124・真 覚者
此処に来て、また聞き覚えのない言葉が飛んで来た。
もう知らない言葉が来ても、全く動揺しなくなった翠。むしろ、何だかワクワクしてきた翠。
『真・覚者』という言葉のニュアンスから、翠は勝手に、『覚醒者のなかの強者』という意味だと
思っていた。
ゲームで例えるなら、『相当苦労しないと辿り着けない進化』
(『覚醒者』だけでも、周りからあんなにチヤホヤされるのに、その更に上なんて・・・
もう周知すらされていないレベルなのかも。)
翠のその勘は、割と当たっていた。
「『真・覚者』
覚醒者を極めし者。Lvが『99』を超えた者しかなれない。覚醒者の中でも、特に強い。
俺も、真・覚者。
『掛け合わせ』は
『槍』と『黒魔術』」
ザクロは、自分の背負っている槍を左手で握る。
そして、もう片方の手で、人差し指を突き立てた。
すると、その人差し指の先端から、『小さな赤い火』が燃え上がる。
その火はメラメラと燃え、翠が少し顔を近づけると、その熱がしっかり伝わる。
それでも、まだ彼女は理解できていない様子。
・・・いや、途中までは理解できた。
だがザクロの口から『黒魔術』という言葉が出てきた時点で、彼女の脳がショートしてしまう。
「・・・・・・・・・・ふぁ???
ちょ、ちょっと待ってザクロ!
『真・覚者』の事もまだ分かってないんだけど、『掛け合わせ』って・・・何???」
「『武器』の掛け合わせ。」
(・・・つまり・・・『扱う武器』?
『ジョブ(職種)』の『掛け合わせ』?!)
「ミドリ、『ヒーラー』と『スピアー』の『掛け合わせ』と思った。
でも、まだ君、覚醒者のまま。それなのに俺と・・・」
翠はその言葉を聞き、申し訳ない気持ちになった。
ザクロは、翠達が真・覚者である前提で、里を紹介していた。
だが逆に考えれば、彼女は真・覚者であるザクロにも通用する程の力を持っていた事になる。
しかし、やはり覚醒者自体が珍しい為、真・覚者を知らなかったのは、翠だけではなかった。
王家の末裔であるグルオフでさえも、そんな単語は一切口に出さなかった。
だが、翠はザクロの話を聞いて納得していた。
Lvの上限を超えたらどうなるのか、その答えは、この里にあった。
Lv関係の疑問は、もう随分前から翠の頭の中にあった。
だが、それ以上の疑問が積み重なった結果、すっかり頭の奥底に沈んでしまっていたのだ。
同時に翠は、ある大事な事を思い出した。
自分の『Lv』が、今どのくらいなのか、確かめるのも忘れていた事を。
ゲームの場合、(敵が手強いな・・・)と感じた時、メニューからLvを調べる。
また、Lvが一定にならないとできない『サブクエスト』や『強敵』もいる。
だが翠は今まで、戦いに苦戦した事はあまりなかった。
それに、仮に苦戦したとしても、『数の暴力(クレン達の協力)』でどうにでもなる。
翠の旅は、『運』と『仲間』に大いに恵まれている。
この二つばかりは、覚醒者でも真・覚者でも、どうにもならない。
でも、もし自分も真・覚者になれるなら、なってみたい・・・と思うのは、自然である。
早速翠は、ザクロを置き去りにして城壁へと戻り、部屋に戻る。
いきなりダッシュした翠を見て唖然とするザクロだったが、すぐに彼女が、何処へ向かっているの
かを察した。
今こそ、溜まりに溜まったLvを、確かめる時である。
足に雪をつけたまま、部屋に戻った翠は、立てかけてあった自分の杖を手に取り、久しぶりに地面
を突く。
部屋にいたクレン・ラーコ・グルオフの3人は、もう完全に寝入っていた。
大きなお腹を抱え、気持ちよさそうに寝ている姿を見て、翠はなるべく大きな音を立てないよう
に、杖を縦に振る。
そして、久しぶりに見たメニュー画面を見て、翠はすぐに以前との違いに気づいた。
あれだけの接戦を繰り広げた翠、レベルがある程度上がっている事は何となく察せる。
だが、翠のレベル表示は、明らかにおかしい。
(・・・・・え?? 何コレ??
バグ・・・なわけないよね。
なんか、Lvの表記が『ザーザー』してるんだけど・・・???)
テレビやパソコンの画面に不具合が発生すると、『七色の光の帯』が、出たり消えたりする。
よーく見ると、翠のレベルはもう『99』 経験値のメーターも振り切っている。
にも関わらず、『100』にはならない。この世界では、『Lv99』が最大値なのだ。
にも関わらず、ザクロの言う通りなら、翠にはまだ『成長の見込み』がある・・・という事。
翠がバグっているメニュー表示に唖然としていると、後から来たザクロが、息を切らせながら部屋
に来る。
そして、翠のメニュー画面を見て、迷わずLv表示を指でタッチする。
すると、次に翠達の前に浮かび上がったのは、『選択画面』
しかもこの選択画面、明らかに『特別感』のある演出。
縁がキラキラと光りながらも、先程のバグが大きくなっている。
そして、選択画面が浮かんできたと同時に、翠は自分自身の体が熱くなっているのを感じた。
翠は察した、この工程を踏めば、自分が今までよりも更に上の段階へ進む事を。
不安ではあるが、それ以上にワクワクが止まらなかった。
この里に来てからというもの、そんな感情が絶え間なく翠を襲う。
学生時代の『新学期』と似た気分になる翠は、脚を無意識に震わせていた。
此処に来ても尚、まだ知らない境地が待ち構えている。
(この世界は、本当に飽きないな・・・)と思いつつ、メニューのラインナップを吟味する。
『組み合わせるジョブ』は、ほぼ全てのジャブを網羅している。
ジャブの掛け合わせの範囲を考えると、その可能性は無限大。
翠はじっくり考え
・・・・・ると思いきや。
「・・・『槍』でいいよね。もう。」
「・・・まぁ、うん。君が、そう思うなら。
でもジョブ、まだまだある。」
「いや、いいのよ。
だって私ずーっと、『槍使いヒーラー』みたいな立ち位置だったし。
今更他のジョブを考えるのはちょっと・・・・
『この子』に悪いでしょ?」
そう言って、翠は改造に改造を重ねた自分の杖をザクロに見せる。
それを見てザクロも、「フッ」と笑いながら頷く。