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125・新たな境地へと踏み込む

「リータ。大丈夫かな?

 あんまり気持ち良くて、湯当たりしてるのかな・・・??」


「・・・母さんだ。」


「いや、私も結構長湯しちゃうくらい気持ち良かったから、後で呼びに行った方が・・・」


 3人が寝ている傍であれこれするわけにもいかず、一旦翠とザクロは、城壁の屋上まで登った。

城壁の屋上からは、更に綺麗な夜空が間近で見れる。


 里の空気はとても澄んでいる為、自分達が里に踏み入れた際に通った門も、城壁からならしっかり

 確認できる。

里を囲む山々も、城壁から見ると、迫力が何倍にも感じられる。


 夜の見張り番をしているのは『夜行性のモンスター』や『夜に強いモンスター』

翠は彼らに軽く会釈をして、ザクロから詳しい話を改めて聞く。

 あれこれと話し合う翠とザクロを、見張り番ニヤニヤと笑いながら見ていた。


 ひとまず翠だけでも、試しに真・覚者となって、4人は翌朝でもいいから、改めて自分のLvを確認

 してもらう事に。

・・・だが、翠はもう察していた、クレン達のLvも、既に規定値を超えている事を。


 一年は経っていないものの、危険と隣り合わせになる旅を続けていれば、Lvも上がってくる。

それに翠達にとって、Lvはさほど重要な事ではなかった。肝心なのは、相手に勝てるかどうか。




「えーっと、『組み合わせ』で『槍』を・・・


 コレ、触れてすぐに真・覚者になれるものなの?」


「大丈夫、痛くない。

 ちょっと・・・体が熱くなる。でも翠なら平気。」


 ザクロのその言葉を信じ、翠は恐る恐る、『槍』の項目をタッチする。

すると、翠の首元が熱くなり、『覚醒者の証』が徐々に変化していく。

 翠本人は見えていないが、首元が異常なほど熱くなっていくのを感じていた。


 ザクロに一応忠告はされていたが、やはり急な体調の変化には心がついていかず、翠はその場でし

 ゃがみ込んでしまう。

心臓がバクバクと高鳴り、体の内部が徐々に変化していくような感覚が、翠の全身を駆け巡る。 


 ついさっきまで、翠の首筋に記された『十字』から


 徐々に『2本の斜めに構える槍』が浮かび上がってくる




「うぅ・・・・・ふぅ・・・・・ふぅ・・・・・




 はぁー・・・・・」


「これで翠も、真・覚者。おめでとう。」


 証の形が完全に変わると、翠の体内の熱が徐々に冷めていく。

ザクロはその間、体に熱を帯びた翠の為、近くに積もっていた雪を布で包み、彼女の変わっていく証に当てていた。


 雪を包んでいた筈の布は、もう濡れているだけの布に変わり、痛いほど冷たい空気が里に流れてい

 るにも関わらず、翠の額や頬には汗が伝う。

だが、証が完全に変わると、熱は一気に冷めていき、逆に寒さが今まで以上に辛く感じる。






「・・・・・おーい、ザクロ。ちょっといいか?」


「どうした?」


「実はさ・・・・・」


 呼ばれたザクロは、一旦翠の元を離れる。

彼に声をかけてきたのは、頭から湯気を出している鬼の兄ちゃん数名。

 

 一気に体が熱くなったものの、熱が引くのも早かった翠は、ザクロ達が何を話しているのか、後ろ

 の方でしっかり聞いていた。


「いやね、俺達が風呂に入ろうとしたら、岩場でぐったりしている奴がいてさ。

 あれって、確か『剣士』の『リータ』って奴だと思うんだけど・・・」


「・・・俺も彼女も、心配してた。遅かったか・・・」


「だから一応、引き上げて部屋に戻しておいた。」




「すみません、わざわざ。」


 後ろから声をかけられたザクロは、若干びっくりしていた。

鬼の兄ちゃんは、頭をかきながら「いえいえ」と、照れくさそうに言っている。

 翠に声をかけられ、本心を隠しながらも喜んでいる鬼の兄ちゃん。

そんな仲間の態度に、ザクロは少しだけムッとしていた。


だが、翠は鬼の兄ちゃん達との会話に花を咲かせる。

 ザクロ翠の横で、鋭い視線を向けている事も知らぬまま。鬼の兄ちゃんは気づいていたが・・・


「それでリータ、どんな感じでしたか?」


「よろめきながら、


「いい湯でした・・・」


 とか言ってたから、さすがにその時は笑っちまったよ!」


「あははっ!

 でも本当にいいお湯・・・・・いい場所ですね! 此処は!」


「俺達、人間って全然見た事はなかったけど、なんか・・・全然俺達と変わんない感じだよな。」


「見た目が違うだけで、ちゃんと『心』がありますからね、私達。


 でもこの里は、王都と比べても、本当に過ごしやすい場所ですよ。

 もうこの里を『国の代表地』にしてもいいくらいに。」


「そっかそっか・・・・・


 よかったな、ザクロ。お前が頑張って守った里が、可愛い姉ちゃんに褒められて。」


「・・・守ったのは、俺だけじゃないぞ。」


 なんだかんだ、里の住民同士も仲が良い。ふざけ合ったり、『良い意味』で揶揄ったりする。

ザクロと鬼の兄ちゃん達がふざけ合う光景は、翠もよく見ていた、クラスの男子のふざけ合いと、何の変わりもなかった。


(そういえば、クレンとリータが、こんな感じで戯れ合う事って、今までなかったよね。

 ・・・まぁ、2人は『そうゆうタイプ』じゃないか。)


 翠が、不意に2人を思い出し、フフッと笑う。

そんな彼女を見て、ザクロと鬼の兄ちゃん達は急に黙り込んでしまった。

 呆れられたと勘違いしているのだ。


「・・・なぁ、そろそろ寝ていいか?

 俺もう眠くて・・・・・」


「珍しいな。ザクロが「眠い」なんて言うの。」


「え、そうなの?」


「あぁ、こいつ『徹夜の常習犯』でさ。

 俺達が何度寝るのを促しても、全っ然自室に戻らないんだよ。

 だからコイツを探すんだったら、『部屋以外』を探した方がいいぞ。」


「あはははっ!」


「おい! やめろよ!」

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