表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/237

121・それぞれの役目

 かつて翠が住んでいた旧世界の近隣で、『異臭騒ぎ』があった。

警察まで出動する騒ぎとなり、当時小学生だった翠は、登下校中にマスクが欠かせなかった。

 いつも公園で遊ぶのがルーティーンだったクラスメイト達は、異臭騒ぎのせいで公園で遊べなくな

 り、毎日ブーブーと文句を垂れていた。


 だが、その異臭の正体というのが、小学生の翠が聞いても、とても胸糞悪くなる話で合った。

匂いの原因は、目のつかない場所に捨てられていた『ゴミ袋』

 そして、袋の中に入っていたのが、『動物の死骸』

それ以上は聞かされなかった翠だったが、後味の悪い結末だった為、成長しても覚えていたのだ。


 結局、その腐臭はゴミ袋が回収されても尚、数週間は離れなかった。

もっと早くに見つけられたらマシだったのだが、放置されていた時間があまりにも長すぎた為、もう外壁や地面に臭いが染み付いてしまったのだ。


 そして被害は、それだけに止まらない。

地域で飼われている犬や猫の何匹かが、その臭いのせいなのかは分からないが、一斉に体調を悪くしてしまった。


 翠の家でペットは飼っていなかったが、お隣に住んでいた犬が、臭い騒動が起きてから数日後に具

 合を悪くして、完全に室内で飼われる事になった。

人間でも具合を悪くする酷い臭い、人間よりも嗅覚が優れている動物が、無事で済むわけがない。


 影響を受けた動物は、犬や猫に限った話ではない。

しばらく近隣のあちこちで、臭いを嗅ぎつけた『からす』や『ネズミ』が、平然と道路や家の庭をウロチョロするようになってしまった。


 ゴミ捨て場は何度対策しても荒らされ、興奮した鴉に子供が襲われる事件まで発生。

外に置いておいたゴミ袋も散らかされる始末で、翠の家でも、父が外に置いておいたゴミ袋が見事に荒らされ、父はスーツ姿で頑張って後処理をしていた。


 いつの間にか、その臭いは消えてしまい、動物達の異変も元に戻った。

一件落着・・・なのだが、それでもまだ、色々と謎が残る事件であった。

 そのゴミ袋を捨てたのが一体誰なのか、それすらも分かららず、この地域を巻き込んだ一大事件

 は、消化不良のまま幕を下ろした。


 そんな『臭い思い出』がある翠だからこそ、ザクロが一層『優しい存在』へと変わっていった。

こんな極寒の地でも、ゴミの処理を怠れば、臭いを嗅ぎつけた荒くれ者が里に侵入してしまう。

 里の住民にとって、この地しか身を隠せる場所がない、此処でしか生きられない。

どんなに小さな問題でも、彼らにとっては大問題。


 そして、問題を処理するのは、国でもなければ地主でもない、自分達しかいない。

だが、問題の処理は、そう簡単な話ではない。

 それでも、里の住民達は、生き残る為に知恵や力を出し合いながら暮らしてくた。

その甲斐あって、偽・王家に情報が漏れる事もなく、今まで平穏に過ごしてきたのだ。


 だからこそ、その問題処理の役目を担っているザクロを、里の住民がないがしろにしない。

翠に話をする際も、スライムっ子や鬼の両親は、なるべく言葉を選んでいた。

 彼女はそんな気遣いをされなくても、ザクロに対しての印象を悪くしない。むしろ尊敬する。

旧世界もだが、この世界でも、自分の問題を自分で解決しない存在が多すぎるから・・・ 




『腐敗したモノを食べる』


 それは、生物界ではよくある話。人間界ではありえない話なだけ。

かつて翠が受けていた生物の授業でも、『環境を綺麗にしてくれる生物の重要性』は、テスト問題にもなっていた。


 翠は、彼ともっと話がしたかった。彼には色々と、『話さなければいけない事』がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ