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108・夜空に願いを

 だから、翠はアメニュ一家が凄いと思った。

幼い頃から将来を決められた上で、日々鍛錬に打ち込む・・・なんて、誰でもできる事ではない。

 それこそ、反発して一族から追放されてもおかしくないくらい。

でも、ラーコは頑張って両親達の意思を受け継ぎ、グルオフを守り続けた。


 翠が育ったのは平凡な家庭だった為、『一族』や『後継』という言葉には無縁だった。

しかし、実際はそのしがらみに囚われている存在もいる。

 それが、本人にとって良い事なのか、悪い事なのか・・・は別として。


「・・・なんだ・・・


 そこまで深刻な話でもなかったよ。」


「・・・・・まぁ。

 ・・・改めて自分で思い返すと、この世界に転生したきっかけ以外は、ほぼどうでもいい話だった

 よね。

 

 なんか勢いに任せて話しちゃったけど・・・」


 クレンは、ちょっとがっかりした様子で、釣った魚の骨を抜いていく。

翠も同じく、魚の骨には細心の注意を払う。

 以前の翠は、焼き魚も煮魚も、骨を口に入れても強引に食べていた。

だが、此処ではそうもいかない。 


 魚の骨一本でも、死因になる可能性だってある。

当然この付近に医者がいるわけでもなければ、都合よく薬が作れるわけでもない。

 だから、普段は平気な事でも、事故や事件を防ぐ為には、注意しなければいけない事がある。


「私が元いた世界ではね、川の水は絶対飲んじゃ駄目だったの。

 だからこの世界に来て、川の水を普通にグビグビ飲んでいるシカノ村の住民を見て驚いたよ。」


「・・・ちなみに何で飲めないの?」


 グルオフは、口をモグモグさせながら翠に聞いた。


「元いた世界の川はね、とんでもなく汚かったの。それこそ、川底が見えないくらい茶色でね。

 もちろん、そんな川ばかりではない・・・と思うんだけど。

 

 とにかくそんな濁った水、飲んだら体がどんな事になるか、飲む前から分かるでしょ?」


「そうなんだ・・・・・

 だとしたら、水は『井戸水』しか飲めない・・・って事?」


「いや、『水道』っていう、安全なお水を繋ぐ『パイプ』・・・みたいのものが、一家に一台は必ず

 あるの。

 あと、色んなお店で普通に『ミネラルウォーター』が売ってるから・・・」


「『パイプ』??? 『ミネラル』???」


 一つの事を説明しても、また更に説明を求められ、翠はもう説明に疲れ果ててしまう。

でも、説明するのが面倒には感じなかった。むしろ嬉しかった。

 自分がかつて生きていた世界に、皆が興味を向けてくれている事が嬉しいのだ。


 ただ、説明するのは体力も気力も使う。

夜ご飯を食べ終わった頃には、もうぐったりしてしまった翠。

 それでも、まだ4人は、別世界への興味が尽きない様子。


「ラーコー」


「何? お水?」


 ひとまず4人は、話疲れてしまった翠を寝かせる。翠は満天の星空を眺めながら、旧世界を思い出

 していた。

過去の事を思い返しながら話をしていたら、旧世界で見た綺麗な星空を思い出す。


 二つの世界の夜空に、そこまで大きな違いはない。

真っ暗な夜空に、輝く月と星が浮かぶ光景は、世界を超えて、多くの人々を魅了している。




 あれは、翠が高校受験を終え、ようやく手がつけられた、とある『ハンターゲーム』に熱中してい

 た頃。

受験のストレスから解放された翠は、とにかくゲームに没頭する毎日。

 

 (高校では、1人くらい友達ができるかな・・・?)と思いながらも、指を小刻みに動かす翠。

ネットで仲間を集い、ひと段落ついた頃には、もう午前になりかけだった。


 翌日は休み・・・という事もあり、その日は徹夜する勢いで狩りに勤しんだ翠。

両親はとっくに眠っている為、翠が椅子から立ち上がった音が、妙に大きく聞こえた。

 『ギィー・・・』と、鉄製の椅子が音をたて、その表紙に床も軋む。


 ずっと同じ体制でゲームに没頭していた為、軋む音が鳴るのは椅子や床だけではなく、彼女の体か

 らも『ギシ』『バキ』という音が鳴る。

数時間もずっと座りっぱなしで、水分も取らなかった翠の体は、もう限界だった。

 

 だが、このままベッドで横になるわけにはいかない。

水分を取ってから寝ないと、脱水症状になってしまう。


 翠は一旦背伸びをしようと、つま先立ちになるが、筋がジワジワと痛み始める。

足がりそうになっているのを瞬時に察した翠は、慌てて体制を戻し、筋の痛みが治まるまで待った。


 もしこの反応が数秒でも遅れていたら、翠は床の上で悶絶していた。

だが、筋の痛みが抜けても、まだ体がバランスを保てず、カーテン越しの窓の手を当てた。

 真夜中にも関わらず、窓を少し触っただけで、じんわりと暑さが伝わる。

恐らく外は、熱帯夜。


 (明日が休みでよかったー・・・)と思いつつ、翠はキッチンへ向かい、水を飲もうとしていた。

そして、リビングまで来た時、カーテンの隙間から漏れている夜空の光に誘われ、翠はそっとカーテンを開ける。


 そこに広がっていた光景は、昼間とは違う街並み。


 建ち並ぶ屋根がほぼ真っ白に光り、眩しいくらいに輝いている月と星。

いつもの夜空は真っ黒なのだが、月や星に照らされた夜空は、鮮やかな『藍色』をしていた。

 つい見惚れてしまった翠は、そのまま夜空を眺め続ける。その美しい輝きに、眠気すらも消えてし

 まったのだ。




 翠は、今草原の上で転がって見ている夜空と、かつて部屋の中から見ていた夜空を思い返し、比べ

 てみた。

だが、変化や違いは、面白いくらいなかった。

 まるで、『二つの世界が繋がっているような感覚』すらしてくる。


「・・・・・ラーコ、あのね・・・」


 翠は、ラーコの持ってきたお水を一口飲んで、こう言った。


「2つの世界は、確かに全く違うのかもしれない。でも、似ているところもあるんだよ。」


「・・・・・そうなの?」


「あはははっ、実際に転生してみないと、分からない事だよ。」


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