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126・朝から大騒ぎ

「・・・・・おはよう、ミドリ。」


「あ、グルオフもやっと起きたんだ。」


「うん、なんか・・・頭がグラグラする。」


「寝過ぎね。」


 そう言いながら、翠はグルオフの頭を撫でてあげる。

グルオフは翠に寄りかかり、重い頭を頑張って支えている様子。

 クレンとラーコは、もうとっくに起きている。朝ご飯のお手伝いをする為。

リータはというと、『鬼族きぞくの家』へ行っている。


 この里での鬼族の役割は、やはりその強靭な肉体と力を生かした『肉体労働』の他に、戦闘向きな

 ザクロと共に、里の安全を守る『警備』

昨日話した通り、リータは鬼族の家で、『武器の扱い・手入れの方法』をレクチャーしているのだ。


「この里で一番の腕利きに気に入られるなんて、リータもなかなかやるわね。」


「姉さん、後でリータの様子を見に行ってくれる?  

 その間に、自分はグルオフと温泉に行ってくるから。」


「そっか、私達、あの晩は結局ご飯を食べてそのまま・・・


 ・・・というか、ミドリもミドリで、私達が寝ている間、色々とあったみたいじゃない。」


 ご飯をラーコから受け取り、席についた翠は、とりあえず昨日の晩の事を3人に話した。

だが、いつの間にか『聴者(食堂にいた里の住民)』が増え、朝ごはんを食べたくても食べられない状況になってしまった翠。


 翠本人は、(そこまで面白い話をしてるわけじゃないのにな・・・)と思っているが、聴者が興味

 を向けているのは、翠ではなくザクロだった。

彼は普段から、無口で無表情。子供達の前でしか、たまに感情を露わにしない。


 彼と里のなかで一番親しい鬼族でも、彼が翠と話している際は、驚きを隠せなかった。

ザクロは初対面が相手だと、人見知りぶりを遺憾なく発揮する。ましてや、翠は異性。


 そんな彼女との距離の詰め方が、異様に早い上に、柘榴が率先してコミュニケーションを取る事

 が、まずなかった。

だからこそ、里の住民は、翠を受け入れたのだ。


 里で一番頑固で、律儀な彼と、たった半日で仲良くなれたのだから。


「お姉ちゃん、ザクロお兄ちゃんと何したの?」


「んぐぅぅ?!! な、なななななななななな何もぉぉぉ?!!」


 スープ飲みかけだった翠は、スライムっ子の唐突な質問に、思わず吹きそうになった。

だが、クレンは間に合わなかった。気管にご飯粒が侵入して、しばらくせ続けた。

 ラーコはというと、咄嗟にグルオフの耳を塞いだ。・・・念の為。

スライムっ子は、首を傾げていたが、颯爽と現れたスライムのお姉ちゃんが、妹を素早く回収。


 そしてそのまま、食堂から出て行ってしまった。だがその後も、気まずい空気が抜けない。

悪気がなかったにしろ、完全に不意をつかれてしまった。

 里の住民達は、顔を真っ赤にしながら、申し訳なさそうな顔をしている。


 そして、咳が止まらないクレンに対し、お茶を差し出すラーコ。

だが姉であるラーコは、また『余計な一言』を・・・


「クレン、想像しちゃったんじゃない?」


「ブハッッッッッ!!!」


 せっかくお茶を飲んで、心を落ち着かせようとしたクレンだが、姉の一言で、飲み込もうとしたお

 茶を盛大に噴き出す。

霧状に散布したお茶はラーコの顔面を直撃、クレンにとっては『二次被害』だった。


 これに怒りをあらわにしたラーコ、クレンの胸ぐらを掴んで、グラグラと揺らす。

本人からしたら、せっかく持って来たお茶をぶっかけられて、怒らない筈がない。

 でも、まだクレンの体も心もピンチのまんま。


 今にも失神しそうなクレンを救うため、ラーコを翠が静止した。

翠はただひたすら、無言でラーコを羽交締めにする。顔を真っ赤にさせながら。

 結局その日の朝食はてんやわんやになり、じっくり味わう余裕もなかった。

クレンも一応無事だった。半日くらい、ベッドで寝入ってしまったが。


 鬼族の家から帰って来たリータは、布団でモゾモゾしているクレンを心配している様子だったが、

 翠から話を聞かされた途端、クレンに同情した。

ラーコはというと、罰として後始末を手伝う事に。本人は不服な顔をしていたが。


 レクチャーを無事に終えたリータの両手は、真っ黒に染まっている。

城壁に戻る前に、何度も何度も手を洗ったのだが、なかなかとれなかった。


 それもそうだ、リータは短時間の間に、鬼族の扱う全種類の武器を吟味して、手入れのやり方を鬼

 達に教えて回ったのだ。

リータの表情は、疲れを滲ませながらも、笑顔を絶やさなかった。


 翠はそんなリータの両手を握りしめ、「お疲れ様」と、労いの言葉をかけてあげた。


「・・・でも、『自分の得意分野』をきっかけに、交流の輪が広がるのは、凄く嬉しいですよ。」


「確かにそうだよね。リータは鬼族からも一目置かれるくらい、素質があったんだと思うよ。」


「あはは、でもまだ、鬼族達の豪快な雰囲気には、まだついていけないんだけどね・・・




 ・・・そういえばミドリさん、『お守り』の件、もうザクロさんには話したんですか?」


「・・・・・・・・・・




 あぁぁぁぁぁああああああああああ!!!」


 温泉でついウトウトと、夢心地になってしまったせいで、あの晩の本来の目的をすっかり忘れてい

 た翠は、ようやくその事を思い出した。

翠は、また忘れない為に、部屋から飛び出して行く。


 それをぼーっと見ながらも、リータ達はクスクスと笑っていた。

この里に来ても、翠は相変わらず、猪突猛進で突っ走る。

 危なっかしさもあるが、彼女が様々な事に先陣を切ってくれるのは、とてもありがたい事。

変わらない翠を見て、これからも、きっと様々な事が進展する。


 そう、里の皆も思っていた。

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