王都に到着した『38名』 (2)
もう『39名』が転生してから、半年は経過している。
転生した当初は、旧世界とは何もかもが全く違うこの世界を、興味津々で冒険していた。
だが、時間が経過すると共に、旧世界に居た頃の事を忘れ、この世界に馴染んでくる。
そして、自分達が保護され、守られる事さえ、当たり前を通り越して『必然』になっている。
『38名』は元の世界へ帰りたい気持ちがあるのだが、その具体的な方法については、誰も考えよう
とも、語ろうともしなかった。
彼らは、周りの人々に言われるがまま、この王都に流れ着いた。
だが、彼らはこの世界を知り尽くした顔をしていても、まだまだ知らない事は多い。
むしろ知っている事が、事実かどうかも分からない、自分達で解釈しただけの、『都合の良い願望』に過ぎない。
38名は、王都に着いてからようやく自覚した。
あらゆる人から散々聞かされた『覚醒者』という存在が、自分達である事を。
だが、覚醒者が一体どうゆう存在なのか、普通の住民とは何が違うのか、まだ分かっていない。
ただ、行く先々で重宝されていた為、38名は勝手に、『貴重な人間』と思い込み、それを鼻にかけ始めたのだ。
実際、『LV』という概念も、覚醒者としての役目も、彼らはまだ何も知らない。
勝手に自己解釈して、勝手に威張っているだけなのだ。
そんな彼らを、真っ当に相手にする方が、むしろ馬鹿に思われてしまうだろう。
38名のなかには、覚醒者について調べようとする人すらいなかった。
まだまだ知らない事だらけの彼らは、この国の『内情の闇』すらも知らない。
38名が途中で泊まった村や町でも、その話で持ちきりだった筈なのだが、誰1人として、真剣に聞こうとはしなかった。
帰りたい気持ちが強い事もあるが、何より38名が、この環境にすっかり馴染んで、疑問を持たなく
なっている。
この世界が、そんなに甘い筈はない。翠なら、『今の王家』の話なんて、耳を貸そうともしない。
翠は、様々な行動や軌跡を経て、この国の真実に迫ろうと、今も尚歩き続けている。
クラスメイト達があくびをしながら、退屈な時間の潰し方を考えている間にも、翠は目的地へ向かう為、モンスターと戦い続けている。
しかし、38名の頭の中からは、とっくに翠の記憶が消えかかっていた。
王都に来てからは、早く旧世界へ帰りたい気持ちが増している。
早くスマホを触りたい、両親に会いたい、ペットに会いたい・・・
しかし、現時点で翠も、まだ旧世界に帰れる方法は分かっていない。だから、帰れる筈がないのだ。
38名にも、この世界の住民も、元の世界に帰る方法なんて、分かるわけがない。
それこそ、事件に巻き込まれた本人達が、まず最初に調べるべきである。
ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ・・・・・
重く固い扉が、何十人もの兵士が一斉に力を込めて、ゆっくりと開ける。
そして、その奥に広がっているのは、この城の中で、一番広い空間。
奥には歴史を感じさせる大きな王座、天井に吊るされた巨大なシャンデリア、鮮やかな色の絨毯。
豪華すぎて、目を瞑りたくなるような光景に、38名は思わず後退りしてしまう。
美しい景色ではあるが、自分達の住んでいた世界とはまた違った、『第3の世界』に、体と心に拒
否反応が出てしまったのだ。
そんな38名を見て、召使いが再び彼らに口を出そうとするが、それを止めた人物が・・・
「どうぞ、入ってください。」
38名に、唯一優しい微笑みを向けた人物、それは『王子』
美しい顔立ちから放たれる、爽やかな雰囲気に、女性陣はすぐ心を許し、王座の前へと歩み寄る。
女子達の一変した態度に、思わず眉を顰めていたが、その場に留まり続けるわけにもいか
ず、男性陣達は慎重に、ゆっくりと王座の前まで来る。
王子の顔は爽やかなのだが、中央に座る国王、王子の父親の笑みは、『下衆な匂い』が漂って来る。
だが、それに気づいているのは、男性陣のみ。女性陣は、もう王子にメロメロ状態。
「ごめんね、こっちも色々とバタバタしていてね、面会まで漕ぎ着けるまで、時間がかかってしまっ
たんだ。」
「あっ・・・えっと・・・」
「いえいえ! お会いできて光栄です!」
先に38名を代表して、学級委員長が王子に声をかけようとしたのだが、それを遮ってきたのは、ク
ラスの陽キャ女子。
明らかに、自分達が話しかけたい、目立ちたい気持ちが滲み出ている。
そんな陽キャ女子達の反応に、男性陣は思わず(うわ・・・)と思った。
一番最初に話しかけようとした学級委員長でさえ、喋る気力を失ってしまったのか、後退りして黙り込んでしまう。
転生前は、自分達に頼りっぱなしな女子達。
宿題を見せる事もあれば、掃除を任された時も、集会の準備を任された時もあった。
にも関わらず、今彼女達が頼り切っているのは、自分達ではなく、この国の王子様。
冷静に考えれば、『この世界を知らない男性陣』と『この世界を知り尽くしている王子』だったら、 王子を取るのが無難である。
だが、今まで頑張って彼女達を支え続けてきた彼らにとっては、見たくない光景であった。
それこそ、彼女達の行動は、自分達の懸命な行動を嘲笑っているようにしか見えない。
それに苛立ちを感じていた男性陣だが、必死になって堪えながら、指定された椅子に座る。
そして、ゾロゾロと可愛いメイドが入ってきて、彼らに紅茶やお菓子が振る舞われる。
女性陣は王子にぞっこんだが、男性陣も男性陣で、色っぽいメイドや愛らしいメイドにうつつを抜
かしている。
そう、『彼』の
『計画通り』に。