時計塔の下のトケイソウ
時計塔の下のトケイソウ
僕が少年時代の話である。
公園の中に一つ建っていた時計塔を指して少女が言った。
「ねえ、あの公園の時計ぽつんと立っていて寂しそうだよね」
「そうだ、寂しくないように何かをしてみようよ」
僕と少女はしばらく考えて花を植えることにしたのでした。
「パッションフルーツってトケイソウっていうんだっけ? 育ったら一緒に食べようね」
と女の子と約束を交わしたのでした。
しかし、僕はお父さんの仕事の都合で引っ越してしまいました。
———― 15年後
そのことをすっかり忘れて昔住んでいた町にたまたま仕事で訪れた時、 俺は思い出しました。
でも、宅地化が進んであの公園はないだろうな……と思いながら公園があった場所に記憶をたどりに向かいました。
いつしか時計は時を刻むのを忘れたかのように佇んでいましたが、 時計の周りにはトケイソウが絡みつき、パッションフルーツの実がなっていたのです。
「ああ、あの女の子との約束守れなかったかなあ……」とつぶやくと
「なら今からでも守ってみる? ケンジ君」 といわれて振り向くといつの間にか女性が立っていた。
「どうして俺の名を……? まさか君はレイコちゃん?」
「気が付いたんだねケンジ君。 でも君ちょっと遅いよ女の子を待たせるなんて減点だよ 」
レイコちゃんはパッションフルーツをもぎ取って俺に渡してくれました。
———― 1年後
俺とレイコは付き合うようになり。結婚することになりました。
結婚後、思い出の場所に向かうと老朽化のため時計塔は取り壊されていました。
でも再会した時に未熟なパッションフルーツを家の庭に植えていたのです。
時計塔がなくなっても時を見守ってくれるように願いを込めて。