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2戦目:純白パンツは天使の微笑み③

「ちょ、ちょっと! トウマさん! しっかりしてください!」


 俺はからかうように笑いながらヨロヨロと立ち上がる。


「……じょ、冗談だ、よ。……はぁはぁ。残りHP200、か。どうしたもんかね」

「諦めるのも一つじゃぞ。模擬戦とは言え、HPが0になった時の苦しみは相当なものじゃからな」


 そう言ってにわかに口角を上げるルル。

 勝者の余裕って訳か。


 ――気に入らねぇ。


 勝負ってのは最後の最後まで分からないから面白いんだ。

 俺の勝利条件はただ一つ、生き残れば良いだけだ。

 相手のHPがいくらあったって構わない。

 俺のHPが0にならなきゃそれで良い。

 考えろ。

 その策略を。

 忍び寄る死の影から逃れるための、唯一つの道筋を。


 ルルは今、何レベルまでスペルを使った?

 最初の相対スペルが2、布石とした詠唱スペルが1、そしてとんでもないあのスペルが3。

 つまり、レベル6まで使ったのか。

 と言うことは、あとレベル4相当のスペルを使えるって訳だ。

 対して俺のHPは200。

 ルルのスペルから身を守らなければ、野宿。

 しかもただの野宿ではない。

 セリアから白い目で見られながら、格好悪い男として屈辱的な扱いを受けるに違いない。

 それはすなわち死と同義!


 俺は自分のストックを確認する。

 1枚はただのダメージスペル。今回は残念ながら必要ない。

 2枚目は骸骨騎士ギリアム。召喚しても俺の方にトドメ刺されて終わりだ。

 最後の3枚目。


「とにかくこいつを使うしかないだろう!!」

「往生際の悪い奴じゃ。だが、単なる悪あがきではなさそうじゃな」


 心底楽しそうに笑うルル。

 その笑顔、凍りつかせてやる。


「やれ! 亡者ども!!」


 直後、ドス黒い霧がルルに襲いかかる。


「な、なんじゃ!? このスペルは!?」


 そして黒い霧の立ち込める地面から突如、亡者たちが這い上がると、戸惑うルルにしがみつく。


「ギャー! なんじゃコイツらは! キャッ! ど、どこを触っておるのじゃ!」


 ============================================

 レベル:2

 名前:【コープスバインド】

 種類:呪術スペル 即時

 効果:次のあなたのターン終了時まで相手はレベル1のスキルとスペルを使用することができない。

 ============================================


「よし! これでレベル1のスペルは封じられた。そして、スペルを唱えたことによりリフィルが出来る!」


 これに俺の人生が懸かっている。

 勝てばセリアとキスの一つでも出来るかもしれない。

 そうしたら結婚したも同然だ。

 それは言い過ぎか。

 

 ――とにかくこれが運命の一枚だ!


「リフィル!」


 俺は咄嗟に目を瞑る。

 そして、祈るような気持ちでゆっくりと目を開ける。

 ぼんやりとした視界に見たこともないストックが映り始める。

 まじまじとそれを見つめる。

 次第に俺の目は見開いていく。


「死者共よ、我が呼び声に呪物となりて命に従え」


 俺の詠唱と共に目の前の床から血の垂れたような魔法陣が滲み出る。

 と同時に、溢れるように魔法陣からおびただしい数の死体が出てくる。

 死体の山はとどまることを知らず、どんどんと重なりゆき、転げ落ちた死体は再び頂上を目指さんと山を這い上がる。

 そうして、小高い山が出来ると今度はその上空に黒い霧が漂い始める。

 その次の瞬間、黒い霧から禍々しい形の巨大な十字架が現れたかと思うと、そのまま死体の山目指し落下する。

 風を切る音が近付く。

 そして、肉と骨の砕ける嫌な音を響かせ、十字架が死体の山に突き立てられる。

 亡者共のうめき声があたりを包む。

 それに反響するように、十字架の頂点に配された頭蓋骨のぽっかり空いた眼窩が赤く光ると、カタカタと笑うように揺れ、周囲に不気味なオーラを撒き散らす。


「お、お前、一体何者じゃ……。これはまさか呪術!?」

「理解が早くて助かるぜ。そしてこれも理解出来るな? 俺の勝ちだ」


 =====================================

 レベル:5

 名前:【骸のトーテム】

 種類:呪術スペル 召喚

 効果:・召喚 0/300

    ・あなたに与えられる全てのダメージは代わりにこのスペルに与えられる。

    ・このスペルが破壊された時、100/100のゾンビ 呪術スペルを召喚する。

 =====================================


「ルル、お前はこのターン、あとレベル4相当のスペルしか使えない。その中で俺のトーテムを破壊し、俺に200ダメージを与えなければならない。そこで、お前の使えるスペルの振り分けとしてはレベル4が1回、レベル3は1回だけ。レベル1は封じられてるからな。そして、レベル2が2回の3パターンだ。そして、トーテムと俺、2回に渡って攻撃しなければならないということはレベル2を2回という選択肢しかない」

「その通りじゃ」

「だが、レベル2のスペルはこれまでの経験上、200ダメージが相場だ。そしてトーテムの防御力は300……」


 そこで俺はビシッとルルを指差す。


「つまり、1回のスペルでは破壊出来ないと言うことだ!」

「フッ」


 ルルが俯きながら笑う。

 指を差しながら固まる俺。

 緊張が走る。

 そして、ルルが視線だけを上げて俺に告げる。


「……合格じゃ」

「え? マジで!?」

「合格じゃよ。若干甘い読みじゃがな。レベル2でお前さんのトーテムとやらを破壊するスペルはいくらでもある。だが、今のわたしのストックにはそれがない。わたしの負けじゃ」

「う……。うぉぉぉおお! やった! セリア! やったよ!」

「やりましたね! トウマさん! さすがです!」


 喜びと興奮のどさくさに紛れてセリアの手を握る俺。

 頑張った自分へのご褒美。

 

 ――やわらかい。


「それにしてもお前さん、よくもまぁ呪術なぞ使えるのぉ。どこで習得したのじゃ?」

「なんと言うか……。まぁ、異世界と言うか……」

「異世界じゃと!?」


 目をまん丸にして驚くルル。

 そこまで驚くかとこっちがびっくりするくらいだ。


「た、確かに変わった格好をしとるな……。その、異世界からどうやって来たのじゃ!?」

「どうやってって言われてもなぁ……。実は俺、元の世界で死んだんだよ」

「死んだじゃと!?」

「トウマさん、亡くなってたんですか!?」


 良い反応だ。

 ちょっと話してて楽しくなる。


「そしたら神様の気まぐれでここに蘇らせてくれたって訳。その呪術スペルっていうオマケ付きでね」

「はぁ、なるほど……。お話だけでしたらにわかに信じがたいですが……。呪術を目の当たりにしてる以上、本当なのでしょう」

「わたしは信じるぞ!」


 ルルが胸を張って言った。

 セリアとは大違いの胸を張って。


「なんだ結構信心深いんだな」

「信心じゃと? 阿呆。わたしは異世界があるということを信じているんじゃ」

「なんだ。異世界の方か。信じる信じないって話じゃないぜ。事実だよ。実際そこから来てる訳だから」

「そうじゃろ! そうなんじゃよ!!」


 興奮しながら小さなジャンプを繰り返すルル。

 やっぱ白って良いなぁ。


「実はな、わたしの研究とは次元転移の方法を確立することなんじゃ」

「次元転移?」

「そうじゃ! それを研究するのにこれ以上ないくらい最適な素体に出会えるとは!!」

「素体言うな。俺はモルモットか」

「良し! 早速研究じゃ!」

「お、おいちょっと待ってくれよ! 今日はもう疲れたよ。腹減ったし」


 正直、初めての決闘とやらを2回もやったおかげでヘトヘトだった。

 そして、気が緩んでしまったのかお腹の虫が豪快に騒ぐ。


「そうじゃの。とりあえず今日は食事して休むかの。二階に二部屋空いておるから自由に使って良いぞ」

「わ! ありがとうございます! トウマさんもありがとうございます!」

「お、おう。二部屋ね。一部屋じゃないんだね」


 今にも泣き崩れてしまいたかった。

 まぁ、仕方ない。

 これからゆっくり愛を育んでいこう。

 なにせ一つ屋根の下にいる訳だから。

 

 ――一つ屋根の下。

 

 良い言葉だ。


「では食事にするかの」


 そう言って妄想に浸る俺の前にドンッとルルが置いたのは、皿に乗ったニンジンだった。

 ありのままのニンジンそのもの。


「おい! 俺は馬か! やっぱりモルモットなのか!?」


 そういきり立ってルルに食ってかかる。

 だが、ルルは至極真っ当な顔をしていた。

 と言うか何をいきなり怒鳴っているのか分からないといったようにキョトンとした顔で、生のニンジンをくわえていた。


「な、なんじゃ? や、野菜は食べ物じゃろ?」


 なんという素っ頓狂な回答。

 すると、皿に乗ったニンジンを見詰めていたセリアが何か思い付いたように言う。


「ルル、あなたまさか料理知らないんじゃ……?」

「……う」

「マジか……」


 それを見たセリアが立ち上がり、自分の皿に俺たちのニンジンを乗せていった。

 何をする気だろうか。

 俺とルルは彼女を追った。

 セリアが奥のドアを開けると、そこはダイニングのようで更に奥にはかまどのようなものが見える。

 ダイニングも本が乱雑に積まれており、かまどはしばらく使われていないようだった。


「ルル、飲み水はこれで良いの?」

「そ、そうじゃ。その裏口の横に置いてあるカメに汲んであるそれじゃ」


 するとセリアは一番綺麗そうで適当な大きさの壺に水を入れる。

 それをかまどにかける。

 そして、近くに散らばっていた薪をかまどに放り込むと、藁を適当にその隙間に入れてポーチから取り出した火打ち石でそれに火をつける。

 なんという手際の良さ。

 あっという間に燃え上がり、しっかりと薪にも火がついていった。


「野菜は他にもあるの?」

「あ、ああ。そのカメの横に積んであるのがそうじゃ。食べ物は商人が来てそこへ置いてくのじゃ」


 言われたところには、こんもりとした山の上にゴザのようなものが被せられている。

 それをセリアがどけると、様々な野菜や干し肉などが無造作に置かれていた。

 そこからあれこれと手に取り選別するセリア。

 その中からニ、三種類くらいを持ってかまどの方へ戻り、ナイフでそれらを一口大に切って沸騰した壺の中へ入れていく。

 そして、しばらくじーっと壺と火を見比べるセリア。

 そんな様子をじーっと扉の陰から見ていた俺とルル。


「出来ました!」


 ついに完成したようだ。

 セリアが木製のスプーンで皿によそっていく。


「シンプルな野菜と塩漬け肉のスープです! パンと一緒にどうぞ!」


 渡された皿を覗く。

 そこにはニンジン、玉ねぎ、じゃがいもといった野菜とベーコンのような肉がたっぷり入っていた。


「おお! 美味そう! いただきますっ!!」


 スプーンで口へと流し込む。


「う、美味い!! シンプルだけどなんか懐かしい感じ!」


 ベーコンの塩気が丁度良く、脂の旨味と野菜のダシがほんのりと効いたとても優しい味だった。

 ルルも俺の反応を見て恐る恐る口にする。

 その瞬間、また目をまん丸に見開いたかと思うと今度はトローっと頬を緩ませる。


「なんじゃコレは……。なんという至福……」

「お二人のお口に合ったようで良かったです」


 そう言ってセリアがにっこりと微笑む。

 これが女の子の手料理……。

 俺は何て幸せなんだ。

 そして、あの笑顔。

 

 ――最高の調味料だ。


「ところでルル。料理知らないって今までどういう生活送ってたんだ?」


 もう既に一杯目をたいらげ、おかわりしているルルに俺が尋ねる。


「……わたしはここで物心付いた時からずっと師匠と二人で暮らしていたのじゃ。師匠に魔法を教わり、ほとんど外に出ることもなく、ずっとここにおった」

「外に出たことないのか!?」

「……そうじゃ。師匠の出す食事はいつもあんな感じじゃった。とにかく研究しか頭にない人なんじゃ」

「なるほどね。まぁ、そういう研究熱心な変わり者は実際いるからな。それで? その師匠って方は?」


 するとルルはスプーンを動かす手を止め、視線を落とす。


「1年前、研究中の事故で次元空間に吸い込まれたまま……」

「……そうか。ああ、それで異世界のことを?」


 ルルは力なく笑って見せる。


「阿呆だと思うじゃろ? だが、わたしは諦めない。次元転位の研究を必ず成功させ、師匠を絶対に探し出すのじゃ」

「誰がアホなもんかよ。お前のたった一人の家族だろ? これも何かの縁だ。俺の出来ることなら力になるぜ」

「トウマ……」


 すると急にローブの袖で目元をこするルル。


「……フッ、お前さんは不思議な奴じゃ。初めて会ったというのに」

「私も研究のお手伝いは出来ないかもしれませんが、家事や料理だったらいくらでもやりますよ!」

「セリア……。二人とも、ありがとう……。二十年近く生きてきたが、お前さんたちのような暖かい人間は初めてじゃ……」

「に、二十年!?」

「年上だったんですか!?」


 まじまじと見直すが、その小柄な身体に幼い顔立ちはどっからどう見ても少女だ。


「やっぱり食生活でしょうか?」

「いやぁ、外に出てないっていうのも一因じゃないか?」

「う、うるさい! 人を見た目で判断するんでない!」


 二十年近くってことは19歳くらいってことか。

 改めてなめ回すように見つめる。

 

 ――つまり、合法って訳か。

 

 いや、結婚がね。


「まぁ、とにかくこれから世話になるよ。よろしく」

「家事は任せてください!」

「うむ」


 俺たちは握手を交わす。

 そうしてその後、俺たちは二階の部屋を使わせてもらうと、すぐにベッドへと潜り込んだ。

 今日は本当に疲れた。

 なにせ死んで生き返って、また死にかけてるんだ。

 今夜は死んだように眠るにはぴったりの日だよ。

 そんなくだらないことを考えている内、俺の意識はドロドロと溶けていくのだった。


『マジック&ウェポン』

~決闘の掟~

野菜は食べ物

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