王都に到着した『38名』 (3)
「君達の話は、兵士達からあらかじめ聞いているんだけど、改めて君達の口からも話してほしい。
確認した限りでは、君達が誰にも知られず、誰にも見つかる事なく、この世界で過ごす事はありえ
ない。
その上、君達は『覚醒者』や『この世界の仕組み』について、まだ分かっていない様子だよね?
君達は、『この国の住民ではない』 もしくは、『この世界の住民ではない』
・・・・・よね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・うぅぅぅうう・・・・」
突然泣き出した委員長。他の生徒も、涙が出そうなくらいの笑みを浮かべていた。
この世界に来て、やっと対等に話ができる、やっと自分達に起きた事を、理解してくれる人がいた。
それが嬉しくて嬉しくて、もう感情が抑えられなかったのだ。
王子はそんな38名を見てアタフタしていたが、王や王妃は違った。
2人で、顔を真っ青にさせながら、王子の方を見た。
だが、そんな両親の顔に反して、王子は余裕な表情を崩さない。
「是非とも、君達がこの世界に来た経緯を教えてくれないかな?
大丈夫、私は信じるから。」
その言葉を信じ、38名はこれまでの経緯を色々と説明する。
自分達が、この世界の住民ではない事も。
自分達が、事故で亡くなってしまった事も。
自分達が、覚醒者の情報を何も知らない事も。
そして、元の世界に帰りたい事も。
何もかもを話した。
そう、『翠』の事も。
「・・・それで、この世界に来てすぐ、単独行動した『玉端』さんは・・・・・」
「モンスターに襲われて亡くなったの?」
「それは・・・分からない・・・」
「絶対もう死んでるだろって!!」
そう言い切ったのは、クラスの陽キャ男子。その男子の言葉に、他のクラスメイト達も、静かに頷
いた。
彼らからすれば、単独行動をした時点で、死亡はほぼ確定なのだ。
「そう・・・・・じゃあその『タマハシ』っていう人も、覚醒者だったのかな?」
「さぁ・・・・でも私達が、その覚醒者だったから、多分・・・・・」
「その人、どんな人だったかな?
何でもいいから、特徴さえ言ってくれれば、僕たちで探し出してあげる。」
「え? えーっと・・・・・うーんと・・・
髪が長くて・・・・・」
「『白のワンピース』みたいな服装で・・・」
「『杖』で変な化け物を一網打尽にして・・・」
「ちょっと緑っぽい瞳の色で・・・」
クラスメイト達が、口々に翠の特徴を上げていくと、王子はしばらく黙り込み、考え込んだ。
そして、メイドの『紙』と『ペン』を持って来させ、スラスラと『似顔絵』を描き始める。
そう、王子はかつて、『翠らしき人』と遭遇している。
あれはまだ日もそんなに経っていない、『火事が起こる前』だった。
「ねぇ、その人って・・・・・
こんな人じゃなかった?」
王子は、あの時に見た彼女の顔を、だいぶざっくりだが紙に描き、38人に見せた。
38名が覚えている翠の姿は、転生後の翠と比較すると、ちょっとだが変わっている。
転生前は纏めなかった髪を、転生後には後ろでまとめていた。
モンスターと戦う時、邪魔にならないように。
その時に見せた翠の素顔は、クラスメイトでも、今まで見た事は一度もなかった。
翠の事を揶揄ってばかり、嘲笑ってばかりだった彼らにとって、彼女の外見なんて、どうでも良かったのだ。
痩せていようが、太っていようが、男でも女でも。
周りにヘルプを出さない、自分達の言う事に一切抵抗しない、そんな都合の良い人間なら、誰でも良かったのだ。
翠は、相手にするのが嫌だから関わらなかっただけなのだが、彼らにとっては『臆病者』として捉
えられていたのだ。
何もかもが、彼らの一方的な『決めつけ』に過ぎないのだが・・・
王子の描いたその姿は、まだこの世界に転生したばかりの頃、スライムの軍勢を相手にした、翠そ
のものだった。
長い前髪に隠れたその素顔は、息を呑むくらい凛としていた。
細目のキリッとした顔立ちも、ほっそりした体型も、翠で間違いない。
「間違いない・・・と思います!! この人が玉端さんです!!!」
「でも王子様、どうしてアイツを・・・??」
その陽キャ女子の質問に、王子はにっこり笑って答えた。
だがその笑みには、明らかに含みがあった。
「この王都に来たんだよ。声をかけたんだけど、逃げられちゃった。」
王子は「あははは・・・」と笑っていたが、後ろで待機していた兵士達も、国王や妃と同じく、顔
面を真っ青にさせていた。
しかし、38名にはそんな事どうでもよかった。
玉端 翠が、まさかあの状況で生き延びていた事に、安堵の気持ちを抱かずにはいられない。
どんな間柄であるとしても、一応は共にこの世界へ転生した『クラスメイト』である。
「・・・じゃあ、玉端さんは、まだこの王都の何処かに・・・?!」
「その可能性は高いね。」
38名がワイワイと話し合っている最中
王子だけは、『不気味な笑み』を浮かべていた。