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109・全てが明けた日

 昨晩、一番ぐっすり眠っていた翠が、一番最初に目を覚ます。

だが、まだ太陽の光が全く昇っていない。でも、ほんの少しだけ、周りが明るくなり始めている。

 そして、翠と同じく早起きな動物達が、もう朝ご飯調達の為に動き出していた。


 気づけば隣で、グルオフとクレンガ眠っていた。

今番をしているのは、若干ウトウトしているリータとラーコ。


 このまま二度寝する気にもなれなかった翠は、眠りかけている2人に気づかれないように、川行っ

 て顔を洗う。

水面に映る、まだボケーっとした自分の顔に、翠は自分で笑いそうになった。

 抜けた様なその顔は、徹夜明けの朝を彷彿とさせる。


 だが、決して爽やかに目覚められたわけでもない翠は、唇を強く噛んだ。

何もかもを話してスッキリした筈なのに、まだはっきりしない自分の心。

 自分の全てを告白した事自体は嬉しい筈なのに、どうして心はまだ曇っているのか。

その原因が分からないのも、翠の苛立ちを加速させていた。






「ミドリ、早いんだね。」


「クレン、おはよう。」


 クレンは、ボサボサになった髪を自分で直しながら、川の水を掬って飲み、そのまま顔を洗う。

そして、翠が持ってきてくれた布で顔を拭きながら、クレンは一つ質問してみた。


「・・・そもそもさ、ミドリ。


 何でミドリは、自分が転生者である事を打ち明けるのが、そんなに怖かったの?」


「え? ・・・・・えー・・・」


「だって、そこまで隠すような事もなかったし、やましい事があったわけでもないのに・・・」


「・・・・・・・・・・




 怖かったから。」


「・・・・・『怖かった』?」


「うん。

 ・・・やっぱり、得体の知れない存在には、少なからず警戒するでしょ?」


「・・・・・それ、いつも未知なモノや出来事に突っ込んでいるミドリが言うセリフじゃないよ。」


「そうだけどさ、そうだけど・・・・・」


 またシュンとしょぼくれてしまった翠に、クレンは彼女の頭を優しく撫でてあげる。

翠の髪は、とてもサラサラしていた。

 彼女の髪に初めて触れたクレンは、その触り心地にこっそり感動している。

自分の髪に触れている時とは違う、特別な香りや触り心地、男と女の違いである。


「・・・でも、気持ちが分からないわけではない。

 自分も、翠と初めて出会って、そこから翠に色々と説明をする時は、心臓が痛くなるくらい緊張し

 てた。」


「今考えると、クレンには酷い事をさせてしまったのね、私。ごめんなさい。」


「いや、謝ってほしいわけじゃなくて・・・」


 クレンは笑いながら、翠の見ている水面を横で共に見てあげる。

水面にうつっていたのは、いつも見ている翠とは少し違う、『女の子としての翠』

 今まで、クレンやリータを引っ張ってきた翠とは色々と違う。

そこでクレンは、ある疑問を浮かべた。『本心(本物の翠)』はどっちなのか・・・と。


「・・・でも、ミドリは僕の話を疑わずに聞いてくれたし、この世界の理不尽に怒ってもくれた。

 僕を遠目から見ている人々は、同情の目線すら向けてくれなかった。

 逆に、馬鹿にされて、貶されて、それを平然とした顔でされてきた。


 でも、翠だけは違ったんだ。僕の願いをほぼ叶えてくれたのは、翠なんだ。」


「『願い』?」


 まだ気持ちが沈んでいる翠に対し、満面の笑みを見せてこう言った。


「村の人と同じように、


 『おはよう』とか『こんにちわ』が、


 気兼ねなく言えるような生活がしたかった。

 ・・・今思い出すと、自分でも信じられないけど、当時の僕は、下手に言葉を出す事すらできなか

 ったんだ。

 それこそ、挨拶でさえも・・・」


「・・・・・・・・・・」


「でも、そんな生活は、ミドリと出会った事で一変した。

 翠は僕に気兼ねなく、


 『おはよう』も『ありがとう』も言ってくれた。

 

 当時の事は、まだ覚えているよ。

 出会ったその日にベッドを貸してくれた事も、若干まぐれではあるけど、覚醒者になれた事も。

 そして、僕をあの村の呪縛から解いてくれた事も。


 ・・・でもさ、不思議だよね。あんなに憧れていた王都に行っても、自分の気持ちは満たされなか

 ったんだ。」


「そうだよね。私も。


 ・・・王都に行けば、転生について、何か分かるかと思っていたんだけど。

 予想が大幅に外れた・・・どころの話じゃなかった。

 この国の闇を垣間見ちゃって、ショックが隠しきれなかったよ。」


「それでも、ミドリは、この危険な旅路を、一緒に歩んでくれた。

 それって、この国の事を本気で思わないとできない事だよ。




 そんな人を、疑えるわけないじゃん。

 得体の知れない人でも、ミドリの『行動』を見ていれば、誰だって不審には思わないと思う。

 少なくとも、自分はそう思う。」


「・・・・・『行動』・・・か・・・」


 『心の中』を読む事はできない。 『本心』を見る事はできない。

でも、それらを表現するのは、『行動』


 ゲームが好きなら、自然とゲームセンターや家電量販店に行く。

集めたゲームを棚に並べて眺める。

 

 お洒落が好きなら、タンスの中は服や帽子でいっぱい。

ドレッサーにはアクセサリーやコスメが並ぶ。


 料理が好きなら、機材も家電も本格的に。

材料の産地にまで拘る人もいる。


 人は大抵、『行動』を見ればどんな人だか分かる。面白いくらいに。くせもその一つ。

よくネットにもまとめられている


『髪を触る癖がある人は』『爪を噛む人は』『貧乏ゆすりがやめられない人は』


 サイトによって内容は若干異なるが、癖を自分で意識するだけで、自分がどんな精神状態なのかが

 分かる。

そして、同時に癖は、行動の一種。




 翠は、この世界に来てからというもの、誰の目も気にせず、自分を飾る事もしていない。

自分の赴くままに『行動』して、この世界を満喫していた。

 そんな彼女の背中を見ていた5人なら、翠がどんな人物なのか、疑う余地もない。

むしろ今までの行動全てが偽りだとしたら、感激するレベルの演技である。


 自分がやりたい事をやって、問題にも真正面から立ち向かう。

演技なんかでは決してない、翠の意志がそのまま行動に出ている。

 そんな彼女をずっと見てきたクレンが、今更彼女を疑う筈がないのだ。


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