120・皆で食べるご飯は美味しい
久しぶりに食べるホカホカの料理に、5人は夢中になって食べてしまった。
野宿で食べるご飯も美味しいのだが、やはり『手間暇かけた・凝った料理』も食べたい。
口に入れた瞬間、ようやく心の奥底から安心できた翠5人は、流し込むように食べ進める。
里で出された料理は、王都のレストランや、立ち寄った村や町で食べた料理と似ているのだが、美
味さが群を抜いていた。
この世界の主食は、翠がかつて旧世界で食べていた『白飯』である事に変わりはないが、里で食べる白米は、旨味も食べ応えも違った。
噛むごとに味わい深くなり、どんなおかずにも合う。
白米単体でも、おかずと合わせても、いくらでも食べられる。
翠にとっては、まるで『実家の味』のような感覚であった。
例えるなら、『炊き立てご飯』と『コンビニのおにぎり』の違い。
コンビニのおにぎりも、もちろん美味しくてたまに食べたくなる。
だが、本能的に求めているのは、やはり炊き立てのホカホカご飯。
熱々の白米で、口も胃もホカホカに熱されている5人の胃袋。
そして、里の周囲はあれだけの雪に埋もれていたにも関わらず、おかずの量も多く、一瞬その味を
疑うくらい美味しい。
冬の季節では堪能できないような、様々な野菜を使った煮物や汁物。しかも、デザートまである。
どの野菜も、まだ新鮮なまま調理されているのか、汁物にはしっかり野菜の味が染み込んでいた。
5人にとって、久しぶりに口の中が色々な味で満たされる感覚に、もう何が一番美味しかったか、分からなくなる。
だが、全部美味しい事に変わりはない。
料理を口に運ぶ度に、翠達は散々褒め称えてくれる為、里の住民達もにこやかに5人を見続ける。
国の中心である王都は、国中の食糧が集められている場所でもある為、今までに立ち寄った村や町
に比べると、種類がとても豊富だった。
だが、いくらこの国の中心である王都でも、『旬』や『季節』を無視して、野菜や果物を徴収するわ
けにはいかない。
それこそ、『無理難題』である。
そんな要請をしたら、相手から馬鹿にされてしまう。もしくは怒り狂って何をされるか分からない。
だから5人は、驚きを隠せなかった。
こんなに多種多様の野菜・魚・肉が勢揃いしている食卓が、里の住民にとっては、『いつもの食事』
『豪勢』なんてレベルじゃない。
この世界の住民にとって、季節を気にしない食事は、まさに『夢』である。
今、王都の城で豪勢な食事をしている貴族や王族でも、こんな贅沢は体感した事はないだろう。
気がつけば5人の周りは、食べ尽くされた『空皿』だけが残されていた。
いつもの二倍くらい食べた5人は、もう立てないくらい満腹になってしまい、デザートに手をつけ
る事すらできなかった。
「・・・お姉ちゃん達、すごい食べてた。美味しかった?」
「えぇ! とっても!」
翠は、ご飯粒の付いている鬼っ子のほっぺを撫でてあげる。
もうすっかり、食卓の一員として違和感のなくなった5人は、食事後の談笑も楽しんでいた。
だが、その食卓にザクロの姿がなかった。翠がさりげなく、鬼っ子に聞いてみると・・・
「ザクロお兄ちゃんはね、『普通のご飯』じゃないんだって。」
「・・・『普通のご飯じゃない』??」
その言葉に補足を入れるように、『お酒臭い』鬼の両親が来た。
「リザードマンはな、『モンスターの残骸』を食事にしてるんだ。
別にこっちの料理を食べても、体的には問題ないんだが、この里へ侵入してきた『荒くれ者』の処
理は、全部アイツがやってる。
・・・多分あいつ、お前達の食事を邪魔したくないから、来ないんじゃないのか?
あの臭いを食事の場に持って来るわけにはいかねぇから、しばらくは来ないと思うぞ。
アイツ、ああ見えて繊細なんだよな。」
『荒くれ者』が、『野良のモンスター』である事は何となく察せた翠。
つまりザクロ達リザードマンは、里に侵入して来た野良モンスターの『処理』も、仕事の一つ。
だが、これも大事な仕事な事に変わりはない。
息絶えたモンスターを放置しておくと、その臭いに反応してまたモンスターが来てしまう。