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107・『異世界』に思いをはせる

 その日は、5人全員が歩みを止め、翠の話を真剣に聞いていた。

翠も、今まで話そうか迷っていた気持ちを発散するかのように、一緒に転生したクラスメイトへの愚痴も語り始めた。


 道中でグルオフ達が


「『リンカンガッコウ』って・・・何ですか?」「『バス』って何なの?」


 と、この世界にはないものを、色々と聞いてきた為、翠も懐かしくなってしまう。

この世界にすっかり馴染んでしまった翠は、旧世界のあれこれを説明するのに、少しだけ苦労した。


 だが、「『バス』を説明して」「『林間学校』を説明して」と言われても、正確に言える人もいな

 いだろう。

それくらい、『説明』という行為は、とてつもなく難しい。


 翠も話の途中に、何度か巻き戻っては話を整理したり、質問がないか聞いて回ったり。

話をしている途中で、翠は(自分てこんなに説明が下手だったっけ・・・??)と思ってしまう。

 『別世界の話』・・・というのは、スケールも文化も違う、説明が難しくても当然である。


 つい話が長くなり、話がひと段落した頃には、もう夕方。

川の近くだった為、ご飯は川魚を採り、4人が翠の話をある程度把握する頃には、もうどっぷり夜になっていた。

 

 だが、まだ全員が完全に理解したわけではない。知らないワードが多すぎたのだ。

だが、それらも1から説明する・・・となると、冬を越すだけでは済まない。


 それでも、話を聞き終えた4人は、自分達の住んでいる世界とは違う場所に、思いを馳せていた。

まるで、転生したばかりの翠の様に、この世界にはないもの・風習・変なルール等を、頑張って頭の中に入れている。


 世界が違っても、『異世界』に憧れを抱くのは誰でも同じである事に、翠は少し笑ってしまう。

旧世界でも、『異世界』とうジャンルの書籍は山のようにあった。翠もその類のラノベを何冊か読んでいた。

 

 だが、実際に憧れていた世界に来れても、決して『幸せ』であるかは、来てみないと分からない。

だが今の翠は、偽・王家から逃げ延びる身でありながらも、こうして『信頼できる仲間』を持つ事ができて、とても幸せを感じている。


「・・・そっか・・・

 ミドリが、この世界の『種族の差』が分からなかったのは、そもそも知らなかったから。

 だから自分にも、何の躊躇もなく声がかけられたのか・・・」


「リザードマンの思惑通り、何も知らなかったミドリだったから、弟を救えたのね。」


 その言葉に、翠は少しムッとした。馬鹿にされているような気がしたから。

しかし、2人は誉めたつもりでいったのだ。


「ミドリ、逆に言ってしまえば、あの状況で弟を助ける事ができるのは、何も知らない『ミドリだ

 け』だったのよ。

 何も知らなければ、クレンの置かれた状況は、誰だって間違いである事に気づいていた。

 『習慣』や『ルール』に縛られているのって、かなり恐ろしい事よね・・・・・」


「・・・それには私も同感です。


「『○○』だから駄目」とか、「『○○』を馬鹿にするのは普通の流れ」


 ・・・みたいな空気になると、違和感すら持てなくなる。かつての私もそうだったから。」


「へぇ・・・ちょっと意外かも。」


 クレンは、目をまん丸にしながら翠を見る。『意外』という心境が、彼の態度にも現れていた。


「転生した事で、色々と吹っ切れちゃったんですよ。

 もう何もかも、どうでもよくなって、突っ走ったら案外上手くいった・・・って感じで。」


「・・・姉さん、自分も突っ走った方がよかったのかな・・・?」


 クレンのその問いに、翠もラーコも首を横に振る。

翠の場合、たまたまクレンが宿に来てくれたから、覚醒者になってくれたから、事無きを得ただけ。

 

 もし、クレンを宿に誘う時、拒否されたり、村人に助けを呼ばれていたら、そこで終わってしまう

 だろう。

ある意味、クレンがこの旅路の全てを切り開いてくれたのだ。


 翠自身、自分が『運』に恵まれている事に気付いてはいないのだが、無自覚の運をしっかり活用で

 きている翠の凄さは、ある意味『幸運』よりもレアなのかもしれない。


「・・・それにしても、別の世界には色んな物があるんですね!

 僕が気になったのは、やっぱり『バス』です!

 馬を何頭も使わずに、何十人もの人を移動させる事ができるなんて・・・!!」


「バス以外にも、『電車』なら100人以上も移動できるし、『飛行機』は空を飛んで、人や荷物を

 運べるの。

 ・・・まぁ、その分エネルギーが必要になるから、それが課題でもあったかな。」


「そっか・・・そんなに上手くいくものではないんですね。」


 グルオフと翠は苦笑した。彼の言う通り、世の中そんなに上手くはいかない。

正統なる王家を追い出しても、そんなに上手くはいかない。

 ・・・むしろ上手くいく方がおかしいのだが。


「・・・ミドリ以外にも、38名という大人数が、この世界に転生していたなんてね・・・


 でも、リザードマンの言う通りなら、もう彼らは・・・・・」


「うん、私もあんまり細かい事は聞けなかった・・・というか、聞きたくなかった・・・」


「まぁ、今の王家に利用される・・・となると、色々と想像できてしまうからね。


 ・・・それにしても、『娯楽』を否定するなんて、その人達もだいぶ暇ね。」


 翠は、かつて自分が好きだった『ゲーム』は、『娯楽』に言い換えて説明した。

旧世界では、ゲームを『職業』にしている人もいたが、翠はあえて『趣味』として楽しんでいた。

 特に将来の夢はなかった翠だが、前に父が言っていた


「『趣味』は『趣味』のままで留めておく方がいいよ。

 『仕事』にしちゃうとね、途端に辛くなるから。」


 という言葉が、脳に焼き付いているから。

その言葉に妙に納得した翠は、これからもゲームや漫画を楽しむ為、『趣味』とした。


 ゲームのプレイ動画をネットに投稿している『配信者』だったり、自分で世界を描ける『漫画家』

 に、一度は憧れた事がある翠。

だが、よく調べてみると、現実はそう甘くない事を知る。


 幼稚園生の頃は、嬉々として将来の夢を語っていても、成長するにつれて、その難しさを徐々に実

 感するように。

中学生になる頃には、もう幼稚園生の頃の夢は、『懐かしい思い出』と化してしまうものなのだ。


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