけにもいかない。


「一旦温泉入ってから帰るから、よろしくね、リータ。」


「折角ここまで登ってきたんですけど、出戻りですね。」


 そう言いながら、リータはハハハハッと乾いた笑いを浮かべる。


「じゃあ明日は、私と勝負しない?」


「え・・・・・・・・・・???」


 翠はてっきり、その提案にリータは乗ってくれる・・・と思っていた。

だが、リータの反応は予想外だった。たった一言だけ呟くと、そのまま固まってしまう。

 翠が彼の目の前で手を振っても、全然反応しなかった。彼の様子に、3人は首を傾げる。


 試合のお誘いを受けたリータは、一瞬で喜びが頂天に達した。

だが、その直後に、困ってしまったのだ。

 味方には一切武器を向けた事がないリータは、味方に対して、どう立ち回ればいいか分からない。


 本気を出さないと、翠に怒らせそうではある。

だが、様々な感情が邪魔して、本気をぶつけられないリータ。

 その葛藤を抑えるのに精一杯で、リータは黙って丘から降りていく。返事も言えぬまま。

そんな彼を見て、翠は首を傾げたが、ザクロや鬼の兄ちゃんには、彼の心境が察せている様子。


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