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96・鱗のお守り

気づけば外に、あのリザードマンの姿はなく、いるのは3人がいる隠し部屋。

そこで、3人が落ち着くまで、しばらく様子を見ていた。


 まるで『火起こし』の如く、風の流れを作り出す3人は、側から見れば『お祭りの参加者』

王都の祭りに参加できなかった、楽しむ事ができなかった腹いせに、3人は力任せに荒れ狂う。


 炎の如く舞い上がった埃は、そのまま外へと広がり、あっという間に5人の服も灰色に染まる。

その様子を出入り口から見ていたグルオフとラーコは、互いに顔を見合わせ、申し訳なさを感じた。

 改めて、3人を巻き込んでしまった事で、3人に色々と失わせてしまった事を思い知った。


 しかし、当の本人達は、別にお祭りに参加できてもできなくても、全然構わなかった。

むしろ、ちょっとだけ王都の『闇の内情』を目の当たりにしてしまったクレンとリータは、(行かなきゃよかった・・・)とすら思っている。


 懸命に埃を外に追い払うその原動力は、祭りに参加できなかった腹いせ・・・というわけではな

 く、『偽・王家』に対する恨みつらみである。

元はといえば、祭りを楽しめなかったのも、全部偽・王家のせいである。


 その気持ちを全身で表現する3人、何もかもが『自分達の勝手な理想』だった事が、改めて馬鹿ら

 しく思えていたのだ。

クレンとリータが祭りに参加した時間は本当に僅かしかなかったが、その僅かな時間で、何があった

のかを聞くのを躊躇うくらい、2人はがっかりした心境を隠せなかった。


 グルオフとラーコは、生まれた時から王都で暮らしていたから、酷い現状を目の当たりにしても、

 さほど動じる事はなかった。

しかし、『理想(王都)』と『現実(生まれた地区)』とのギャップ(距離)があったクレンやリータは、失望する気持ちを隠せなかったのだ。


 2人は自覚していないが、沢山のご馳走を買って来てくれたにも関わらず、明らかな不満顔を浮か

 べる2人に、翠は気づいていた。


 翠の場合、兵士と散々やりあって、王都の内情を一足先に知っていた。

だから、2人に祭りの詳細を聞く事はしなかった。

 聞けたとしても、2人の心の傷に、追い討ちをかけてしまう気がしたから。


「ゼェ・・・・・ゼェ・・・・・

 も・・・もうこれくらいにしておこう・・・」


 息が切れかけている翠は、近くにあったベッドに腰を落とす。

ベッド自体が古い為、座った衝撃で壊れるか心配だった翠だが、どうにか持ち堪えてくれたベッド。

 一瞬『ギギギ・・・』と言う音がしたが、翠が足を伸ばしても壊れない。

その様子を見たクレンもリータも、床に崩れ落ちるように座った。


「ふぅ・・・・・だいぶ綺麗になりましたね、埃を払っただけですけど。」


「リータの顔、埃で真っ黒だ、あはははっ!」


「それはミドリさんも同じです。」


「ごめんって!

 お水持って来るついでにラーコ達も呼んで来るから待っててー」


 翠が一旦外に出ると、外で待っていた2人は、目を丸くして驚いていた。

真っ黒になったクレンとラーコを笑っていた翠だったが、彼女もまた、全身のありとあらゆる所が、灰色の埃で埋め尽くされていた。


 ラーコは翠の全身を叩き、グルオフが水を布にかけ、その布で翠の顔を拭いてあげる。

すると、濡らした布もあっという間に真っ黒になり、翠を叩いても叩いても、なかなか埃が離れてくれない。

 

 「翌朝頑張って川でも探さないとなぁ・・・」と呟く翠は、苦笑した。

もう細かい埃は、我慢するしかなかった。


 その様子を隠し部屋の中から見ていた2人も、のっそりと部屋から出てきた。

2人の全身も、また凄い事になっている。これにはびっくりを通り越して、爆笑ものだった。

 もう眠気なんて吹っ飛んでしまった5人は、明け方まで一緒になって埃の処理に追われる。

外へ追い出された埃の群れは、あちこちの木や草に避難した。


 埃がある程度外に追い出された室内は、まだちょっと埃に塗れていたが、ある程度何が置いてある

 のかが分かるくらいになった。

そして、5人をこの場所へ誘導していたリザードマンは、部屋の奥にある『一卓のテーブル』の前に佇んでいた。


 翠がそこへ歩み寄ってみると、リザードマンは翠に向かって、満足そうな笑みを浮かべると、テー

 ブ ルの上を指差した。

翠以外の4人は制止しようとするのだが、そのリザードマンが5人に何を伝えようとしていたのかは、テーブルの上に置いてある物を見れば、一目瞭然だった。



 テーブルの上に置かれているのは、『一枚の紙』と『綺麗な首飾り』



「この紙・・・・・かなり古ぼけているけど、何か文字が書いてある・・・?!」


 翠は慎重にその紙を手に取る。

紙自体の風化もだいぶ進んでいた為、乱暴に扱わないように、慎重に手に取り、紙を凝視する翠。


 『不思議な図形』と『右下の羅針盤の絵』で、その紙が『昔の地図』である事は、はほぼ確定。

翠がついさっきまで見ていた地図の地名とは、若干違う場所があったり、地形が少し今とズレている箇所があるものの、この国の地図だった。


 古い地図も、だいぶ使い込まれた形跡があるのだが、その形跡が、何だか『物騒』だった。

明らかにちぎれた様には見えない『穴』や『切り傷』


 そして、古い地図の隣には、『一つの綺麗なアクセサリー』

そのアクセサリーは、王都の市場で売られていたような商品とは違い、明らかに年代物の風格を感じさせる、厳かな作りをしていた。


 かなり古い物の筈なのに、このアクセサリーだけ、壊れる気配が一切ない。

しっかり丁寧に作り込まれている証拠である。


 そのアクセサリーを見たグルオフは、何かに気づいて声を上げる。


「これって・・・・・


 ・・・・・あぁ、やっぱりそうだ!!」


「??」「??」「??」「??」


「これ、『リザードマンの鱗のお守り』だ!」


 手記の主も、お守りの主も、さっき5人の前に姿を現したリザードマンの物である事を、そのお守

 りが物語っていた。

確かに、そのお守りに結んである『三つの鱗』は、明らかに『魚の鱗』とは違う。

 

 大きさも違う、色も魚とは思えない、鮮やかな緑色。

光を反射しているわけでもないのだが、鱗自身が光っているように、キラキラとしている。

 表面はだいぶ硬く、ちょっとはそっとの衝撃では壊れないくらい頑丈。

翠が恐る恐る、その鱗を触ってみると、まるで『宝石』を撫でているような感覚だった。


「リザードマンの鱗は、どんな攻撃も効かない、所有者を守ってくれるお守りとして、昔はだいぶ流

 通していたみたいです。」

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