91・『女性』として 『一族の末裔』として
「じゃあさ、もし『婿』としてパートナーになるなら、
クレン と リータ君
どっち取る?」
「・・・・・・・・・・
はい???」
突然の質問に、口を開けたまま固まる翠。そんな翠を見て、ラーコは思わず笑ってしまう。
「あはははっ。いやいや、ふと思っただけ。
前にも説明したでしょ?
私達アメニュ一家は、『覚醒者同士』じゃないと、結婚は許されない。」
「・・・今考えると、それってすごい狭い門じゃない?」
「まぁね、でもその厳しい門のおかげで、私達は優秀な覚醒者になれたわけだし、子孫である私が文
句を言う筋合いはないよ。」
『昔の結婚』も『現代の結婚』も、何かしら多難である事は、翠も分かっていた。
昔と比べて『離婚』のハードルも低くなった為、結婚しても離れてしまう夫婦も多く、そうなればまた新たな問題がいくつも生まれてしまう。
ネットを見れば、そうゆう情報が腐る程ある。
だから、結婚のハードルは年々高くなっていく一方。
ニュースでは、『結婚離れ』がどうたら・・・と、キャスターが熱弁している。
だが現実問題、『結婚=人生における絶対』ではない。それこそ『個人の自由』である。
人によっては、結婚を推し進める人もいるのだが、翠は生憎、そんな事考えた事すらない。
『乙女ゲーム』は別なのだが・・・・・
『ゲームでの恋愛』というのは、『楽』な上に『自分のペース』を維持できる。
会いたくなったら、スマホやパソコンの電源を入れればいいだけ。
距離を置きたくなったら、スマホやパソコンから離れるだけ。
翠はかつて、何人もの『キャラクター』との恋を成就させ、エンディングは一つ残らず視聴した。
これも一種のプロ根性である。
だが、『本人の好み』に関しては、まだ曖昧であやふや。
何人ものキャラクターとフラグを立て続けた結果、それらの感覚がゴッチャになってしまった。
ゲームでは、何人のキャラクターと恋愛関係になっても、誰も文句は言わない。
そうゆう設定のあるゲームもあるのだが・・・・・
だが、現実世界はそうもいかない。
他人同士が同じ時間を共有して、同じ屋根の下で過ごす・・・というのは、何かと難しい。
「そういうラーコは?」
「え?」
「リータも覚醒者なわけだから、婿候補としては差し支えないんじゃない?」
「・・・・・・・・・・」
そう言うと、急にラーコは黙り込んでしまった。自分から話題を提示したにも関わらず。
この反応に対し、(・・・何かやっちまった???)と、途端に不安に駆られる翠。
普段からお喋りな人が急に黙り込むと、誰だって不安になる。
だが、しばらくするとラーコは、『密かに悩んでいた事』を、翠に打ち明けてくれた。
「・・・あのさ・・・
もしこのまま、順調にことが進んで、グルオフが正式な王家として、この国を立て直すでしょ?」
「うん。」
「そうなってしまったらね、『私達一族』も、当然必要になってくる。」
「まぁ・・・そうだよね。」
「でも、アメニュ一族は、私を含めてクレン、2人しかいない。」
「あー、成程ー
確かにそれは、先行きが不安になるかも。」
「私達アメニュ一族も、歴史ある一族であるから、ここで途絶えるのも惜しい気持ちもあるけ
ど・・・
無理に相手を求めるのも、ちょっと・・・違うと思わない?」
ラーコの『1人の女性としての意見』に、大きく頷いた翠。
グルオフもグルオフで、色々と考えなければいけないが、ラーコもラーコで、色々と考えている事がある。
ラーコの一族は、確かに生き残っているのはたったの2名、それを途絶えさせてはいけない・・・
と、躍起になる気持ちも翠にはわかる。
ただ、そう簡単にも決められない。『家系』と『個人』では、規模も責任も違うのだ。
5人の中で一番年上のラーコも、まだ19歳。
色々と翻弄されてしまったせいで、彼女も彼女で、『恋愛』の経験がない。グルオフも同じだが。
だからこそ彼女は悩んでいるのだ。
恋愛経験のない自分に、『後継』とか『後継者』とか、そんな事を言える立場にあるのだろうか?
自分は、アメニュ一族を辛うじて繋ぐ事ができるのか?
弟は、自分達アメニュ一族の存続をどう思っているのか?
それらを考え始めると、動き出したくてもなかなか動けない。
まだ今はそんな余裕はないが、いずれは考えなければいけない。
しかし、『一族の存続』や『後継者問題』なんて、翠に分かる筈もない。
何より翠も、『リアルな恋愛』なんて経験していない。だから、何とも言えないのだ。
(乙女ゲームで何度か苦戦した事はあるけど、リアルの恋愛の方が、よっぽど頭が重くなる・・・
『正解』も『不正解』もない・・・・・っていうのが・・・またね・・・)
ゲームなら、絶対相手を落とせる『選択肢』や『攻略法』があるが、現実にそんなものはない。
テレビや雑誌でも、『モテる方法』や『デートに失敗しない方法』等が宣伝されているものの、あれ が『確実』とは誰も言えない。
映画好きな彼を遊園地に連れて行っても、楽しんでくれない。
逆に、デートに行く際は必ず映画を見る予定を組めば、デートを楽しんでくれる。
ただ、彼は良くても自分が映画が苦手だと意味がない。
他人というのは、そうゆうもの。
『恋愛』も、『人間関係』も、生きていく上で、避けては通れない問題。
世界、時代を問わず、多くの人が悩まされている。
「・・・・・ラーコ、まずさ。
私達、『恋』を知った方がいいんじゃない?」
「え? ミドリも恋をした事ないの?」
「まぁ・・・ね、『リアル』だと。」
「『リアル』??」
「あっ!! いやいやいやいや!!!
えーっと・・・まぁ・・・その・・・アレだ・・・・・
そうだ! 『絵本の中の王子様』になら、恋をした事はあるよ!!」
「それって『恋』に入るの???」