表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/237

112・白熱した接戦

 グルオフは目がいい、翠は目を凝らさないと見えなかった。

・・・が、明らかに彼が見ている先に、『ナニか』がいる。


 真っ白な空間に、『濃い緑』が見えた。

こんな雪山に、青々とした葉が生えている木があるわけない。

 しかも、その『緑色のナニか』は、どんどんこちらに近づいて来ている。


 翠は一旦、グルオフをラーコに預け、杖を構えた。

雪山で戦うのは初めてで、多少疲れている翠だったが、迫って来る何者かが、『人間ではない事』が明らかだった。


 緑色の褪色をしている人間なんているわけがない。

『緑色の服』・・・という可能性も捨てきれないが、『全身緑色』なのは明らかにおかしい。


(何だろう・・・アレ・・・??

 モンスター・・・だよね? だとしたら、何のモンスター?)


 見た目は文字通り、『全身緑』 でも、だとしたら一体何のモンスターなのか。

今まで色々なモンスターと対峙した分、選択肢が多すぎて逆に分からない。

 一瞬混乱した翠だったが、すぐにハッとした翠は、グルオフに耳打ちした。


「ねぇ・・・あれじゃないのかな?


 『リザードマンの子孫』って。」


「・・・・・あぁ!!」


 グルオフも翠の発言に、思わず手を叩いて納得する。

あの隠し部屋で、翠達に色々と教えてくれた『リザードマン』

 彼の体も、少し濃い『緑色』をしていた。

そう思った翠は、杖を下ろそうとする




 ・・・・・が


「・・・ちょっ、ちょっとミドリさんっ?!

 なんか・・・走って来てませんか?!」


 その言葉に、翠は下ろしていた視野をもう一度上げてみる。

すると、ついさっきまで『点』だった相手が、『体格』が分かるくらいまで近づいて来ていた。

 やはり体色が緑色なのは、『皮膚』が緑色というわけではなく、体に生えている『鱗』が緑色。

後ろでチラチラ見切れているのは、恐らく『尻尾』


 そして、明らかに人間では考えられないくらい、雪道をかなりの速度で走っている。

雪道に慣れている人間だとしても、相手は自転車と同じくらいの速度で走っていた。

 この雪原で、あっという間に距離がつめられる体力と速度は、明らかに人間離れしている。


 しかも、相手が近づいてくると、『手に持っている物』が何なのかが分かった。


「やっ、槍?!!」


「ミドリさん!!」


 後ろで見ていた4人も、近づいてくる相手が『リザードマン』である事が分かった様子。

そして、翠が咄嗟に放った一言で、リータはすぐさま彼女の前に立った。

 だが、そうしている間にも、リザードマンはすぐ側まで来ている。槍を突き立てながら。


 槍の先端は、翠に向かって来ている。

だがそこにリータが立ち塞がった事で、リザードマンは狙いはずれた。

 翠に向かっていた槍の先は、リータの刀身によって抑えられ、リータはそのまま払い除ける。


 ・・・が、リザードマンも負けていない様子で、振り上げられたと当時に、槍を振り下ろした。

リザードマン俊敏な対応に、リータはほんの少しだけ反応が遅れてしまい、リータの長い髪がほんの少しだけ削れてしまう。


 そして、手応えに一瞬気が緩んだリザードマンに対し、横から翠がリザードマンを突く。

だが、翠が思っている以上に手応えがない。

 翠は、相手が吹っ飛ぶくらいの力で杖を突き刺した。

それでも、リザードマンは体制を崩しただけ。


 そしてまた、リザードマンの標的が翠に向けられる。

雪原で戦いにくい環境ながら、翠は必死になって応戦する。


 初めてだった、翠が(手強い・・・!!!)と感じた相手は。


 今まで戦って来たモンスターや兵士とは一風違う、戦闘スタイルが無いにも関わらず、自分の動き

 を読み、的確に相手へ刃を向けるリザードマン。


 翠も何度か、杖をリザードマンに叩き続ける。

それでも、リザードマンはまだまだ弱っている気配すら見せない。

 こうなってくると、翠も意地になってしまう。


 なかなか倒れない相手に、例え無謀だとしても立ち向かってしまうのは、ゲーマーの宿命なのかも

 しれない。

特に翠は、前情報を何も持たない状態でボスに立ち向かい、自らで弱点を探り当てるスタイル。


 例え負けても、リセットしてまた戦う前にやり直す事もできる。

そしてまた、勝つ為の戦術を考える。これも、ゲームの楽しみ方の一つである。

 ただ、今はそんなお気楽な状況ではない。

リセットもできなければ、相手の弱点を調べられる『攻略サイト』があるわけでもない。


 だが、翠の積み重ねてきた『ゲーマー歴』は、この世界でも案外活躍している。

この世界に来て、体を鍛えてきた翠にとって、動きながら相手の弱点を考える事も、もう容易くなっていた。


 翠はかつて、とあるゲームの『攻略本』で、リザードマンについての記述があったのを思い出す。


『リザードマンの心臓は『右側』にある』


 試しに翠が、リザードマンの『右半身』に集中して杖を向けると、リザードマンは激昂。

口から火を噴きながら、リザードマンは槍を自由自在に操る。

 翠以外の4人は、その状況をただ見ていることしかできなかった。

・・・いや、介入する余地すらなかった。


 2人の戦いは、まさに完璧だった。見惚れてしまう程に。

どちらが勝っても納得できる、どちらが負けても納得できる。

 どんなに腕の立つ覚醒者でも、2人の戦いにはついていけない。水を差すわけにはいかない。

この熱戦をまなこに焼き付けられる事が、むしろ誇らしく思えてきた4人。


 そして、熱戦を繰り広げるリザードマンと翠は


 不思議と『笑み』を浮かべていた。


 まるで、この戦いを楽しんでいるような、このひと時を満喫しているような顔。

リザードマンも翠も、互いに殺意はあるものの、相手を甘く見てはいない。

 出せる全力を相手にぶつけている。




 だが、この状況に終止符を打ったのは、いつの間にかラーコの側から離れていたグルオフ。


「待って!!!」


 そう言って、リザードマンと翠の前に立ち塞がる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ