127・里の上で響く・・・
「ミドリってかなり自由な人だな。」
「それ、出会った頃の僕も思ったけど、気づけばもうそれが普通になっちゃったなぁ・・・」
温泉へと向かうクレンとグルオフを見送り、リータは鬼の兄ちゃんと共に、修練場からなかなか帰
って来ないミドリとザクロを呼びに行く。
もう翠がザクロを探しに行ってから、数時間は経過している。
その道中、鬼の兄ちゃんと遭遇して、丘の存在を教えてもらったリータ。
彼がよくその丘の上で、修練に励んでいるのを、鬼の兄ちゃんはよく知っている。
鬼の兄ちゃんとザクロは、生まれたのが比較的同じくらいな為、2人は『幼馴染』でもあり、『ラ
イバル』でもある。
そんな2人の昔話に、すっかり聞き入ってしまうリータ。
彼にとってその話は、自分と兄に照らし合わせられるから。
兄も鬼の兄ちゃんと同じく、活発で何事にも臆しないタイプだった。
「へぇー、リータにも兄ちゃんがいたんだ。でも、俺もリータみたいな弟が欲しかったなぁー・・・
俺の弟と妹、もうとにかくヤンチャで、抑えるのに精一杯なんだよ。」
「・・・僕の場合、暴走する兄さんを止める役目を担ってました。
はははっ」
すっかり鬼族と仲良くなったリータ。
彼らの強引なノリに振り回されつつ、リータは鬼族に馴染めている。
鬼族の強引な性格は、自分の兄で学習済みだったリータ。
懐かしい気持ちになりつつも、『異種族交流』もしっかり楽しんでいる様子。
リータは彼らに『武器の扱い方』を教え、鬼族はリータに『剣術』を教える。
互いのメリットやデメリットを補える、『凹凸の関係』である。
そして、リータが鬼族の間で活躍できるのは、『武器』に関してだけではない。
リータの生まれたドロップ町では、『薬』の生産が豊富だった為、警備の仕事で怪我が続く鬼族にとっては、ピッタリなのだ。
鬼族はこの里のなかで、リザードマン(ザクロ)と並ぶ、戦闘力の持ち主。
そんな彼らだからこそ、傷や怪我は、常に付きまとう。
そして、軽い怪我だからといってそのまま放置していると、悪化して手遅れになってしまう。
病院がないこの里では、少しの怪我で大惨事になる事も珍しくない。
ほんのちょっと前、鬼の兄ちゃんは、薪を探している最中、枝で手の指を切ってしまった。
その怪我は、運悪くなかなか治らず、痛みが引いても、まだ跡が残ってしまった。
リータも一応見てみたが、もう傷口が塞がらないくらい、大きな溝になってしまった。
鬼族達の大半は、傷口を放置してしまう為、体や顔に傷の跡がある。
先陣を切って戦う鬼族にとって、敵と同じく恐れているものは、悪化すると今後の将来に響く傷。
鬼族のなかには、傷を『勲章』としている者もいる。
だが、悪化して傷口が治らなかったり、以前のように戦えなくなるのは、ある意味『本末転倒』
だからリータは、簡単にできる『薬の作り方』を、鬼族に教えてあげた。
リータがかつて、薬作りが盛んなドロップ町で育った事もあり、薬草の知識が浅い鬼族でも、簡単に薬が作れた。
初めて薬が作れた鬼達は、飛び上がるほど喜んでいた。
そして、薬の作り方を教えてくれたリータに、大いに感謝した。
「まるで『魔法』みたいだな、リータの薬って。
これからの事も考えると、量産してほしいな!」
「分かった、手が空いた時にでも。その代わり、色々と用意してもらいますよ。」
「へーいへい。
・・・・・というかさ。
ずーっとさっきから聞こえてる『この音』って、やっぱり・・・・・」
「・・・ミドリさん、今日もやってるんですか・・・・・」
リータと鬼の兄ちゃんは、互いの顔を見合わせながら、苦笑いを浮かべていた。
里の上から聞こえる、『何かをぶつけ合う音』と『男女の叫び声』
明らかにその音の全ては、翠とザクロなのは、見えなくても分かる。
だが、周囲にいるモンスターの子供達は、その音に怯えて、遊んでいた手を止めていた。
「・・・止めに行くか。」
「この様子だと、まだ決着はついていないみたいですね。」
「決着がつく頃には、もう里が滅茶苦茶になるんじゃねぇ?」
「まさかそんな・・・・・と言いたいです。」
『似た物同士』の戦いは、長続きする。そしてなかなか決着がつかない。
それを、本人達が楽しんでいるのならまだ良いのだが、周りを巻き込んでしまほどの騒ぎになるのは、勘弁してほしい。
リータと鬼の兄ちゃんは、早足で丘を登る。
もうその段階で、音は一層度合いが増し、自然と鳥肌が立つ。
「それにしても、ミドリって姉ちゃん凄いな。あのザクロと真正面からぶつかれるなんて。
『度胸がある』とかの次元じゃないぞ。怖いもの知らずなのか?」
「いやぁ、『怖いもの知らず』・・・というよりは、『怖い』の感情が極端に低い・・・というか。
ミドリさんの場合、『怖い』の感情より、別の感情が勝っちゃうんですよね。
それで僕達も救われた節があるので、何とも言えないんですけど。」
「・・・・・とか言いつつ、ミドリさんの事、しっかり理解してるじゃねぇか、お前。」
「まぁ、僕がミドリさんの仲間になったのは、最初の兄さん、クレンさんから数えると『二番目』
それなりに彼女の事は、理解している・・・・・つもり。
自信はないけど・・・」
リータは、歯がゆい気持ちを隠せなかった。
彼女と共に、様々な苦難や出来事を経験してきたのに、まだ彼女の事で、分かっていない事が色々とあるから。
「まぁ、男と女は違うからな。俺達だってそうさ。
こっちも色々とあるわけよ。」
「うーん、僕も年齢的に、そうゆう事を考えなければいけないんですが、なかなか・・・」
「俺の姉ちゃん、紹介してやろうか?」