103・味方はいる
「でも、僕はそんな自分の理想を、現実にしたい。
私の理想も貴方の理想も同じなら、心強いです・・・!!」
『理想』
酷く言い換えれば、『夢物語』なのかもしれない。
しかし、それでも追い求めずにはいられない、理想を抱かずにはいられない。
それは、リザードマンも同じ。
『欲深い』・・・と言われてしまっても、追い求めずにはいられない。
その気持ちこそ、翠達の『最大の武器』
戦争が終わって、長い年月が経過しても、この国に残り続けたリザードマンの気持ち(最大の武
器)は錆びる事がなかった。
肉体を失ってもその気持ちを強く持ち続けるのは、並大抵の事ではない。
それくらい、リザードマンは渇望していたのだ。
人間とモンスターが、手を取り合える世界を。
「僕も、この国が好きです。でも、兄さんやラーコブさんと一緒に過ごせる国の方が、もっと好きに
なれます。
だから僕は、この国を守る目的も兼ねて、戦います。
そして、リザードマンさんや、祖先の思いに応えます・・・!!」
今まで以上に力強いリータの発言に、4人は圧倒された。
リータの心の中には、祖先を大切に思う気持ちが眠り続けていたのだ。
その気持ちが、リザードマンの話で飛び起き、リータの『心の武器』になった。
『子孫』であるが故に苦労したリータだが、『子孫』であるが故に、その内に秘められた力は、祖
先から受け継がれていたのだ。
子孫の『勇敢なる目覚め』に、リザードマンはただただ感動している様子。
リータは、リザードマンの子孫ではない、ドロップの子孫である。
それでも、リザードマンとドロップは、かつてこの国の為に尽くした『同志』
互いに会った事のなかった相手だとしても、自分と同じ志を胸に奮闘していた・・・と想うだけ
で、他人事ではなくなるのだ。
そしてその意志は、子孫に脈々と受け継がれ、今その勢力が、再熱を迎えようとしている。
リザードマンが求めていたのは、この流れであった。
味方が少ない状況だとしても、『偽王家 打倒』の流れが生まれるだけで、味方は増えていく。
『気持ち』というのは、とてつもなく頼もしい武器である。
その後、5人のそれぞれの決意を聞いたリザードマンは、その場から完全に消え去った。
だが、完全に消滅したわけではない。宣言通り、『リータの兄の元』へ向かったのだ。
それを確かめる術はないものの、5人がリザードマンを疑う事はしない。
あと少しで、シキオリの里が目前になる。
今はまず、シキオリの里へ赴き、そこに何があるのかを確かめる。
リザードマンの話によれば、そこには彼の子孫が住んでいる。
その子孫と上手く交流ができれば、今まで以上に頼もしい戦力になってくれるに違いない。
いよいよ『偽・王家 打倒』が現実的になっている。
つい数日前までは、そんなの『夢物語(理想)』に過ぎなかった。
しかし、この旅を通じて、5人の心を押してくれたのは、自分達が少数派ではない事を知った。
そして、5人を支持してくれる存在が、陰ながら応援していた。
今の今まで、誰にも知られず、誰にも気づかれなかったにも関わらず、ひたむきに国を思い続ける
情熱。
その熱い思いは、5人の心を大きく動かしてくれた。恐れや不安なんて吹っ飛ぶ程の力を貰った。
彼の熱意を聞いてしまっては、やらないわけにはいかない。
もう夢の実現に必要な『材料』は、近々集まりそうである。
他にも色々と準備・用意しなければいけない事は山積みではあるが、需要な事が一つ済んだだけで、気持ちは落ち着く。
シキオリの里がどんな場所なのかは、まだ分かっていない。
しかし、そこに全てのヒントや打開策があると見て、ほぼ間違いない。
目指していた方角も、地下で色々と話し合った方針も、間違いではなかったのだ。
もう不安や疑念は完全に消えてしまった5人は、朝日の差し込む外へと出て、再び歩き始める。
・・・・・だがその前に、その『隠し部屋』には、元通り砂や土をかけてあげた。
あのままにしておくと、強盗や窃盗目的で荒らされるかもしれなかったから。
あそこに目ぼしい物がまだあるのか、5人はそこまで調べなかった。
シキオリの里へ行きたい気持ちでいっぱいになって、地下を詳しく調べる事すらしなかった。
だが、その隠し部屋が何処にあるのか、『目印』は立てておいた。
もちろん、5人にしか分からないように。
全てが終わった暁か、もしくは王都に向かう道中に、リザードマンの子孫に、この場所を教えてあ
げたかったから。