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111・雪原を踏みしめて

 北へ北へ進む毎に、吹く風が徐々に冷たくなる。

そして、地面には雪が積もるようになり、道が歩きづらくなる。

 

 一応、王都で歩きやすい靴を買って出発した。

だが、雪のせいで表面が濡れた靴で歩くと、せっかく軽かった足取りが、普通よりも遅い速度になってしまう。


 だが、グルオフはそんななかでも元気だった。

初めて見る一面の銀世界は、一面の森林とはまた違った美しさで、最初はうっとりしながら見惚れていたが、しばらくすると雪を掴んで遊び始めた。


 雪を投げて遊んだり、雪を掌で固めたり。

雪で視界が遮られている分、グルオフを必死に追う4人。

 その光景は、まさに『雪遊びをする子供を必死になだめる親』である。

真っ白な吐息を両手に当てながら、少し流れている鼻水をズズズッと引っ込めるリータ。


 一応、リータが『体を温める薬』を予め作って、雪原地帯に到着した時に全員飲んでいた。

その苦さに、グルオフは一瞬だけおかしな顔になったものの、薬の効果もあってか、グルオフは寒さなんて全然気にしていない様子。

 若さもあるだろうが・・・


 クレン・リータ・ラーコも、寒さはそこまで感じていなかったものの、一番厄介なのが、やはり

 『歩きにくい道のり』である。

ドロップ町・シカノ村・王都では、歩行が難しくなるくらいの大雪はなかった為、雪で前に進みにくい状況になるのは初めてだった。


 雪に足を取られ、何度も転び続け、もう転ぶ事が恥ずかしくなくなった頃には、ただひたすら前に

 進む事しか考えられなくなった。

ある意味、それが一番正しい『雪道の歩き方』なのかもしれないが。


 旧世界では、『滑り止めの金具』が底に装着されているブーツ等で対策ができるが、この世界では

 『気合』だけでどうにかするしかない。

足場が悪い道を歩くのは、いつも以上に体力と気力を消費する為、休憩を挟みながらの里探し。


 翠はというと、実は大雪でも大して問題ではない。

何故なら翠がかつて住んでいた場所は、一旦雪が降ると、とんでもなく積もる『東北』だったから。


 だから、雪道の歩き方は慣れたもの。

転んでも受け身のやり方もしっかりマスターしている為、転んでもそこまで痛くない。

 笑って誤魔化せる余裕があるくらい。


 かつて翠が、グルオフくらい幼い頃には、雪の降る外で遊んでは転んでいた。

でも、それを何回も重ねているうちに、自然と滑った時の対処法が身につく。雪国ならでばである。

 

 小学校中学年頃になると、もう雪が深々と降る外で遊ぶ事はなくなったが、登下校時は雪道との戦

 いである。

冬だけは、登下校の時間を10分以上早め、怪我だけはしないように、慎重に歩く。


 それでも転んでしまう、どんなに慣れていても、転ぶときは転ぶ。

だが、学校近くで転ぶ事はなるべく避けていた翠。理由は単純、クラスメイト達から笑われるから。

 他のクラスメイトが転んでも笑われる事はない。笑われるのは、緑に限った話だった。

しかも、そこでも「『インドア』だからトロイ」と言われる始末。


 雪道は誰だって転ぶのは、クラスメイトでもよく分かっている筈。

なのに、翠の失敗やミスだけは、絶対に見逃さないクラスメイト達。

 感動するレベルの洞察力で、翠はいつも呆れていた。

何をしても、どう動いても、クラスメイトは馬鹿にする、嘲笑う。


 (あんな人間にはなりたくない)と思っていた翠は、何度も転ぶクレン達に、優しく手を伸ばす。


「転ぶのは仕方ないけど、ちゃんと地面に手をついて、怪我だけはしないようにね。」


「うん・・・・・

 やっぱり翠はさすがだね。」


 照れながらも、翠の手を取るクレン。彼の手は、とても熱かった。

幸い、全員が戦闘慣れしている為、受け身はしっかりとれている。

 転んでも受け身さえとれば、転んで痛いだけで済む。

だが、少しでも体制が曲がったまま転んでしまうと、擦り傷では済まなくなる。


 かつて小学校のクラスメイトが、凍った地面で足を滑らせ、そのまま片足を全身+重いスポーツバ

 ッグの下敷きにして、骨が折れた事件があった。

幸い、まだ若かった為、骨折は二ヶ月程度で治った。


 その時の話を、家に帰った翠が母に話すと


「治りが早いだけでも良かったじゃない。

 歳を取るとね、傷の治りがだんだん遅くなってくるものなのよ。

 だからあんたも、大人になったら気をつけるのよ。」


 大人にならなくても、母の言葉が本当なのが、高校生になった頃になるとよく分かる。

小学生の頃は、体育の時間でグラウンドをグルグル走り回っても、汗が出る程度で済んでいた。

 だが、高校生になると、体育でグラウンドを走らされると、午後は『打ち上げられた海藻』に。


 体だけではなく、気力すら尽きてしまい、午後の授業は半分くらいしか頭に入ってこない。

小学生の時は、午後の授業も真剣に聞けるくらい、まだ体力も気力も残っていた。

 運動部の生徒は、なかなか疲れないものの、放課後になって疲れ切った状態でグラウンドを走る姿

 を、翠は遠目で見ていた。


 だから翠は、グルオフが羨ましい。

まだ疲れを感じにくい幼い頃は、体力も時間も無視して遊べた。

 翠達4人は、道を歩くだけでやっと。グルオフはあっちこっちで雪をかき集めてが楽しんでいた。


「グールーオーフー!!

 あんまり遠くに行かないでねー!! 

 迷子になっても、私達探しに行けないかもしれないんだからー!!」 


「・・・ミドリさん、何か急に老け・・・・・

 疲れてませんか?」


 グルオフもいつか知るであろう、大人になっていくにつれて、動くのが億劫になる、この気持ち。

翠はため息をつきながらも、興奮しながら遊びまわるグルオフをあまり強く止める事もできず、とにかく見失わないように注意していた。






「・・・・・・・・・・???」


「・・・? グルオフ、どうしたの??」


 朝からずっと行き道を歩き始め、もう4人の足はクタクタになった頃、グルオフが突然、何もない

 雪原で立ち止まった。

疲れただけなら、徐々にテンションが落ちていく筈なのに、まるでいきなりスイッチをオフにされた様に、ピタリと止まる。


 これには翠も、慌ててグルオフの元に駆け寄る。そして、彼が見つめている先にいたのは・・・


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