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10・家族と離れて・・・

「はいっ! 『特上シカ肉ステーキ』!」


「わぁぁぁ・・・・・」


 旅の準備にお金がそれほどかからなかった為、翠は『この先の景気付け』の為、食堂で一番気になった商品、『特上シカ肉ステーキ』を頂く事に。

 他のお客は『お酒』を飲んで盛り上がっているものの、翠はまだ17歳な為、豪勢な料理で疲れを吹っ飛ばす事に。

 この世界の『成人規程』がどれくらいのものなのか、翠にはまだよく分からない為、とりあえず旧世界と同じ基準で考える事に。

 それに、翠の家族はそんなにお酒を飲まない。飲むとしても、年末に日本酒を一杯飲むくらい。

 だから翠は、必然的にお酒が好きにはなれなかった。


「お酒やタバコにお金を費やすくらいなら、ゲームに費やした方がよっぽど有意義だ!」


 翠の父がよく言っていた言葉。どちらかというと、翠の母より翠の父の方が、倹約家で家事も上手だった。

 ・・・実際は、浮いたお金で自分の好きなゲームをするのが目的なのだが・・・

 ただ、夫婦同士の喧嘩が起きる事はなく、割と夫婦仲は良好な方だった。

 ゲームの勝負で揉める事はあるものの、その決着もゲームで決めてしまうから、とことん平和なのだ。

 ゲームのトラブルで多いのは、『課金関連』

 その件で揉めて、離婚してしまう夫婦も少なくないのは、翠もよくニュース番組で目にしていた。

 第三者からすれば、「そんな事で?」と言われてしまうのかもしれない。

 しかし、それくらい『目に見えないお金』というのは、厄介なものであるのは、学校でも習うのが現代。

 ゲームに課金をしない翠も、時折スマホの『有料ゲーム』を買う為、コンビニでカードを買う事はよくあった。

 それは、翠の両親も同じ。ゲームのみならず、アプリの中には『有料アプリ』もある。

 有料アプリも使い方次第では、家事を助けたり、ちょっとした空いた時間を楽しませてくれる。

 だが、翠は決して、『ゲームに課金』する事は絶対ない。何故なら・・・


『課金をしたら負けである』


 実際、『お金の力』で強くなるのと、『自分自身の力』で強くなるのとでは、色々と違う。

 その上、最近のスマホゲームでは、毎日コツコツログインしていれば、ガチャも安易に回す事ができる。

 スマホだけではなく、ゲーム機を毎日手にしている翠にとって、毎日のログインなんて、苦にならない。


 しかし、今の翠にはスマホどころか、両親もいないような世界に飛ばされてしまった。

 翠は手にしたナイフで、大きくて分厚いお肉を切ろうとした直前に、その事を不意に思ってしまったのだ。

 まだ自分が新たな世界へ転生した事に、現実味を感じられなかった翠だったが、自分1人だけで大きなテーブルを独占している光景を見て、改めて現実を突きつけられてしまう。

 父親に似て『ケチ』だった翠は、自分1人だけで外食なんて行かなかった。

 コンビニで買い食いすらした事がない。

 しかし、家族一緒で外食なら、よく行っていた。

 回転寿司 レストラン 喫茶店 フードコート・・・・・

 美味しい料理を、たった1人だけで楽しむのは、この上ない贅沢なのかもしれない。

 しかし、だんだんと寂しさが募るようになってしまう。


 家族で回転寿司に行けば、レーン側に座る人を決めるのに一悶着したり

 家族でレストランに行けば、小皿の料理をシェアしたり

 喫茶店に行けば、どのデザートを食べるか話し合ったり

 フードコートでは、テーブルいっぱいにいろんな料理を並べたり・・・




「・・・・・・・・・・」




 バシッ!!!


「うわぁ!!!」 「何だなんだ?!」


 翠は思わず自分で自分の頬を叩いてしまった。

 自分があまりにも幼稚で、家離れできていない事が、改めて恥ずかしくなってしまったのだ。

 翠はもう17の立派な女性。

 にも拘わらず、両親がいないだけでこんなにも虚しくなってしまう自分に、自分でびっくりしている。

 この世界に来てからというもの、翠は自分自身を見直す事が多く、昔の自分がだんだん馬鹿らしく思えてしまう。

 だが逆に考えてしまえば、生きる世界が変わらないと、様々な自分自身に気づけなかった。

 それくらいの衝撃がないと、人は変われない。だが、翠自身はそこまで変わった実感はない。

 ただ、昔と比べて、少し口は軽くなった方かもしれない。

 何故なら、もう自分のあれこれに文句を言ってくる存在がいなくなったから。

 ケチをつける存在がいなくなったから。


「ちょ・・・ちょっとアンタ、大丈夫か? 具合でも悪いのか?」


「す・・・すいません、あはははっ。」


 いきなり自分をビンタした翠に、店主が彼女に声をかける。

 翠は気を取り直して、ちょっと冷めてしまったものの、いいくらいに冷めたステーキにかぶりついた。

 その味は、まさに『野生的』である。『添加物』や『過度な調味料』は無い分、肉本来の美味しさが口の中を駆け回り、シンプルだが旨い。


(・・・やばい・・・美味い!! 美味い!!

 夢中になっちゃうぅぅぅ・・・!!!)


 旧世界のレストラン等で食べられるステーキも、もちろん美味しかった。

 しかし、店によっては『しょっぱすぎ』だったり、『辛すぎ』だったり、とにかく調味料の度合いがとんでもない料理もあったりする。

 恐らく、調味料の味で、素材そのものの味を誤魔化しているのだ。

 翠はこの世界に来て初めての食事に、ちょっと期待が膨らんだのであった。


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