王都に到着した『38名』 (1)
「はぁ・・・・・やっと王様との話し合いに漕ぎ着けたな・・・」
「そうだね・・・かれこれ1ヶ月は待ってたよね。」
「雑誌とかSNS見れないのしんどーい!!」
「というか、私達後半から、雑に扱われすぎでしょ!!」
『王座の部屋』の前で、ブツクサと文句を言い合う38名。
あの後、どうにかして王都へ入る事ができたのだが、一番肝心な話し合いまで、一ヶ月はかかってしまった。
火事の原因も、犯人も特定できた。
後始末に関しても、地下に繋がる出入り口を完全封鎖して、この件は幕が降りた・・・筈だった。
火事の騒動が起きてからというもの、王家や貴族の人間は、しばらく城に篭りきりに。
普段から城の外へは滅多に出ない彼らだが、何かと理由をつけて、職務すら放棄するようになった。
これには庶民達も頭を抱えた。
『事業主』や『取締役』が指示を下さなければ、仕事ができない上に、給料なども入ってこない。
そうなれば、当然庶民の生活はジリ貧。住民の何人かが、城に来て訴えかけても、一切出てこよう
としない。いつものパターンだが。
王都の住民は、「怖くなったんだ」と、口を揃えて噂する始末。
そして頭を抱えたのは、庶民だけではなかった。
せっかく王都まで来て、ようやく転生した事について、色々と相談したかった38名だったが、その希望は一気に遠のいてしまったのだから。
城の門が開かれるまでの間、38名もずーっと宿に篭っていた。
事業主が姿を現さないと、勝手に売り買いもできない為、市場はほぼ閉まっていた。
後から問題が起こっても面倒な為、そうするしかなかったのだ。
お店を出せない間は、庶民全員で協力しながら、食糧や日用品を確保していた。
だから、さほど大きな混乱にはならなかったものの、国の上層部への不満は、更に高まった。
そして、王都の住民でも何でもない38名に関しては、宿の主人が何度も追い出そうとした。
宿だって無料ではない上に、食料や消耗品だって必要になる。
それが38人分となれば、笑い事ではない。
38人は当然お金なんて持っていない。
翠のように、モンスターを積極的に倒す事もしなければ、助けてもらった人々に恩を返そうともしな
かった。
誰もそんな集団に、お金を無償で与える・・・なんて事はしない。
せめて38名が力を合わせ、村の為に『雑用』でも尽くせば、話は変わったのかもしれないが・・・
38名はあちこちへ『たらい回し』にされているのだが、38名はまだ、自分達が煙たがられている事
を自覚していない。
何故ならこの世界では、覚醒者が重宝される。だが、『役に立たない覚醒者集団』というのは、どの村や町でも初めてのパターンだった。
宿屋の主人が、何度も強制退去を訴えても、彼らは居座り続けた。
それくらいしか、彼らにできる事はないから。
まさに『貴族』や『王族』と同じ立場にある38名だが、全員を追い出したら、後々が怖いのは庶民
だけではなく、兵士達も同じだった。
既に38名を王都に入れた事は、篭りっぱなしの貴族や王族にも、既に伝えている。
だから勝手に王都から38名を、自分達の判断のみで出してしまうと、兵士達にも処分が下る。
彼ら38名が覚醒者である事も、横暴に扱えなかった理由の一つ。
覚醒者は、確かに心強い、『庶民のヒーロー』のような存在。
その根底が、38名によって、一気に覆されてしまう。
38名の世話をしている、ほぼ全員の本心は、(何処でもいいから早くどっか行ってくれ・・・)と
思っていた。
もう待つのに飽き飽きした38名は、暇になる度に王都を歩いて回っていたのだが、それでも退屈が癒える事はなかった。
何故なら彼らは、お金を一切持っていなかった上、城の一件もあり、店の殆どは閉まっている。
『シャッターロード』を歩いているような気分では、リフレッシュなんてできるわけもない。
焦げ臭い煤の匂いも、まだ王都全体に染み込んでいた為、外に出てもすぐ帰って来る生徒も。
都会的な場所ではあるが、楽しめるのは『散歩』くらいしかなく、38名のイライラも積もるばかり。
しかし、一番イライラしていたのは、彼らの面倒を見なければいけない、宿屋の主人や兵士達。
だから、ようやく王家が38名との面会を切り出した際には、
(ようやく『子守』が終わるのか・・・)
と、胸を撫で下ろしていた。
「いいか、これからこの国を統治するお方へ、特別に面会する機会を与えられた身として、失礼な行
動を取らないように。
いくら覚醒者の集団とはいえ、粗相な態度を取れば、その首が宙に舞う事になるからな。」
「分かりまーした。」
「おいっ! 返事くらいしっかりしろ!」
王家直属の召使に説教されるクラスメイトの1人だが、全然話が耳に入っていない様子。
許可が降りたとはいえ、もう城に来てから数時間は待たされている為、そろそろ場内の景色にも飽きてしまったのだ。