表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/237

115・『正当なる王家』への歓迎

 里には、しっかり侵入者を防ぐ『城壁』や『門』があった。

だが、やはりかなりの年月が経過しているのか、壁には枯れた蔦が這い、門はアーチがあるだけで、扉はない。


 いつの間にか足元の雪は消え、周りで傍観しているモンスター達の数も増えていく。

翠達は彼らに手を振ってあげると、相手も返してくれる。だが、まだ警戒されている様子。


 門をくぐり抜けると、そこは『小さな集落』になっていた。

まばらにある家は全て平家なのだが、家の隣にある畑には、美味しそうな野菜や果物が、色とりどりに熟している。


 冬にも関わらず、野菜や果物が実っているのは、まるで『ビニールハウス』

しかし、そんな大掛かりな装置なんて、この里どころか、この国にはない筈。

 だが、自然と雪が降り積もるなかでも、里の植物は生き生きとしている。


 里の近くを流れる川では、里の住民が釣りを楽しんでいる様子。

川の流れ自体はかなり早いが、遠目でもわかるくらい、川魚が流れに逆らって泳いでいた。

 勢いよく川の水が流れるザーッという轟音が、自然の脅威を物語っていた。


 近くに『温泉』があるのか、『暖かい異様な匂い』もする。

その匂いを嗅いだ翠は、ついワクワクしてしまう。

 温泉は、かつて翠が生きていた日本では、欠かせない文化である。

大昔から温泉は、『心』や『体』を癒す『自然の恵』として、日本人から愛されてきた。


 翠も転生前は、よく家族と一緒に温泉へ行っていた。

何度も何度も温泉に入ったり、旅館の美味しい料理に舌鼓を打つのも楽しかったが、何よりいつもとは違う環境でゲームをプレイするのが、『特別感』があって好きだった。


 特にも翠が好きなロケーションは、旅館の窓際に置かれている椅子に座り、足を組みながら、時折

 窓の外を眺めてゲームをする。

まさに、『和風の優雅な時間』である。


 だが、ただ単純に翠は温泉も好き。

足が伸ばせるくらい長い湯船で、日頃から酷使している『肩』や『手』をマッサージしながら、今までにプレイしてきたゲームを思い返す。


 温泉の楽しみ方としては単純なのかもしれないが、旅館に来た時だけ『何回でもお風呂に入っても

 いい』という、『体や心にとっての贅沢』は、高校生になっても憧れていた。

この世界に転生してから、それらは諦めの境地だった翠にとっては、願ってもいなかった幸運。


 不安と葛藤だらけだった旅路でクタクタになってしまった5人の心と体を癒すには、もってこいの

 施設である。

ワクワクしながらも、翠はは出迎えてくれた里の住民に、笑顔で手を振り続ける事を忘れない。


 やはり、最初の第一印象というのは、学校でも会社でも大事な事。

綺麗な身なりではなくても、笑顔で優しく微笑んでくれたら、誰だって嬉しい。




 そして、リザードマンは里の中央にある『お立ち台』に立つと、両手を広げて里の住民全員に呼び

 かける。


「里の民よ!! 彼は、かつて祖先と共に戦い、祖先を守りし


 『正当なる王家』の末裔


 グルオフ・K・コンゴゥ!!!」


 すると、里の住民達は驚いた表情を浮かべながらも、ザクロに呼応されて、グルオフの名を連呼し

 ていた。


「グルオフ様ぁ!!」 「グルオフ様ぁ!!」 「正当なる王家の末裔ぇ!!」


 グルオフはその声に呼び出されるようにお立ち台に立つと、いきなりにも関わらず演説を始める。


「里の民よ!! 私は正当なる王家の末裔 グルオフ・K・コンゴゥである!!

 私は貴方達をこの地へ追いやり、我が父や母を追放した挙句、この国を我が物にしている一派に、

 必ずや鉄槌を下す!!!


 それが、私の祖先と、君達にとっての『敵討』である事を、私は信じている!!!」


 里の熱気は最高潮だった。

まだ10代にも満たないグルオフの、熱意のこもった胸の熱くなる演説に、4人の肌には鳥肌が立ちっぱなし。


 里の住民達は、もうグルオフに釘付けとなり、ついさっき来たばかりにも関わらず、彼の話を真剣

 に聞き入っていた。

その目は、『奇異の目』では全くない。『尊敬の眼差し』である。


 ついさっききたばかりの人間に、そんな目線が向けられるこの状況。

『異様』と言われても仕方ないのかもしれない。

だが、グルオフはあくまで、『王家としての義務・礼儀』を果たしているだけ。


(これが『カリスマ』ってやつかな・・・?)


 翠は、グルオフの後ろ姿を見ながら思った。

後ろ姿からも、その頼もしさと雄々しさが伝わって来る。

 普段は子供っぽい言動が目立つのだが、いざとなれば王家としての顔を見せる。

これもある意味、『デキる人間の特徴』なのかもしれない。 


「そして、誇り高き君達には、胸を張ってこの国を歩いてもらいたい!!

 君達はこの国を創り上げた『英雄』、もしくはその血を引き継ぐもの達である!!

 私は君達と出会えた事を、本当に誇りに思う!!」


 ザクロを含め、里の住民が「ワー!!」「ワー!!」と、歓喜の声を上げている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ