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102・譲り受ける

「よく似合ってるよ、ミドリ。」 「ミドリさんにピッタリですね!」

「僕もそう思います! 何だか綺麗になったような、強くなったような・・・!」

「そうね、ミドリが身につけるのが一番ふさわしい。」


 「身につけるのは自分じゃなくても・・・」と言いかけた翠だったが、皆が大絶賛してくれたおか

 げで、翠は初めて、『アクセサリーを身につけた喜び』を実感した。

転生する前は、ネックレスはおろか、ブレスレットすら身につけた事はなかった。


 理由は単純、『邪魔』だから。

しかし、今の翠は、誇らしい気持ちでいっぱいだった。

 譲ってくれたお守りを『邪魔』だなんて思わない、お守りに詰まっているさまざまな思いや歴史

 に、胸が高鳴る。


 湧き上がる力や気力に、翠の心は、『大きな覚悟』を決めた。

腐敗して朽ちかけた『大樹(国)』を元に戻すのは、相応の努力と時間を必要とする。

 もしかしたら、翠が生きている間に成し遂げられるかも分からない。


 大樹を腐らせた『虫(偽・貴族)』は、とても狡猾であり、何処まで腐敗が侵食しているのかすら

 分からない。

それでも、大樹の復活を願う人々は、翠が思っている以上に多い。


 それは生きている存在のみならず、かつてこの国の為に尽くした魂達も、死しても尚、この国を思

 い続けている。

彼らの望みに応える事も、生きている者の勤めであり、義務である。

 翠はもう、この国の事が他人事とは思えない。


 無関係だった翠がこの世界に転生したのは、若干『巻き込み』ではあるが、リザードマンが国を想

 う気持ちは、無視できなかった。

この世界の住民ではなくても、この国を愛する気持ちは変わらない。


 僅かな時間に起きた翠の変化は、リザードマンの想像を絶するものであった。

転生者の大多数が、この国の真相に辿り着かないなかで、翠のみの行動で、ここまで事態が進んでくれた。


 その勇気と行動力を称え、リザードマンは彼女に全てを任せたのだ。





「リザードマン・・・さん・・・

 貴方はこれからどうするの?」


 このまま消えてしまうのは、あまりにも不便。そう思った翠はリザードマンに問いかける。

するとリザードマンは、微笑む表情を崩さず、リータを見つめ、こう言った。


「・・・私が『君のお兄さん』を引き受けよう。」


「えっ??」


 リータは、驚いた様子で固まった。


「君のお兄さんは、私が守る。

 まだ私はこの世界からは去れない。

 正統なる王家が王座に再び返り咲き、『私達の夢』が叶うまでは・・・・・


 ・・・私がもし、自分の不安や疑念を、『王』に打ち明ける事ができたなら、君達がこんな思いを

 する事はなかったかもしれない。

 勝利を目前にした王達は、これから来る平穏な時代に、胸をときめかせていた。

 もちろんそれは、私も同じだった。でも・・・・・」


 消えゆく体を見つめながら、リザードマンが『後悔の心境』を口に出す。

その気持ちを感じ取ったリータは。リザードマンの前に駆け寄ると・・・


「・・・・・兄さんの事、よろしくお願いします。

 貴方には、助けられてばかりで、僕達本当に不甲斐ないですけど・・・

 でも、僕はドロップさんの末裔として生を受けて、今本当に誇らしい気持ちでいっぱいです。

 末裔であったが故の苦労も、貴方の偉業を考えれば、本当に些細なものでした。


 まだまだ貴方には、苦労をかけてしまうかもしれない。でも、僕も・・・僕達も・・・


 この世界を、種族関係なく、暮らしやすい国にしたい気持ちは同じです。


 僕はずっと、兄さんに守られていた。

 だからアメニュ一族や、この国で懸命に生きるモンスター達が、あんなに不遇な扱いを受けている

 事なんて、全然知らなかった。

 『みんなで手を取り合うのが当たり前な国』だと、ずっと思い込んでいたんです。

 でもそれは・・・『理想』でしかなかったんですね・・・」


 リザードマンは、落ち込むリータの頭を撫でてあげる。

リータもリータで、この国の闇を垣間見て、思う事が山ほどあったのだ。

 何故なら彼の祖先も、かつてはこの国を守る為に戦い続けた人物。

しかし、今の国家は、『守るに値するか・否か』の瀬戸際に立たされている状況。


 いつ均衡が崩れ、過去に起きた戦争のような惨劇が起こるのか、『秒読み』なのかもしれない。

そうなってしまえば、この国の存亡も怪しくなり、平和どころの話ではなくなってしまう。

 それこそ、この国の為に戦ってきた祖先に対する、『侮辱』と『裏切り』


 国を創設するだけでも、先人達は相当な努力と時間を費やした。それを子孫が壊すなんて、『恩知

 らず』にも程がある。

だが、先人達から受け取った筈の『恩』を、完全に『無かった事』にしようとしている集団がいる。


 『歴史』とは、どんな過去であっても、その国を創り上げた『大事なパーツ』である。

凄惨な過去だとしても、国としての汚点だとしても、子孫達はそれらと向き合う義務がある。

 それらの歴史から何を学び、何を参考にするのか。それは、先人達が残した『未来へのヒント』

そのヒントを見ずに、平和な国を目指す・・・なんて、杖一本で立ち向かう翠よりも無謀である。

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