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104・ついに打ち明けるべき時

 ある程度砂と土でカモフラージュした5人は、すぐさま出発する。

だが、そのなかで1人だけ、足どりが重いのが、翠だった。


 ついさっき、あんなカミングアウトをしたにも関わらず、4人の対応が今まで通り過ぎて、逆に不

 安になってしまったのだ。

 今日一日中、質問攻めにされてしまう事を覚悟していた、もしくはある程度距離を置かれるものだと

 思っていた翠。


しかし、4人の態度は以前と変わらず・・・


「ミドリ、シキオリの里って、どんな所なんだろうね?」


「・・・さぁ・・・」


「兄さん、もしかして心配なの?

 まぁ、いきなり喧嘩になるなんて事・・・・・もありえそう・・・

 でもミドリさんが一緒なら大丈夫だね!」


「どうゆう事よ、それ。」


 翠は精一杯、2人の会話に対して微笑んではいる。

だが、内心では2人に疑念を抱かずにはいられない。

 翠が『逆の立場』になって考えてみても、何も言及しない4人には、もう感服すらしそうになる。


「ミドリさん、寒くない?」


「私はまだそんなに・・・・・

 グルオフは? 寒いの?

 ラーコー、私の分の上着も、彼に着せてあげてー」


「はいはいっ。」


 2・3枚の上着を身に纏ったグルオフは、さながら『動くイモムシ』の様で、可愛い。

翠とラーコは、そんなグルオフの歩幅に合わせ、地図を凝視する。

 あと少し、あと少しで目的地。だから、もう道を外れる事はできる限りしたくない。


 しかし、不安が拭いきれないと、翠の気力が削がれてしまう。

緊張しているような、困惑しているような、複雑な心境。

 今更4人に不信感を抱いている翠は、自分自身に失望してしまう。

しかし、はっきりさせたい気持ちと、皆の意見を聞きたくない気持ちの瀬戸際で、翠は震えている。


 翠は改めて、『孤独感』に苛まれ、自分だけがこの気持ちを抱えている事が、不安でたまらない。

こんな気持ちになったのは、38人のクラスメイトと離れて行動する決断をした際にも感じる事はなかったから。


 そして翠は、この世界に来て初めて思い知った感情の中で、今が『一番辛い感情』が今である事を

 悟った。


『仲の良い存在に 見放されるかもしれない気持ち』


 まるで、前後左右を『毒沼』に犯され、下手に動けない状況。何とか話を切り出したいが、切り出

 せない。

だから、話し方や行動が、ついぎこちなくなってしまう。無意識だが、どうしようもない。




 そんな彼女の気持ちを、一番早く察したのは、翠にとって一番古参のクレン。


「・・・ミドリ、どうしたの?」


「・・・・・・・・・・」


「・・・・・ミドリっ!!」


 翠の反応の悪さに、クレンは大声で彼女を呼ぶ。すると翠は、鳥のように飛んでいきそうな勢い

 で、そのまま・・・


「あっ!!! ミドリ!!!

 そっちは川!!!」 


 そのまま川にダイブした翠は、痛いくらい冷たい川の中で、もう一度跳ね上がる。

トビウオの如く。

 翠が悩んでいる間に、一行は体が洗えそうな川に到着して、土や砂だらけになった衣服や体を洗っ

 ていた。


 だが、ぼーっと考え事をしていた翠だけが、水面を見続けていた為、クレンが声をかけたのだ。

声をかけたと同時に跳ね上がり、そのまま川に突っ込んだ翠に、4人は唖然としていた。

 川はそこまで深くなかったものの、呆然とした気持ちから一気に目覚めた翠は、パニックになって

 慌てて川から出る。


 そのせいで、結っていた彼女の髪が解け、水で濡れて『ワカメ女』の様になってしまった翠を、4

 人は大笑いして見ていた。

本人は、びっくりするわ不安は残っているわで、川から出てもボーっとしている。


 翠のそんな態度を見て、クレンはリータに耳打ちをする。

そんなの全く目に入っていない翠は、『背後』を気にする余裕もなかった。


「せいっ!!!」


「ぎゃああ!!!」


 リータにトンっと押されただけで、翠の体は簡単に投げ出され、再び川にダイブ。

一度目は体から川にダイブしたが、二度目は頭から川にダイブ。

 おかげで体は綺麗になったものの、翠はゆっくり立ち上がりながら目を回していた。

そして口元だけ川に沈めたまま


「ブブブブブブブー!!

 (皆酷いよー!!)」


と言う。


 一連の騒動で、近くを泳いでいた魚達は、いつの間にか何処かへ逃げてしまう。

立ち上がった翠の体には水草が付着したまま、服が完全に濡れて体のラインが見えてしまう。

 そんな翠の姿に、リータは思わず目を逸らした。目のやり場に困ってしまったのだ。

年頃の男の子らしい反応に、ラーコは思わずニヤニヤしてしまう。


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