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113・ザクロ

 いきなり白熱した戦いを中断され、一瞬苛立った様子のリザードマンに、3人も武器を構えた。

だが、リザードマンはグルオフの『瞳』を見た瞬間、急に動きを停止させる。

 翠はというと、白熱しすぎて熱々になった体を冷やすように、全身を雪の中にうずめる。


 翠の息は、はっきり見えるくらい真っ白になっていた。いや、見えるのは息だけではない。

彼女の体からモクモクと湧き出てくる湯気と、極寒の地にも関わらず、翠の頬を伝う汗。

 それでも、まだ彼女は笑っていた。


 だが、さすがにもう疲れ果てているせいか、乾いた笑いを口から溢す。

そして、しばらくするとリザードマンは、ようやく声を発してくれた。


「・・・・・正当なる・・・王家・・・

 『灰色の瞳』・・・・・?!」


 ちゃんと自分達にも通じる言葉を発していた事に驚いていた5人、言葉が通じない事も覚悟してい

 たのだが。

リザードマンの言葉を聞いた瞬間、グルオフは胸を張って頷きながら言った。


「はい、僕は正当なる王家の末裔。




 グルオフ・K・コンゴゥ」


「・・・・・・・・・・あぁ・・・」


 リザードマンは、膝を冷たい雪の上に乗せ、そのまま深々と頭を下げる。

まさかの展開に、ずっと見守っていたクレン・リータ・ラーコの3人は固まってしまう。

 リザードマンのそんな態度を見せられては、もう杖を向ける必要もない。

翠は安心して杖を背負い、リザードマンの元へ駆け寄って、謝罪した。


「いきなり押しかけた形で申し訳ないね。

 貴方との戦いが、ついつい楽しくて、つい・・・夢中になって。


 ・・・でも、とても有意義な時間だった。ありがとう!」


 顔を上げたリザードマンの顔は、翠達を導いてくれた、『彼の祖先』にそっくりであった。




「・・・ミドリ、あれは・・・??」


 クレンガ指差す方向から、何かがワラワラとこちらに来ているのが確認できる。

リザードマンはその軍勢を見ると、すぐにその軍勢の元に駆け寄り、話を始める。

 翠達はまだ遠目でしか確認できないが、彼らは明らかに『人間ではない存在』であった。


『人型のスライム』『一本角が生えている鬼』『体が透けて浮いている幽霊』

『猫耳と猫の尻尾が生えている男の子』『額に宝石が埋め込まれている女の子』


 王都にも、人間に雇われているモンスターは多かった。だが里では、その種類も数も桁違い。

翠は、今すぐにでも彼らの元に駆け寄り、自分のまだ知らないモンスター達と触れ合いたかった。

 だが今はまだ、リザードマンの話し合いを待つばかり。

下手に話に加わると、余計に話がややこしくなりそうだから。


「ミドリ、大丈夫?」


「ごめんね、クレン。ちょっと・・・白熱しすぎて、つい夢中になって・・・」


「あはははっ! ミドリさんらしいや!」


 心配するクレンと、ケラケラと笑うグルオフ。

互いに武器がぶつかり合う、ピリピリした状況下で、あれほど危険な手段に走ったにも関わらず、グルオフはいつも通り。


 これにはラーコも感服していた。

だが同時に、自分はただ見ている事しかできなかった事に負い目を感じていた。


「それより、リータは大丈夫なの?」


「えぇ、途中で力負けしてしまったんですが・・・」


「ううん、助けてくれてありがとう。」


 翠はリータの切れてしまった髪を、優しく撫でる。リータの剣も無事だった。

気迫に満ちたリザードマンの槍を受け止める度胸は、リータの成長そのもの。

 戦いに途中から参加できなかった事が、リータにとっては悔しい結果となっているが、翠は自分を

 守ってくれた事だけでも十分嬉しかった。


 若干落ち込み気味なリータにラーコが駆け寄り、背中を撫でてあげる。


「貴方はもう十分活躍できた。私以上に・・・」


「そんな、まだまだですよ。」




 そうこうしている間に、リザードマン達の話し合いが終わったのか、彼がまた翠達の元に駆け寄っ

 て来た。

翠達も、駆け寄って来るリザードマンも、もう武器は収めている。

 ようやく、落ち着いて対話ができる流れとなった。


「待たせた。里へ案内する。」


 かなりカタコトな言葉遣いではあるが、もてなそうとする気持ちはしっかり伝わっている。

5人はそのまま、リザードマンのあとをついて行こうとするが、その前に翠が・・・


「ちょっ、ちょっと待って!


 ・・・貴方、お名前は?」


 翠のその言葉に、リザードマンは照れながらも、答えてくれた。


「・・・ざ・・・・・ザクロ。」


「そう、ザクロさん・・・ね。

 私ミドリ!」


「・・・そう・・・ミドリ。良い名」


 気がつけば、空の真上で煌々と輝く純白の太陽が、旅路で疲れた5人の背中を、優しく温める。

もう青々とした木々や草花は見えなくなってしまったものの、里に近づにつれ、だんだんと周りの空気が暖かくなっているような感じがする。


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