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3戦目:純白パンツは悪魔の嘲笑①

「トウマさーん。朝ごはん出来ましたよー!」

「うぅーん……。もう朝か」


 俺は大きなあくびをしながら窓から差し込む朝日をたっぷりと浴びる。

 なんて素晴らしい朝なんだ。

 愛しい人の声で優しく起こされる。

 まるで新婚夫婦のようじゃないか。

 さ、新妻が呼んでいることだ。

 起きて行きますか。

 そうして俺はハツラツとした気持ちで階段を下りていく。


「おはよう! ……んん?」


 俺のハツラツとした気持ちは一気に吹き飛んだ。


「よう!」


 何とそこにはセリアの手料理を頬張るスライの姿があったのだ。


「うまくいったみたいだねぇ、トウマくん。想像以上にね」

「ええ、おかげ様で」


 遠慮なくセリアの手料理を食いやがって。

 テーブルに着くと、そこにはカリカリに焼いたベーコンとスクランブルエッグ、マッシュポテト、そしてサラダとパンが用意されており、キラキラと輝いているようだった。

 これでコーヒーがあれば最高だ。


「いただきます! 美味い!」


 ほぼ脊髄反射だ。


「イイ娘を見つけたねぇ。それで、ルル嬢。あなたもイイ子が見つかったということで良いかい?」

「うむ。トウマは適任じゃ」


 ベーコンをかじりながらルルが言った。


「それは良かった! それじゃあ、斡旋料をお願いしましょうかね」

「いつも通りそこから持って行って良いぞ。これでお前さんも顔を見せなくなるのかの」


 スライはいつの間にか玄関脇の棚の上に置いてある革袋を一つ開き、中を確かめていた。


「いや、正直言ってあんたは金ヅルだ。出来れば逃したくない」


 そう言ってスライはタバコに火を点ける。


「お前さんといい道具屋や食物屋の主人といい、本当にその金貨を集めるのが好きなんじゃな」


 金貨を集める?

 そんな言い方初めて聞いたぞ。

 ああ、つまりそういうことか。

 外に出たことないルルは貨幣の価値をイマイチ理解出来ていないんだ。

 それをこの男は食い物にしてるのか。


「おい! いくらルルから騙し盗ったんだ!」


 するとスライはタバコの煙を俺に吹きかける。


「騙すつもりなら金ヅルだなんて言う訳ないだろう。キッチリ正規の報酬しか取ったことないから安心しな。むしろ他の商人からボッタクられてないか俺が監視してやってるんだ」

「そ、そうなのか?」

「俺がボッタクッてたら他の奴らにデカい顔出来ないだろ? だからルルは俺の上客としてしっかり見張ってるのさ」

「なるほど」

「しかし、何の依頼もないとなると斡旋料が取れねぇな。何でもやるぜ? あんたらも何かあったら聞いてやっても良いぜ。ルル嬢に免じて特別価格にしといてやる」

「何でもねぇ……。あ、そうだ! セリア! 確か、お兄さんを探してるんじゃなかったっけ?」

「そ、そうなんです! スライさん、人探しだなんてツマラナイ仕事ですけどお願い出来ませんか?」


 それを聞いたスライはにやりと微笑むとタバコの煙を丸く吐き出す。


「セリア嬢の頼みとあらば喜んで。それで? 兄貴の名前や風体は?」

「ゼロスです。ゼロス・セルベリア。決闘が生き甲斐みたいな人で、両手剣を愛用してます」

「両手剣使いのファイター、ゼロス・セルベリアね。了解。俺の網に聞いておく」

「ありがとうございます!」

「まぁ、手付金はこの手料理ってことにしとくよ。ごちそうさん」


 そう言うとスライは片手を挙げて去っていった。

 

 ――キザな野郎だ。


 まぁ、悪い人間ではなさそうだし、この街では顔も利くようだから、とりあえずセリアのお兄さんの件は任せても良さそうかな。


「では、そろそろ研究を始めるとするかの」

「ああ。俺は何を手伝えば良いんだ?」


 パンをかじりながら尋ねる。

 すると、ルルはニヤリと笑って見せる。

 嫌な予感がする。


「ここに入ってみてくれんか?」


 そう言ってルルがアーチ状の物体をぽんぽんと叩く。

 それはごちゃごちゃと文字の描かれたアーチで高さは俺の身長くらいあり、横幅は人一人通れるくらいだ。

 奥行きはほとんどなく、文字の描かれた棒状の何かを編むように、丁度ツタが絡み合っているかのようなアーチだった。


「入るというかくぐるだろ? すぐ向こうに出るんだから」

「今はそうじゃな。入ってもらいたいのはコレじゃ」


 ルルのアーチを持つ手が光りだす。

 すると、アーチに描かれた文字もそれに呼応するように輝きだす。

 その瞬間、アーチの中に真っ黒い空間が現れ、更にその中には星のように光る粒が遥か彼方に見え隠れする。


「なんだこりゃ……」

「分かりやすく言えば次元と次元の狭間じゃ。ここから他の次元へと向かうことが出来れば師匠を探すことができる。なので、トウマ。お前さんは異世界を渡ってきたのじゃから、つまり次元の超え方も感覚として分かるはずじゃ。だからコレへ入ってどうすれば良いか調べてくるのじゃ」

「えー!? 本気で言ってんのか!? 帰れなくなったらどうすんだよ!」

「心配するでない。コイツをお前さんに付けておく」


 そう言ってルルが取り出したのは何の変哲もないロープだった。


「これをお前さんの腰に結んでおけば大丈夫じゃ!」

「全然大丈夫じゃねぇ!! 殺す気か!」

「やはりダメかのぅ」


 当たり前だろ。

 何を残念がっているんだ。

 生身の人間が入って何かあったらどうするんだ。

 こういう時はラジコンみたいなもので調べるのが最適だろ。

 ここにラジコンみたいなものがあるとは思えないけど。

 ラジコン……?


「あ、そうだ! これだったらもしかして!」

「な、何じゃ!?」

「スペル発動!」


 その直後、俺の目の前に妖しい霧がウネウネと形を変えながら漂い始める。


 =================

 レベル:2

 名前:【霧消のガイスト】

 種類:呪術スペル 召喚

 効果:・召喚 100/100 

    ・2ターン後、これを破壊する。

 =================


「ほう! 召喚スペルか!」

「そう、こいつを次元の狭間とやらに送り込む。感覚は繋がっているから、何となく俺がこっちに来た時のような感じのする方向を探せるんじゃないかな」

「なるほど! さすがわたしの助手じゃ!」

「だろ? じゃあ、早速。行け! ガイスト!」

「おおぉぉぉおん」


 不気味な風鳴りのような声を上げ、ガイストがアーチをくぐり黒い闇へと消えていく。


 ――10分後――


「ひぃひぃ……。ちょ、もう、無理!」


 バタンと大の字に倒れる俺。


「なんじゃ! だらしのない!」

「なんか疲労感がすごいんだけど……。い、一体これってどういうこと?」

「そりゃお前さんはスペルを使っておるのじゃから魔力を消費するじゃろう」

「え? だって決闘中は……」

「決闘中はお前さんの魔力は無関係じゃ。あくまで習得したスペルで公平に勝負するのじゃから」

「……だろうと思ったよ」

「にしても随分と魔力がないものじゃのう。どれ、習得しておるスペルを見せてみぃ」


 見せてみぃと言われても。

 良く分からないが、とりあえず習得スペルと念じてみた。

 するとこれまで同様、パネルのようなものが現れる。


「ほぅ、やはり呪術とあるな。じゃが、スペルの詳細までは見られぬようじゃな。他のスペルは……。何と!? これしか習得しておらんのか!?」

「何だよ、そんなに少ないのか?」

「駆け出しのウィザードですらもっと習得しておるぞ。どうやら呪術分の魔力は加算されていないようじゃな」

「加算?」

「習得したスペルの数や種類によって魔力は増えていくのじゃ。まぁ、さっきも言ったが『マジック&ウェポン』の決闘には無関係じゃがの。どうやら神様とやらはお前さんに決闘をさせたいようじゃな」


 確かに、それ以外はただのガキのままだ。

 どうせならもうちょっとサービスして欲しかったな。


「と言うことはスペルを習得しろってことか」

「やれやれ、ようやく一筋の光明が見えたと思ったのじゃが。まだまだ道のりは遠いのぅ。まぁ、お前さんにとっては様々なスペルを習得出来れば決闘にも有利じゃからな」

「そうだな。相対スペルやら色んなものがあるからな」

「有用なスペルはセットリストに入れて備えておくと良い」

「セットリスト?」

「決闘で使用するスペルやスキル、アイテムのことじゃ」

「ああ、そういうことね」

「それではスペル修行といくかの」

「……その前に起こしてもらって良い?」


 ハァとため息を一つ吐くルル。

 俺の横に立ち、腕を引っ張りながら上体を起こす。


「やっぱり白か……」


 ――あ、声に出てた。

 

 その瞬間、バッとローブの裾を押さえて顔を真っ赤にするルル。

 手を離された俺は思い切り頭を打つ。


「いてて。ご、ごめんごめん! つい視界に入って」

「この、阿呆!!」


『マジック&ウェポン』

~決闘の掟~

・決闘で使用するスキル、スペル、アイテムの組み合わせをセットリストと呼ぶ。

・習得したスペルによって魔力が増加する。決闘時は公正を期すため、必要な魔力はどこからともなく供給される。

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