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一網打尽にしたのは・・・

ガシュ


 ビチャ


「※※※※※ー!!!」


「うるせぇ。」


 静寂な森の中に響く、耳障りな音。その音に反応した鳥達は、一目散に空へと飛び去る。

 辺りの雑草に飛び散った液体は、『青』だったり『紫』だったり『深緑』だったり、とにかく『歪な色』である。

 しかし、その『ヒーラー』は迷う事なく、持っている杖でバシバシとスライムを叩き続ける。

 スライム1匹1匹が、着々と『単なる液体』へ変わっていく光景に、周りのスライム達も怖気付いて、ゆっくり後ろへ下がっていく。

 しかし、『彼女』は1匹たりとも逃しはしない。

 逃げたスライムに駆け寄り、隠れたスライムは探し出す。

 ついさっきまで十数体もいたスライムが、着実に減っている。

 それと同時に、彼女の周りがスライムの体液で、だんだんカラフルになっていた。

 彼女は心なしか、スライムを退治している間、不気味な笑みを浮かべている様に見える。

 まるで、心の底から楽しんでいる様に・・・

 しかし、明らかに違和感満載な光景である。まず彼女は、物理で闘うようなジョブではない。

 真っ白な『修道服』 粗末ではあるが『木製の杖』

 そんな装備で、まさか杖で殴るなんて、ちょっかいを仕掛けたスライムですら、予想もしていなかった展開。

 しかし、彼女はお構いなしに杖を振り続ける。

 本来、その杖に『魔力』を注ぐ事で、『回復魔法』が実現するのだが、彼女の杖はスライムの体液でカラフルに彩られていた。

 そして、こんな嘘のような展開を予想していなかったのは、スライムだけではない。

 彼女の後ろで、ビクビクと震えている『クラスメイト』達も、ただひたすら彼女を眺めている事しかできなかった。

 後ろで見ているクラスメイト達の方が、よっぽど良い装備を身につけているにも拘わらず、脆弱なスライム相手に、見ている事しかできない様子。

 豪華な剣を持っている『カースト上位の男子』は、重い鉄の塊である剣を持つ事すらままならない状況。

 分厚い魔導書を持っている『学級委員長』は、曲がったメガネも直せない状況。

 誰も彼女を止めようとはしない、見ているだけで精一杯。

 彼女自身も、周囲の目なんてお構いなしに、バシバシとスライムを蹴散らしていくのに精一杯。




「・・・ま、こんなもんね。」


 周囲がカラフルなスライムの体液に染まり、青々とした緑が見えなくなると同時に、ようやく森は静寂をとり戻す。

 彼女は「フーッ」と小さなため息をつきながら、まだ動けずに固まっているクラスメイト達に振り返った。

 すると、何人かが怖気付いて「ヒッ!!!」という小さな悲鳴をあげる。

 そう、彼らにとって、スライムよりも彼女の方が、よっぽど恐ろしかったのだ。

 躊躇なく、スライム達を杖で何度も何度も叩きつける様子は、まるで『餅つき』の様にも見える。

 だがその最中、彼女はずっと笑っていた、夢中になっていたのだ。

 後ろで見ているクラスメイト達がドン引きしようが、ちょっかいをかけてきた筈のスライムが、逃げようとあちこちをウロチョロしていても。

 翠はその手を休める事なく、スライムが全滅するまで殴り続けた。

 相手が低レベルモンスターだから、まだ何となかったものの、まさかたった一人のヒーラーが、20体近いスライムを撃退できるなんて、この場にいる誰も想像できなかった。

 ここまでくると、スライムが不憫に思えてしまう・・・

 そして、スライムが全滅したのを確認した彼女は、その手でスライムの残骸をかき集め始める。

 事切れたスライムは、その場で『ジュワーッ』という音を立てて、空気と一体化するのだが、地面には体液がいくつも残っていた。

 スライムの体液を拾う度に、『ベチョ・・・ベチョ・・・ベチョ・・・』と、耳障りな音がクラスメイト達の精神を逆撫でしている。

 だが、当の本人は涼しい顔で集めている。

 手が残骸で汚れてもお構いなしな様子に、ようやく意を決したクラスメイトの一人が、口を開いた。


「・・・ねぇ・・・玉端たまはしさん・・・

 何してるの?」


 彼の持っている装備は、『ナイフ4本』に『弓矢』 

 どうやら彼は『シーフ』のジョブらしい。しかし、彼の腰はまだガクガクしていた。

 そのヒョロヒョロとした声に反応した彼女は、一瞬だけ手を止めて説明を加える。


「モンスターから落ちた『素材』は、後で『金』になる。まぁ・・・微々たるものになりそうだけど。


 拾い集めたスライムの素材を、予め装備されていた布に包んだ彼女は、辺りをキョロキョロと見渡す。

 相変わらず、鬱蒼と生い茂る木々と草花しか見当たらない。

 幸い、空は見上げられる為、彼女は『太陽の位置』を確認する。

 枝や葉っぱの幕に覆われて少し見えにくいが、まだ日は昇りきっていない、つまりは『早朝』という事。

事。

 それが分かった彼女は、安心した様子だった。


「夜スタートじゃなかっただけ幸いか・・・

 こんな森の中を真夜中に動くなんて、完全なる死亡フラグだからね・・・」


 そう言って、彼女はスライムの残骸を抱え、森の奥へ歩き出す。

 その切り替えの速さに驚いたクラスメイト達は動揺して、彼女を止めようとする。


「ちょ・・・ちょっとみどり!!!

 勝手に動くなって!!!」


「そうよ!!! 今は助けが来るまで此処で待っていた方が・・・!!!」


 その声が耳に入った女性は、一旦立ち止まったが、クラスメイト達の方へ再び振り向くと、嘲笑う様な笑みを見せて言い放った。


「はっ、『助け』? そんなの来ると思うの? 

 この異常な空間で。

 明らかに此処は私達がさっきまでいた場所ではない。

 私達が乗っていた『バス』もなければ、落ちた『崖』すら見当たらない。


 『さっきの話』、聞いてなかったわけじゃないでしょ?

 こんな状況になったら、さすがに信じるしかないでしょ・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


 クラスメイト達は、何も言えなかった。言い返せない程の正論だった。






 そう、翠達39名は、


 死んだのだ

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